考作慎吾

第1話

 軽快な電子音によって僕の意識は夢から現実へ引き戻される。手探りで音の正体を掴み、寝ぼけ眼でそれを見る。手に取ったスマホにはアラームと表示されており、今の時間を表示している。僕はスライドしてアラームを止めると大きく伸びをして起き上がる。本当はまだベッドで横になり「あと5分…」と二度寝をしたいのだが、自分で起きないとあの子が部屋に入って来る。

 僕はカーテンを開けて窓を開けると暖かな日差しを浴び、爽やかな風が部屋に入る。今日はいい天気になりそうだな、と考えていると背後のドアからノックが聞こえた。


「お兄ちゃん、起きてる?」

「おはよう、光莉ひかりちゃん。起きてるよ」


 僕が返事をすると部屋のドアがゆっくりと開いて少女が顔を覗かせる。まだあどけなさが残る少女は僕と目が合うと嬉しそうに笑う。


「おはよう、お兄ちゃん。お母さんが朝ご飯が出来たって言ってたよ」

「分かった。着替えたらすぐ行くよ」

「うん」


 僕が小さく微笑むと光莉ちゃんは頷いて継母のところへ走って行った。僕は彼女が去った後、弧を描いていた笑みを苦虫を噛み潰したような表情に変え、大きく息を吐いた。あんな小さな子でも駄目だなんて、本当どうにかしている。

 僕はパジャマから制服に着替えながら険しい顔をなんとか通常通りに戻す。

 継母は事情を知っているが、光莉ちゃんは知らないんだ。だから妹の彼女を傷付けることはしたくない。

 僕は深呼吸をしてから部屋の扉を開けてリビングに入る。


「おはよう」

「おはよう、しょう君」

「お兄ちゃん。早く食べよう」


 僕が作り笑いを浮かべて挨拶すると、料理を机の上に運んでいた継母と先に席に付いて僕を手招きする光莉ちゃんの姿があった。

 本来ならば幸せな家族の光景となるのだが、僕にとっては地獄でしかない。

 僕は女性恐怖症だ。


(そして、何故か俺には女の額から角が生えて見えるからだ。)


 僕は百瀬ももせ財閥の一人息子として生まれた。幼い頃に母を事故で亡くし、父の本妻の座を狙って見知らぬ女が次々と僕に近寄って来た。


(物心ついた時には女から角が見えていた。歪で禍々しいそれは本来あるものに見えなくて、母を亡くしてから大勢の女が近寄って来る様は鬼の群れに追いかけられているようだった。)


 危うく誘拐一歩手前までいく騒動が起き、それ以来僕は女性が恐くて仕方がない。


(一度、父の金を狙う女に拐われた事がある。欲に塗れて笑う女とその反動で揺れる角がこの世の物とは思えない程グロテスクだった。今までは『女に角が生えているもの』が当たり前だと思っていたが、その日を境に受け入れられなくなり、恐怖で震えてしまう。)


「お味はいかがかしら?」

「とても美味しいです」

「あら、それは良かった」


 確かに料理は美味しいのだが、正面に座っている継母に視線を合わす事が出来ず、料理に視線を向けたまま答える。


「今日はね、私も手伝ったんだよ。卵焼きなんだけど、どうかな?」


 光莉ちゃんにせがまれて僕は卵焼きを口に運ぶ。少々焦げているが、甘みがあり美味しく出来ている。


「美味しいよ、光莉ちゃん」

「ふふっ、私頑張ったんだよ」

「そうか。偉いね」


 僕が光莉ちゃんの頭を撫でようとして、手が固まる。過去の記憶が光莉ちゃんを撫でるのを拒否する。


(光莉ちゃんの鋭い角に当たりそうで撫でるのを躊躇う。)


