三
次の日の朝、教室へ入ると、俺はすぐさまクラスメートたちに囲まれた。
包帯はきのうのうちに取ったから、見た目にはなんら変わりはない。それでも、自分の席へ辿り着くまでに何度頭を下げたことか。
大丈夫かよ。もういいの。
うん、ぜんぜん大丈夫。ありがと。──の応酬。
いや、嬉しいんだけどね。申し訳ないというか、あまり騒ぎ立てられたくないというか。
だけど、やっぱり心配してくれるのはありがたいから、笑顔で対応する。
一緒に教室へ入った維新とメイジが、それを苦笑いで眺めていた。ただ、きょうの維新は機嫌がよくなさそうで、輪をかけて無口だった。
午前の授業が終わり、昼休みになった。
チャイムの余韻も消えたころ、三人で教室を出る。人の流れに乗ったり反したりしながら廊下を行く。
「きょうは天気いいから、パン買って外で食べよ」
俺がそう提案したら、よしよしと、二人とも頷いてくれた。
購買へと急ぎ足で向かう途中、後ろから賑やかな声が飛んできて、俺は思わず立ち止まった。
維新とメイジも振り返る。
「てめ、抜けがけする気だっただろ!」
「うっさいわ。ちゅうか、なんでお前が来よるんや。悪いんは俺なんやし、俺だけでええやろが!」
そんな声とともに、維新とメイジを押し退けてやって来たのは、きのうの関西弁のヒト。……と、もう一人。こっちもものすごく背が高くて、しかもパツキンだ。
「おー、おったおった。きのうは悪かったな、中野クン。ほんま許したって。頭、もうしんどくないか?」
と、関西サンは俺の手を握った。首を動かし、心配そうに見下ろす。
その関西サンを押しやり、今度はパツキンさんがこの手を取る。
「俺も悪かったんだ。中野クン、ごめんな」
「……はあ。あ、大したことないんでもう大丈夫っすよ。ええと、あなたはたしかバスケ部の藤堂さんで、あなたは──」
手を離してほしくて、言いながらぐいと腕を引いたけど、それを追うようにして、もっと強く握られた。
「俺は、バレー部部長の鷲尾。鷲尾龍太(わしおりゅうた)。よろしくな」
「おい、鷲尾。なにちゃっかりアピっとんねや。鷲尾のくせにぃ」
関西サンがまた俺の視界へ入ってくる。そこから、パツキンさんと押し合いへし合いの押し問答を始めた。
手は掴まれたままだし、俺は心底困って、少し離れたところにいるメイジと維新へ視線を送った。それに気づいた二人は、ようやく助け舟を出そうとしてくれる。
そこに、別の顔が現れた。
その人は、関西サンとパツキンさんの後ろ襟を持って、俺からぽいと離していく。
「慶ちゃんも龍くんもいい加減にしようねー」
二人よりは背が低いけど、十分俺よりノッポなその人は、「ごめんね」と笑顔で謝って、二つの背中を押した。
しかし、その手から逃れるようにして、関西サンが再び俺の前へ立った。
「そやそや、中野クン。生徒会にゆうてくれててんて? 俺んこと。お陰で処分なしんなったわ。ありがとな」
そのあと、関西サンは俺から視線を外し、少し上を見た。片方の口角をわずかに上げる。
ん? と、俺は眉をひそめた。関西サンの目線を辿っていけば、維新の顔へ行き着く。
「ほなら、またな」
そう残して、なんとも忙しない先輩たちは去っていった。
俺は、無表情でいる維新を見上げたまま、ゆっくりと首を傾げた。
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