あなたは‥‥‥

涼しい風が俺の頬を撫でる。

俺はそっと目が開いた。無意識に開けた。随分と長く寝てしまったようだ。

俺はカレンダーを探す。

ベットの横にはカレンダーが合った。電子化していた。

二〇三六年

そう表示されていた。

約数週間。俺は眠りについていたのだろう。

あの決意をしてから三年が経ち、数週間の眠りで俺は二〇三六年の桜が咲く時期に目を覚めた。

本当だったら俺は就職して初めて社会人として働き始めているのだろうな。

桜の花びらが窓から入ってきた。

俺はその花びらを手に取る。

「しん‥‥‥いち‥‥くん?」

声がした。

俺が振り返ると一人の女性が立っていた。

「真一君!」

彼女は俺に抱き着いてきた。

俺はどうしたらいいのか戸惑ってしまう。

彼女の暖かさが感じた。

彼女は俺の事を心配してくれたのだろう。

「よかった!本当に良かった!」

彼女は俺から離れて椅子に座った。

「ごめんね。急に抱き着いちゃって」

「別に構わないよ。俺を心配していてくれたんだから」

俺がそう言うと、彼女は戸惑いを見せた。

「しん‥‥‥一君?」

「ところで」

彼女の微かな声は俺には届かず、逆に俺は尋ねる。

「君は、誰かな?」

そう言った瞬間、彼女は息を飲んだ。

どうしたのだろう。気になって彼女の様子をうかがう。

伏せてしまった顔を覗き込むと、彼女は涙を零していた。

「あ、あの‥‥‥」

どうしたらいいか、俺はまた慌てる。

「仕方がないよ」

彼女は零すように話し始めた。

「沢山の能力を奪い、たくさんの病気を治してきた。脳に場メージがあってもおかしくない。記憶喪失になってもおかしくないよ」

彼女は俺に言っているように聞こえなかった。

自分に言い聞かせるように、現実から目を背けるように。

「ごめん、傷つかせたみたい」

俺は謝る。

なぜ俺は彼女を傷つけたのか分からない。

「あなたは?」

俺が尋ねると彼女は涙を引っ込めて

「私は坂本優菜、あなたとは高校三年生のちょうどこの時期に出会い、そのころ私はは特殊能力による重い病気を持っていました。そして、私は真一に告白をし、真一君は私に告白をして、私たちは恋人関係になりました」

「つまり君は俺の恋人?」

「そうですね。もちろん今後も期待はしています」

なるほど、俺は記憶喪失になり彼女の事を忘れてしまった。

彼女とは恋人関係。今後も、という事は俺は彼女と夫婦関係になることになる。だが、まだプロポーズをしていない。

「優菜、結婚しよう」

「今ですか⁉」

驚く彼女。

「違った?」

「いえ、そりゃあ嬉しいですけど、優先順位は自分の体調だと思いますけど」

「別にもう治っているさ」

俺は違和感を感じた。

いつもかかっているはずのネックレスが

「ない‥‥‥ない、ない、ない!どこにも」

「何を探してるの?」

彼女が俺を落ち着かせる。でも落ち着いていられない

「ネックレス。大事なリングに紐が通ったネックレスが」

「これですか?」

と彼女がカレンダーの近くから手に取った。

「よかったー」

俺は安心した。

「ありがと」

俺はそれを受け取って首から掛ける。

「それ、ずっと持っていたんですね。翔祐君に聞きました。助けに行ったとき、倒れていてもずっとそれを握ってていたって」

彼女は俺に聞く。

「これはお守りなんだ。ある人がおばあちゃんから守られていた物。その人から見れば形見だね。それを持っていた人はずっと守られていたんだよ。そして今度は僕が守られたんだ」

俺がそう言い終え、彼女の見た。

俺は驚く。

彼女が涙を流していた。

「ごめん、また傷つけてしまった」

僕はすぐに謝った。

「違う‥‥違うの。これは‥‥‥嬉しくて」

彼女は涙を何度も何度も拭っていた。

だが一向に涙が止まる気配はない。

俺は彼女の頬を撫でるように涙を拭ってあげた。

「ごめん。泣かないで」

俺はそっと彼女に言った。

「無理だよ。無理だよ、こんなの」

彼女の涙は一向に止まらない。

どうしたらこの涙が止まるだろうか。

どうしたら止められるだろうか。俺はふとリングに目をやった。

そうか‥‥‥

俺は彼女のネックレスを掛ける。

「え?」

驚く彼女。

「今度は俺が優菜を守るよ」

彼女はネックレスのリングをぎゅっと握り

「ありがとう」

最後の雫が彼女の頬を伝って、下へ落ちて行った。


桜が舞った、その時に‥‥‥

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