「まあ、お前はあれだ。とどのつまり、俺のタイプのど真ん中をいってんだよ。ぼやっとして、ほっとけないところとかさ。かと思えば、言うときゃ言うし。……けど、オンナじゃない。気になる存在ではあるけど、さすがにそういう方向へはいかねえだろうと思ってたら、見事に起ったもんだから、まじなんだと観念した」

「……結局はそこへいくんですね」

「どこよりも雄弁だろ」


 言い切られるとなにも返せない。それに、よくよく考えてみれば自分も似たようなものだと思った。

 ソコが反応しちゃったから、本当の気持ちにも気づいて、またそれが嫌じゃないとも思った。


「俺としては、それこそ、お前がどういうスタンスでいるのかって、ちょっと悩んだ。さっきなんか、どこまでやっていいものか内心ヒヤヒヤもんだったよ。俺のアレ見たとたん、萎えるどころかゲロすんじゃねえかって……」

「いえ、そこは意外と大丈夫でした。僕も、先生をオカズにシたことあるので」


「はっ?」と、短い言葉を吐いて、逢坂先生はおもむろに仰け反った。僕に背を見せながら、ソファーの肘掛けを掴む。


「なんだ、そりゃ」

「ん?」

「だめだ。やべー」


 先生は顔だけをこちらに向けた。

 口角は上がっているから、困り顔半分で、前髪を横に撫でつけた。


「収めたもんがまた起きちまうだろうが。そんな天然エロ爆弾ぶん投げたら」


 僕はちょっとしてから、逢坂先生がなにを言わんとしているのかを理解した。

 そのオカズのくだりは、あくまで先生を安心させるために言ったのであって、煽ろうとか誘うとかの意図はない。

 だから二回目は遠慮申し上げる。

 というわけじゃないけど、根津先生がすぐそばで寝ているしと、毛布の下の塊を指さした。急いでタブレットを持ち、僕は先生の気を紛らすためにも、無理やり二十四日の予定を提案した。

 やみくもにフリックを繰り返す。


「あ、そうだ。プレゼントは、お揃いのやつとかにしません?」


 そういうのに、じつは、ちょっと憧れていた。

 嫌そうなリアクションをするかなと思ったけれど、「それいいかも」と、逢坂先生は乗ってくれた。


「一緒に買いに行くから、変に悩まなくていいしな」

「なににしますか? やっぱり時計ですかね」

「それか、アクセサリーか」


 でも、まずは、二十四日をどうするか決めよう。

 逢坂先生はそう言うと、僕を抱きこむように右手を大回りさせ、タブレットにタッチした。

 じつに、さまざまなスポットが存在する。どこもかしこもクリスマスを着飾っていて、なんてことのないところまで聖地に見えてしまう。

 大人数でわちゃわちゃするのとは違う。ムードというのも大切なのかもしれない。

 僕はとくに、十二月二十四日は、クリスマスイブより、自分の誕生日という意識のほうが強いから、イルミネーションを見ながらしっぽりできる場所なんて想像もできなかった。

 一人暮らしを始めてからは、一番小さなホールケーキを、ぼっちでヤケ食いした記憶しかない。

 ていうか、混んでいるところが大嫌いな逢坂先生に、人の集まりそうないかにもなスポットは、そもそもダメなんじゃないだろうか。

 二人で過ごせるなら、ぼくはどこでもかまわない。クリスマスだからというのも、べつにこだわらない。

 そう伝えようとしたけど、なにかを感じ取ったらしい先生が、先にタブレットを閉じた。

 単に眠くなっただけなのかもしれない。

 あくびを噛み殺しながら、逢坂先生は、「あそこにしよう」と言った。

少し前に、県の中心部にできたビル。そこの屋上から夜景を見ようとなった。

 しかし、きっちり予定を立ててもその通りに進まないのが「僕たち」というもの。最終的にどこへ行くかは、そのとき次第。

 逢坂先生は、僕が頷くのを確認してから、煙草を手にして立ち上がった。キッチンへと移動する。

 クリスマスのディナーも、きっと、いつものように混んでいないご飯屋さんだ。

 うん。それはそれでいい。

 それよりも、僕は、プレゼント選びに早く悩みたい。

 あの逢坂先生とお揃いのものが持てるのだ。そのよろこびのほうが、いまの僕には大きかった。





 

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