三
「んー、それはヒミツ。といっても、おいおいわかるだろうけどね。まあ、そのときまでのお楽しみってことで」
「えー。ケチ」
今度は俺が口を尖らせた。
「じゃあ、どんな曲をやんの? 何曲ぐらい?」
「七、八曲?」
と、奥芝さんは確認するように、ジョーさんにも顔を向けた。
「まあ、そんくらいか。一曲は俺たちのオリジナルなんだ」
「え、作んの?」
「毎年恒例でな」
「だったら、その七、八曲って、有名アーティストのやつじゃなくて、先輩たちが作ってきたのとか?」
「そうそう」
奥芝さんが頷いた。
「うそ。めっちゃかっちょいー」
「だろうだろう。つか、演奏してる姿はもっと格好いいと思うぞ」
「ちげぇーし。ジョーさんが格好いいとかじゃなくて、そういう伝統みたいなのが格好いいってハ、ナ、シ」
また図々しくこの肩を抱こうとしてきたジョーさんの手をパシッと弾く。
「じゃあ、その新しい曲ってのは、いま作ってる最中なんだ」
「うん。詞はね、みんなで考えるんだけど、曲はクロが一人でつけるんだ」
「ええっ?」
俺は大声を上げた。
ていうかあの人、バンドのメンバーに入ってるんだ……。
まじか。
「黒澤サンも楽器すんの?」
「クロんとこは両親が音楽家だからね。あいつ、小さいころからピアノとバイオリンをやらされてたらしいよ」
俺は、黒澤の顔を思い浮かべた。
あの人がバイオリン……。
第一印象があれだったから、そんなイメージはぜんぜん湧かない。
俺はあんぐりと口を開けていたけど、ふとあることを思い立って、ジョーさんと奥芝さんを見上げた。
「もし、手伝えることがあったら言ってください。俺、ヒマなんで」
「あー……」
てっきり、二つ返事で快諾してもらえると思ったのに、ジョーさんと奥芝さんはお互いを見合って、戸惑いの表情を見せた。
「なに? だめ?」
「だめっていうか、ねえ。ジョー先輩」
「ああ。卓にはやらなきゃいけないことができると思うからさ」
「は?」
と、俺が顔をしかめたとき、タイミングよくミケが吠えた。
奥芝さんが、ああっと大きな声を出す。
「ミケの散歩。忘れてた」
「あ、俺が行きます」
ミケのところへ行こうとした奥芝さんを制して、俺は言った。
先に綱を持つ。
「悪いよ」
「いえ。そのためにここに来たんで。せっかく早起きしたから、ミケの散歩でも行こうかなって」
俺は、ミケが繋がれてる杭にも手を伸ばした。
わかった、ありがとうと言って、奥芝さんはミケの綱を杭から外してくれた。俺から木刀を受け取り、お散歩セットのバッグを代わりにくれる。
「じゃ、行こう。ミケ」
奥芝さんとジョーさんに手を振ると、二人も大きく振り返してくれた。
坂を下りながら、さっきのジョーさんの言葉を思い返す。
どの部にも所属していない俺がやらなきゃいけないことって、なにがあるんだろう?
維新が言うには、おにぎりも屋台も担当が割り振らていて、当日に向け、準備は着々と進めれられている。
俺はもう一度首をひねった。しかし、うんうん唸ったところでわかるはずもなく、頭の片隅に置いておくことにした。
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