「将君、そろそろ出ないと遅刻するわよ?」

 そんな僕の心境を読んだのか継母が机の上に置いている時計を見ながら声を掛ける。

「本当だ。そろそろ行かないと」


 僕は心の中で継母に感謝をしながら席を立つ。机の横に置いていた鞄を手に取り、玄関に向かう。


「それでは行ってきます」

「いってらっしゃい!」


 二人の明るい声に見送られて僕は家を出て、学校へ向かった。


 ***


「おはよう!将」

「おはよう、シンヤ」


 元気よく明るい声を掛けられて振り向くと、幼なじみのシンヤが駆け寄って来た。

 僕の頭一個分背の低いシンヤは側まで来ると少し顔を上げてニッコリと笑うので、つられて僕も微笑む。


「今日の一限目の自習って、文化祭の出し物を決めるんだっけ?」

「担任の先生が出張だから皆で決めてと言っていたな。シンヤは何か候補はあるか?」

「候補?そうだな……。あ、喫茶店やりたいな。お菓子作るの好きだし」

「シンヤのお菓子は絶品だからな。喫茶店に出したら繁盛するな」

「そ、そんなことないよ!将は大袈裟だな!」


 僕の言葉にシンヤは顔を真っ赤にさせて否定する。


「本当のことなんだけどな。シンヤが部活で作った余りをくれるけどどれも美味いし、光莉ちゃんも喜んで食べているけど?」

「も、もう。そんなに褒めても違うって…、わっ!」


 僕の言葉に気を取られていたシンヤは石につまづいてよろめいた。


「危ない‼︎」


 僕が手を伸ばしてシンヤの腕を掴むと、なんとか踏みとどまりシンヤは転ばずに済んだ。しかし、シンヤは掴まれた腕を見ると赤かった顔をだんだんと青ざめていき、振り解く勢いで手を離すとその勢いのまま僕に頭を下げた。


「ごめん、将!私の不注意でこんな事をさせてしまって‼︎」

「へ、平気だよシンヤ。ほら、顔を上げて」

「本当にごめん‼︎」


 僕の声を遮るように高い声が何度も謝罪する。シンヤ……、いや齋藤真矢さいとうまやは僕が心を許せる唯一の女性だ。

 幼少期の僕が女性恐怖症になり、怯えて誰とも話せなくなった僕に救いの手を差し伸べてくれたのが彼女だった。


『将!』

『ヒッ!』


 今まで仲良くしていた幼なじみだが、あの事件以降彼女も信じられない。僕は少しでも恐くないように目を閉じて両手で耳を塞ぐ。


(あんな気持ち悪いモノに関わりたくない。もう放って置いてほしい。)


『将、こっち向いて!』

『い、いやだ‼︎』

『いいから向いてってば‼︎』

『や、やめてよ!』


 肩を掴まれて強引に向きを変えられた僕は慌てて彼女を突き飛ばす。


『キャ!』

『ご、ごめん!…どうしたの、その格好』


 突き飛ばされて後ろに転んだ彼女の声に僕が目を開けると、いつもと違う格好をしていた。いつもは可愛いフリルの付いたワンピースやピンクや白の服を着ていたのに、今はジーンズに黒のパーカーと彼女の好みからかけ離れている。


(彼女の角さえなければ、男に見える格好だ。)


『へへ。似合う?お母さんに買って貰ったの』

『で、でも真矢ちゃん、スカートの方が好きだったよね?』

『シンヤ』

『え?』

『私は今日から真矢じゃなくてシンヤだよ。女の真矢じゃなくて将の友達のシンヤだよ!』


 彼女はパーカーのポケットから帽子を取り出し、それを被って長い髪を綺麗に収める。


(髪と帽子のおかげで角が見事に隠れて、俺の恐怖心が和らいだ。)


『この格好でもまだ恐いかもしれないけど、少しずつ慣れていこう。私はこれからも将と友達でいたいから!』


 優しく微笑む彼女に僕の視界は歪み、いつの間にか頬に温かい滴が流れていた。


『将、ごめん。やっぱり恐かった?』

『ううん。違うよ』


 泣いている僕にオロオロと心配する彼女に首を横に振って涙を拭う。


『ありがとう、シンヤ』


 笑って応える僕にシンヤも嬉しそうに微笑んだ。

 だからシンヤは今でも男子生徒の制服を着て、スポーツキャップをしっかりと被って髪を隠している。


(帽子を被ると角は膨らみで存在を主張するものの、隠れている為か嫌悪感はあまりない。)


