大事な人への報告

「久しぶり母さん・・・元気にしていたかい?」

俺はそう、俺の母の墓に話しかけた。

―ええ、元気だよ!真一も大人になったね。

俺は母さんの声が頭の中で響いた。もちろんこれは幻聴だ。俺がそう感じているだけで、実際、誰も話ありしていないし、まず、ここには誰もいない。

俺がいつも母さんに会いに行くとこうなる。俺は死んだはずなのに、母さんは俺が話しかけたら、答えてくれる。

「ありがとう。それより、報告しないといけない事が有って・・・」

――別に言わなくて、良いよ。私は真一のお母さんなんだから、分かるのよ。ずっと見てる。いや、見せてくれているよ。

「そうだったね」

俺はいつもお守り代わりに持っている、ネックレスを取り、墓に乗せた。

「お母さんに会いに来たの?」

俺は慌てて振り返った。そこには家で寝ていたはずの彼女がいた。

「ごめん、起こしちゃった?」

「まあ、そうだけど。でも、真一君がこんな時間に行きそうな場所なんて、ここくらいかなって、思っていたから、そのまま寝ようかと思ってた。けど、私もそんなにお母さんに会ってないから、ついてきた」

彼女は素直に答えてくれた。そういえばお母さんは彼女の事を知らないな。

「母さん、彼女は坂本優菜さんだ。俺の恋人だ」

俺は母さんにそう言った。

―知っているわ。かわいい子ね

「はじめはして、真一君のお母さん。私は真一君とお付き合いさせてもらっています、坂本優菜です」

それに対して、お母さんは

―まあ、礼儀正しい子ね。母さん嬉しい。真一、本当にいい子を見つけたわね。

「ああ、良い人見つけたよ、母さん」

俺は本当に嬉しそうな母さんに言った。

「じゃあ、お線香あげようか」

そう彼女が言ったので俺はあらかじめ持ってきた線香に火をつけて、添えた。

俺が初めに手を合わせた。その後彼女が手を合わせた。

「じゃあ、そろそろ行くわ。また来るよ」

―いつでも、着て頂戴。待っているから。

「それと俺、頑張るから。絶対この世界を救から・・・だから、応援してくれ」

―そんな事、言われなくてもしてますよ。頑張りなさい。

「ああ」

俺はそう返事をした。

俺と彼女は家に戻ろうとした。墓場では振り向いてはいけないが、俺は振り返ってしまった。そして、俺は声を失った。

俺が立ち止まっていることに気が付いた彼女は俺が何を見ているのか気になったみたいで、俺の視線の元を見た。

「お母さん?」

そう、彼女から声が漏れていた。

どうやら、母さんが見えていたのは俺だけではないようだ。

ちょうどお母さんの墓の前の道に母さんが立っている。そして、大きく手を振り始めた。

「優菜さん!真一を任せたわよ」

彼女は言葉を失っている。俺もだ。なんせ俺は今まで自分で作り出した、母さんが彼女にも見え、声も聞こえているみたいだからだ。

「真一、諦めちゃだめよ。母さんは真一を最後まで応援しているから。この世界を救ってちょうだい。頼んだわよ」

「母さん・・・」

母さんの声は俺の耳までしっかり聞こえた。これは幻聴なのか分からなくなってしまった。

「いってらっしゃい!」

母さんがそう言った瞬間、強い風が吹いた。俺と彼女は目を瞑ってしまった。

風がやみ、俺と彼女はゆっくり目を開けた。母さんはいなかった。

「真一君は私に任せてください」

彼女はそう言った。なら、俺が言う事はただ一つ。母さんに絶対に言わなきゃいけない事。それは

「いってきます!」

そして、俺たちの戦いはまた、始まった。


少年のこの日の事をこう書いていた。

久しぶりに母さんに会いに行った。俺が見る幻覚の母さんはいつもどうり元気だった。優菜も俺と線香をあげてくれた。

いつもは一人で来るのに、誰かと来るのは初めてかもしれない。

帰るとき、俺は振り向いたときに、いつもは墓から動くことがなかった、母さんが俺を見送ってくれた。しかも、優菜にもそれが見えたみたいだ。

母さんの姿はすぐに消してしまった。不思議だった。

でも、母さんは俺の背中を支え、押してくれた。それだけが確かだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る