3「女の子拾いました」②
「……たべて、いいの?」
「もちろんだよ。熱いからきをつけて食べてね」
少女は、簡易テーブルに乗る切り分けた厚切りの牛肉と、野菜とミルクのシチュー、そしてパンを見て、ごくり、と喉を鳴らした。
レダが笑顔で見守っていると、恐る恐る手を伸ばしてスプーンを握ると、シチューをそっと口に運ぶ。
「――――っっ」
なにやら衝撃を受けた顔をすると、少女は次々とシチューを口に入れていく。
(よっぽどお腹が空いていたんだろうな)
続いて、パンをちぎって口に入れ、咀嚼して飲み込むと大きな息を吐き出した。
少女が次に目をつけたのは、焼きたてで熱々の牛肉だ。
食べやすいように一口サイズに切り分けてあるので、少女はフォークにさして口に運ぶだけ。
「んっ、――っ、んく」
上質の肉は柔らかかったようで、あっという間に飲み込んでしまった。
先ほどまで感情のなかった少女は、見るからに顔を輝かせて食事を続けた。
彼女を見守っていたレダも、冷めない内に食べることにした。
まず、シチューはごろごろした野菜は柔らかく、味付けもちょうどいい。
疲れていたこともあって塩っけが体に染みわたっていく。
パンと交互に食べていたらあっという間に皿が空になってしまった。
そして、メインディッシュとなる牛肉だ。
「――うまっ」
商人が「お礼です」といってくれただけはある。
肉質はよく、程よく脂も乗っていて、なによりも柔らかい。
噛めば噛むほど肉汁があふれ出てくるので、もっと食べたいと思ってしまう。
あっという間に、すべてを食べ終えたとき、丁度よく少女の食事も終わった。
「……あの、ごちそうさま、でした」
「いいえ、どういたしました。ところで」
「……は、い」
「少しだけでいいから質問に答えてくれるかな?」
「わかり、ました」
レダの質問に、少女は恐る恐る頷いた。
まだ警戒心があるのは仕方がないことだ。
極力、彼女を怖がらせないようにして、レダは質問を続けた。
「ご飯が先になっちゃったけど、まず自己紹介をしよう。俺はレダ・ディクソン。一応、冒険者だよ。三十歳だけど、お兄さんと呼んでくれると嬉しかな。君の名前は?」
「……わたし、は、ミナ、です」
「じゃあミナ。ご両親はいるかな?」
ミナと名乗ってくれた少女は弱々しく首を横に振った。
(そっか。孤児か。最近は戦争らしいものはないから、モンスターに集落を襲われたと考えるのが一番かな?)
「どこかいく当てはあるかい?」
またしても少女は首を振った。
「うーん、じゃあ俺と一緒にくるかい?」
「――え?」
ミナは驚いた顔をして、レダの顔を見上げた。
そんな少女に笑ってみせる。
「俺はここからしばらく歩いたアムルスって町に行くんだけど、その途中で小さな町にもよるんだけど、君を知っている誰かがいるかもしれないし。ほら、女の子をひとりで放っておくことなんて俺にはできそうもないんだ」
うまく言葉が出てこず、頰をかきながら、言葉を紡いでいく。
「この辺りはモンスターもでるし、子供がひとりでいるには危険だよ。俺たちはお互いに会ったばかりで信用も信頼もないかもしれないけど、一緒に少しだけ旅をしないかい?」
じっと見つめてくる少女と目を合わせ、言いたいことを言った。
とてもじゃないが、こんな人気のない場所に女の子をひとり残して置いていけるわけがない。
もしミナが自分と一緒にいたくないと拒んだとしても、せめて近くの町までは無理にでも一緒にいようと考えていた。
「……いいの?」
「もちろんだとも」
「どうして?」
「え?」
「わたしのこと、なにも、しらないのに、どうして、やさしく、してくれるの?」
たどたどしい言葉使いながら、ミナが必死に疑問を打ち明けたのがわかった。
ゆえにレダも本音で応える。
「たいした理由なんて実はないんだ。俺は大人だからね。君みたいな子供を放っておくことはできない。そんな些細な理由だよ。それに」
「……それ、に?」
「困ってそうな女の子を見たら無条件でなんとかしてあげたくなるだろう?」
特別な理由なんてない。
困っている子供がいれば、大人は無条件で手を差し伸べるべきだ。
レダは今までそうしてきたし、これからもそうあり続ける。
「だから少しの間でいいから、俺にミナの面倒を見させてほしいんだ」
目を逸らすことなく本心を打ち明けたレダに、少女は頷いてくれた。
「……よかったぁ。それじゃまず、君の足を治療させてほしいんだ。痛いだろ?」
「え? うん、でも、お薬、ないし」
「大丈夫。回復魔法が使えるから、さっと治しちゃうよ」
実は、できることならまず治療をしてあげたかった。
しかし、いきなり彼女の足に触れるわけにもいかず、まず食事で警戒心を解こうとしたのだ。
「痛い思いをさせてごめんね。ほら、足を出して」
素直にこちらに向けてくれた少女のか細い足を膝の上に乗せると、
「この子の傷を癒せ――回復」
暖かな光がミナの両足を包んでいく。
「わぁ……すごい、もういたくない!」
彼女が驚いている間に、血でにじんでいた足はあっという間に綺麗になった。
回復魔法に目を輝かせているミナが、少しは元気を取り戻してくれたことにレダは安心した。
その後、体を冷やさないために蜂蜜入りのお茶を飲ませ、夜が更けてくると、狭いテントの中で一緒に眠ることにした。
「おやすみ、ミナ」
「うん……おやすみなさい、レダ」
二重に毛布をかけてあげた少女は、ようやく柔らかな笑顔を見せてくれた。
見知らぬ人間と一緒に寝ることに抵抗があるかなと気にしていたレダは、ほっと安心する。
二人は、お互いに身を寄せ合いながら朝までぐっすり眠ったのだった。
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