「ほら、僕がもういいって言ってるんだから気にしないで」

「でも……」

「僕達、友達だろ。僕の言葉を信じてないの?」

「う、ううん。そんなことはないよ!」

「じゃあ、この件はこれでおしまい。ほら、そろそろ学校へ行かないと遅刻するぞ」

「ほ、本当だ!急ごう、将」


 シンヤが謝罪を繰り返しているうちに時間は走らないと遅刻する時間になっていた。僕達は一斉に駆け出し、学校へ向かった。


 ***


 教室前で立ち止まり、僕達は乱れた息を整える。


「なんとか間に合った……」

「朝から疲れたー。早く席に座りたい」


 落ち着いてから僕は扉を開く。


「百瀬く〜ん♡おはよう〜♡」


 間延びした猫撫で声と同時に一人の女生徒が僕に向かって抱きつこうとする。


「ひっ‼︎」


 僕は咄嗟に後退りをして女生徒の手から逃れ、廊下にへたり込む。


(あのまま飛び込んで来たら女生徒の角が俺の胸に刺さりそうだった。それを想像すると膝がガクガクと震える。)


「んも〜、避けなくてもいいじゃな〜い。百瀬くん、シャイなんだから♡」


 可愛い顔立ちとそれに合ったメイクを決めている女生徒は空振りした両手で腕を組み、胸を強調するように言う。シャツは第二ボタンまで外れており、ほんの少しだが派手な色のブラジャーが覗いている。僕は途端に気分が悪くなり、必死に目を背ける。


(女生徒の額には他の女よりも大きめな角が生えている。可愛い顔に不釣り合いなソレはあまり直視したくない。)


「おはよう、早乙女さおとめさん。朝っぱらから将を困らせないでくれる?」


 僕の目の前に立ちシンヤが女生徒に向かって声を掛ける。


「あら。男女のシンヤちゃん、おはよう。私と百瀬くんの邪魔をしないでくれる?」


 ハッと小馬鹿にしたように早乙女さんはシンヤを睨む。


「へー、将は女性恐怖症だから過度な接触はやめるよう注意していたけど、あなたの空っぽな頭には残っていないようね」

「女がダメならと男の格好をして百瀬くんに擦り寄る女よりマシだけど?」

「擦り寄ってない、私は将と友達だ。馬鹿の一つ覚えみたいに甘えた声で将に近くのはやめて。トラウマを抉るつもり?」

「ショック療法を知らないの?うわ、遅れてるー。駄目なら慣れるようにしてるだけよ?」


 両者の目から火花が散りそうな程睨みつける二人に僕が固唾を飲んで見守るしか出来ない。


「百瀬、百瀬。こっちだ」


 小声で誰かが僕を呼びながら肩を叩く。叩かれた方を振り向くと、人の良さそうなイケメンの男子生徒が心配そうに僕を覗き込んでいた。


「み、三好みよし君。おはよう」

「おう、はよ。あっちの扉から入るぞ」


 三好君は二人の口喧嘩をちらりと見やると、反対側の扉を指差して連れ出す。


(俺に親切にしてくれる彼だが彼の額にも女には劣るが、何故か角が生えている。時々男性でも生えている人がいる。そういう人にもなるべく近寄らないようにしているが、彼の人柄のおかげが角が生えていても、あまり嫌悪感はない。)


 三好君に手を引かれて反対側から教室に入り、窓側の一番角の席に座る。その隣に三好君が座り横で当人がいない口論をまだ繰り広げられている。


「相変わらずだな」

「シンヤは僕の事を思って言ってくれてるんだ。早乙女さんに言い返せない僕が言うのもなんだけど…」

「しょうがねぇよ。駄目なもんは駄目で悪くないって。百瀬のおかげで俺は助かってるんだぜ?」

「僕のおかげ?」

「おう、ほら」


 三好君は自分の背後を親指で刺すと少し離れた位置に女生徒達の人だかりが出来ている。


(角を持つ彼女達を薄目で確認し、俺は明るく努める。)


