六
「まあ、お前はあれだ。とどのつまり、俺のタイプのど真ん中をいってんだよ。ぼやっとして、ほっとけないところとかさ。かと思えば、言うときゃ言うし。……けど、オンナじゃない。気になる存在ではあるけど、さすがにそういう方向へはいかねえだろうと思ってたら、見事に起ったもんだから、まじなんだと観念した」
「……結局はそこへいくんですね」
「どこよりも雄弁だろ」
言い切られるとなにも返せない。それに、よくよく考えてみれば自分も似たようなものだと思った。
ソコが反応しちゃったから、本当の気持ちにも気づいて、またそれが嫌じゃないとも思った。
「俺としては、それこそ、お前がどういうスタンスでいるのかって、ちょっと悩んだ。さっきなんか、どこまでやっていいものか内心ヒヤヒヤもんだったよ。俺のアレ見たとたん、萎えるどころかゲロすんじゃねえかって……」
「いえ、そこは意外と大丈夫でした。僕も、先生をオカズにシたことあるので」
「はっ?」と、短い言葉を吐いて、逢坂先生はおもむろに仰け反った。僕に背を見せながら、ソファーの肘掛けを掴む。
「なんだ、そりゃ」
「ん?」
「だめだ。やべー」
先生は顔だけをこちらに向けた。
口角は上がっているから、困り顔半分で、前髪を横に撫でつけた。
「収めたもんがまた起きちまうだろうが。そんな天然エロ爆弾ぶん投げたら」
僕はちょっとしてから、逢坂先生がなにを言わんとしているのかを理解した。
そのオカズのくだりは、あくまで先生を安心させるために言ったのであって、煽ろうとか誘うとかの意図はない。
だから二回目は遠慮申し上げる。
というわけじゃないけど、根津先生がすぐそばで寝ているしと、毛布の下の塊を指さした。急いでタブレットを持ち、僕は先生の気を紛らすためにも、無理やり二十四日の予定を提案した。
やみくもにフリックを繰り返す。
「あ、そうだ。プレゼントは、お揃いのやつとかにしません?」
そういうのに、じつは、ちょっと憧れていた。
嫌そうなリアクションをするかなと思ったけれど、「それいいかも」と、逢坂先生は乗ってくれた。
「一緒に買いに行くから、変に悩まなくていいしな」
「なににしますか? やっぱり時計ですかね」
「それか、アクセサリーか」
でも、まずは、二十四日をどうするか決めよう。
逢坂先生はそう言うと、僕を抱きこむように右手を大回りさせ、タブレットにタッチした。
じつに、さまざまなスポットが存在する。どこもかしこもクリスマスを着飾っていて、なんてことのないところまで聖地に見えてしまう。
大人数でわちゃわちゃするのとは違う。ムードというのも大切なのかもしれない。
僕はとくに、十二月二十四日は、クリスマスイブより、自分の誕生日という意識のほうが強いから、イルミネーションを見ながらしっぽりできる場所なんて想像もできなかった。
一人暮らしを始めてからは、一番小さなホールケーキを、ぼっちでヤケ食いした記憶しかない。
ていうか、混んでいるところが大嫌いな逢坂先生に、人の集まりそうないかにもなスポットは、そもそもダメなんじゃないだろうか。
二人で過ごせるなら、ぼくはどこでもかまわない。クリスマスだからというのも、べつにこだわらない。
そう伝えようとしたけど、なにかを感じ取ったらしい先生が、先にタブレットを閉じた。
単に眠くなっただけなのかもしれない。
あくびを噛み殺しながら、逢坂先生は、「あそこにしよう」と言った。
少し前に、県の中心部にできたビル。そこの屋上から夜景を見ようとなった。
しかし、きっちり予定を立ててもその通りに進まないのが「僕たち」というもの。最終的にどこへ行くかは、そのとき次第。
逢坂先生は、僕が頷くのを確認してから、煙草を手にして立ち上がった。キッチンへと移動する。
クリスマスのディナーも、きっと、いつものように混んでいないご飯屋さんだ。
うん。それはそれでいい。
それよりも、僕は、プレゼント選びに早く悩みたい。
あの逢坂先生とお揃いのものが持てるのだ。そのよろこびのほうが、いまの僕には大きかった。
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