これから

あの後、弟、妹の美紀、慶介、亜美が俺のお見舞いに来てくれて、大学が終わった翔祐が息を切らして俺の病室に入ってきた。

誰を見ても何も思い出せないままだった。

俺が倒れた直後の発砲音は島岡っていう俺の協力者の物だったようだ。翔祐と島岡が俺の助けてくれたようだ。

アフリカでは神になり、太平洋では、アメリカ海軍、空軍との戦いは怪我人ゼロの戦争となり、特殊能力大戦となったそうだ。

そして、最後の能力者の女の子は、世界平和条約を結ぶきっかけとなったスピーチをしたそうだ。

お陰で、この世界には戦争と言う概念は消え去り、戦争のない平和な世界になった。

「思ったより、元気だったみたいだね」

病室にノックもないしに入ってきた女性。

「か、かあ‥‥‥さん?」

俺は零すように言った。

「そうだよ。君の実の母親‥‥‥今、母さんって言った?」

「真一君!思い出したの?」

俺は優菜を見た。次に翔祐、美紀、慶介、亜美。

そして、どこから流れてくるようにフラッシュバックのように脳に何かが流れ込んできた。

―—これは‥‥‥俺の、思い出‥‥‥。

俺は急いで近くにあった俺の荷物を探った。

すると一冊のノートが出てきた。

最初からページをめくって一枚一枚丁寧に、読み返す。

「はぁ‥‥‥」

俺はため息をこぼした。

何も思い出せなかった。

確かに記憶は流れ込む様に入ってきた。でもまるで他人の記憶を覗いているみたいで、自分の記憶と確信が出来なかった。

「ダメみたい」

俺はみんなに言った。

「というか、お母さんが生きている事に驚いてよ!」

母さんが拗ねるように言った。

いや、もう拗ねてるか。

「本当に兄さんを見送った後に帰ってきたときは驚いたよ」

翔祐が呆れたように言った。

「お母さん、部屋の掃除して待ってた」

慶介が言った。

翔祐が言うには

       ************

「ただいま~」

静まり返った家。いつもなら兄さんが迎えてくれる家は空しいくらいに静かだった。俺たちは靴を脱いでリビングに入った。

「手、洗っておいで」

俺が弟たちに言うと、みんな

『はーい』

と声を合わせて洗面所に行った。

僕は持っていたカバンを床に置いて上着をハンガーにかけていると

「あ、お帰り」

ひょっこりと顔を出して言ってきた母さん。

「うん、ただいま。母さん」

俺は何も考えずに応える。

そして、洗面室に自分も手を洗おうとしたときに気が付いた。

「ん?俺、ただいま、母さんって言った?まさか、ここに帰ってくる母さんって誰だよ、って母さん!」

俺は驚く。

どこからどう見ても母さんだ。兄さんの母さんだ。

俺は急いで、母さんの写真と今いる母さんを見比べる。

「どうして生きてるの?まさか幽霊?」

「私は死んだよ。でもそれは戸籍上ね。私も能力もちでね、人体実験させられるところだったの。それで死んだの」

「ならなんでもっと前に来ないの?兄ちゃん、今能力を消そうと飛行機に乗っちゃったよ!」

「安心して、真一にちゃんと能力渡したから」

「渡した?」

「そう、渡したの。この前、真一が彼女さんと墓に来てたのよ。で私はと言うと、自分の墓がどうなっているか気になって見に行ったの。そしたらたまたま出くわしちゃって」

「じゃあ、兄さんは知ってるの?」

「分からない。あの時は気づいてなかったと思うけど、今頃気づいていると思うよ」

適当な事を言う母さん。

兄さんに聞いていたけど、本当に適当だな。

       ************


それが翔祐の母さんに対する第一印象だったそうだ。

つまり、母さんは墓場で僕に能力を奪わせたそうだ。

どうやったかは自分では分からないそうだが、なぜか勝手に吸収されたそうだ。

「まあ、元気だし、今から退院して、どこかに行くか」

とまたとんでもないことを言い出す母さん。

「さすがに無理だろ」

「ああ、さっき検査してもらったときに、今すぐに退院してもいいって言っていたよ」

なんでもありだな、この母さんは。

俺は呆れ気味でそう思った。

「そうだ。退院祝いに写真を取っておこう。英雄は今日でおしまいだからね」

島岡が嬉しそうに言った。

「そういえば研究会はどうなった」

「もちろん潰したよ」

即答で帰ってきた。

俺たちは病院を出て、ある桜の木に下に集まった。

「じゃ、いくよー!」

島岡が手を振る。

「あ、その前に。真一君!何か一言!」

「本当に、突然だな」

俺は唐突すぎる島岡の発言に呆れた。

俺はしばらく考えた。

「そうだな。これからが楽しみだ」

俺はカメラに向かってそう言い放った。

「そうだね。これからがだよね」

優菜は俺の手を握った。

俺はその手を強く握り返す。

「真一君、お帰り」

裕奈は涙を流し微笑みながら言った。

俺は何気なく

「ただいま」

そう応えた。

「いくよー!ハイ!チーズ!」


写真には、たくさんの人たちの笑顔であふれていた。中心に立つ、一人の英雄。その英雄をこれからもずっと守る彼女。

二人は手を強く握り、彼女の薬指には英雄がしていたリングが反射していた。

そして、英雄の物語は幕を閉じた。

                       END

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救命特殊能力 —少年日記ー   慶田陽山 @yozan-yoshida

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