「あれは?」

「俺のファンみたいだけど、お前が女性恐怖症だから少し距離置いてくれって頼んだんだ。俺も毎日囲まれるのは正直しんどい」

「三好君、サッカー部のエースだからね。僕なら地獄かもしれない…」


 小声で話す三好君に僕は彼の状況を自身に置き換えて身震いする。


「だから少しの安らぎをくれる百瀬にはホント感謝してる」


 ギュッと抱き付く三好君に僕は女生徒達の視線が刺さり、離れようとする。


(小さいが角が俺に当たりそうで内心ヒヤヒヤする。)


「三好君、離れて。視線が痛い!」

「ああ、悪い。ついな」


 僕が抗議すると三好君はパッと離れてくれる。スキンシップが多めな彼は度々このような行動をとる。


「楽しそうだな。二人共」


 そんな僕達に口論が終わったのかシンヤが僕の前の席に座る。


「なんだ、終わったのか?」

「チャイム鳴って一限目が始まったのに気付かなかったの?委員長が文化祭出し物の案を聞いてるけど」


 シンヤが指を差す先に一人の女生徒が立っている。


「それでは文化祭の出し物を決めようと思います。誰か意見はありますか?」

「は〜い♡」


 黒板前に立ち意見を求める委員長に、間延びした早乙女さんの声と手が上がる。


「はい、早乙女さん」

「これは提案じゃなくて、決定事項なんだけど〜『女装・男装喫茶』をうちのクラスでやりま〜す!」


 早乙女さんは鞄から一枚の紙を取り出して大きく掲げる。それは申請書と書かれており、赤い印鑑で『承認』と押されている。


「え、ええ⁉︎」


 委員長は慌てて早乙女さんから紙を奪い取り、内容を読んで青ざめる。


「ちょっと、何で勝手に決めてるんですか⁉︎」

「勝手じゃないよ〜。よく見て、うちのクラスの過半数が賛成しているサインが入っているでしょう?」

「でも……」


 早乙女さんの言葉に委員長がオロオロしていると、シンヤが席を立ち委員長の側に行って横から申請書を確認する。


「これ、あなたの取り巻きとファンだけのサインじゃない!…何を企んでいるの?」

「全部百瀬くんの為だよ♡」

「え、僕⁉︎」


 申請書のサインにシンヤが早乙女さんを睨むが、そんな視線を気にせず彼女は僕に微笑む。


「そう♡女が駄目ならまず平気な男に女装をさせて慣らせばいいのよ。そうすれば女性の恐怖心が和らぐはずだわ。アンタとは逆の発想よ」


 早乙女さんはシンヤを指差して不敵に笑う。


「もう生徒会に許可取ったから、うちのクラスの出し物はこれで決定ね」

「はあ?ふざけんなよ」

「誰が女装なんかするか!」

「早乙女、調子乗りすぎだぞー」


 早乙女さんの言葉に一部の男子が抗議する。しかし、早乙女さんが抗議する男子達を集めて小声で何かを話すと掌を返すように口々に言う。


「まあ、思い出作りにいいんじゃない?」

「そうだな、これに賛成すれば可愛い斎藤さ…んんっ!いや、カッコいい女子の姿も見れるしな」

「ギャップ萌えってやつ?俺は賛成だな」


 そして数人はチラチラとシンヤを見てニヤついている。


「あー、早乙女の奴上手いこと纏めやがったな」

「え?どういうこと?」


 三好君の言葉に僕が首を傾げると男子達が賛成側に入った説明を始める。


「多分あいつら、斎藤さんのことを好きな奴らだ。で、斎藤さんはいつも男装しているだろう?今回の出し物で女装、もとい斎藤さんのセーラー服を見ようと考えているんだろう」

「シンヤがセーラー服…?」


 いつもの姿がしっくりしている為、シンヤがセーラー服を着ている姿が想像つかない。


「それじゃあ、早速男子達はこれを着てもらうから♡」


 早乙女が嬉しそうにロッカーの横に積んである段ボールを開き、中身を取り出す。そこには大きめのサイズのセーラー服が出て来た。


「ちょっと、どうしたんですか⁉︎これ⁉︎」

「生徒会長が提供してくれた♡会長、私の事気に入っているみたいなので頼んだらすぐに用意してくれたんだ♡」


 早乙女さんは機嫌良くセーラー服を片手に一人の男子生徒に近付く。


只野ただの〜、これ着てみて!細身のあんたならMでも入るから」

「さ、早乙女さんが言うなら…」


 少し内気の只野君は顔を少し赤らめておずおずと早乙女さんからセーラー服を受け取り、学生服の上を脱いでセーラー服を被りながら着ていく。


「スカートは…ズボンを履いたままでいいか♡まだサイズ確認だけだし」

「早乙女さん、腰がキツい。スカートの調整ってどうやるの?」

「あ、それはここのツマミを引っ張って──」


 早乙女さんに着せられながら只野君はセーラー服を着る事が出来た。ズボンさえなければパッと見どこにでもいそうな女生徒に見える。


(そう考えていると、不思議な事が起きた。セーラー服を着た直後、只野の額が割れて突起が現れた。それは女に生えている角であり、突起は徐々に姿を現して最後にはあのグロテスクな姿を晒していた。)


 女と認識してしまい、僕は気分が悪くなる。そんな僕の様子を構いもせず、早乙女さんが次々と男子達にセーラー服を着させる。


(醜悪な角は男子達が女装をすると生えてくる。どこを見てもあの角が視界に入り、吐き気と目眩を覚える。)


「おい。大丈夫か百瀬」

「うっ、僕、女装も無理みたい…」


 口元を手で押さえて吐き気に堪えていると、三好君が背中をさすってくれた。そんな僕達に甘えた声が飛んでくる。


「百瀬く〜ん♡あと、三好。二人だけだよ、セーラー服着てないの。だから早くセーラー服を着て♡」

「悪いけど、俺らは着ねぇよ。百瀬もだいぶ具合悪そうだし…」

「えー!百瀬くん、大丈夫?でも、この気持ち悪さを乗り切れば女性恐怖症を克服出来るかもしれないよ?百瀬くんも女装をすれば少しは嫌悪感を和らげることも出来るかも!」


 そう自分の勝手な理論を掲げて早乙女さんがセーラー服を持って近付いて来る。その背後には女装した男子達が僕達を見つめている。


(周囲を囲む歪な集団も気持ち悪いが、目の前の恣意で笑う早乙女と早乙女に生えている角があの時の女の姿を重なり、冷や汗が止まらない。)


 息が荒くなり、もう駄目だと僕は強く目を閉じた。

 すると──


 ***


「おい、田中。設定と小説を途中まで読んだが、お前漢字間違えているぞ」

「え?先輩、どこがですか?」


 男子生徒が十数枚の紙の束と一枚のルーズリーフを田中の目の前に置き、シャーペンの先で指し示す。


「お前、『女』の『ノ』の先部分が『一』から出ているぞ。あれは隠さないといけないからな」


 田中は先輩の言葉に首を傾げてポケットに入れていたスマホを取り出す。そして慣れた手付きで検索をかけて該当のページを見つける。


「先輩、これは出ていても問題ないですよ。今調べたんですけど、どちらでも良いそうですよ」


 田中は先輩にスマホ画面を見せて自分が正しい事を証明する。画面の内容を読んだ先輩は少し驚いた顔をし、申し訳なさそうに頭を下げた。


「そうなのか。小さい頃にそう言われて注意されたからてっきりそうだと…。すまないな」

「そうだったんですね。なんて注意されたんですか?」

「確か書道の先生に言われたんだ。『女に角を出すな。そうすると鬼になるから』ってな」


 終わり



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