「んー、それはヒミツ。といっても、おいおいわかるだろうけどね。まあ、そのときまでのお楽しみってことで」

「えー。ケチ」


 今度は俺が口を尖らせた。


「じゃあ、どんな曲をやんの? 何曲ぐらい?」

「七、八曲?」


 と、奥芝さんは確認するように、ジョーさんにも顔を向けた。


「まあ、そんくらいか。一曲は俺たちのオリジナルなんだ」

「え、作んの?」

「毎年恒例でな」

「だったら、その七、八曲って、有名アーティストのやつじゃなくて、先輩たちが作ってきたのとか?」

「そうそう」


 奥芝さんが頷いた。


「うそ。めっちゃかっちょいー」

「だろうだろう。つか、演奏してる姿はもっと格好いいと思うぞ」

「ちげぇーし。ジョーさんが格好いいとかじゃなくて、そういう伝統みたいなのが格好いいってハ、ナ、シ」


 また図々しくこの肩を抱こうとしてきたジョーさんの手をパシッと弾く。


「じゃあ、その新しい曲ってのは、いま作ってる最中なんだ」

「うん。詞はね、みんなで考えるんだけど、曲はクロが一人でつけるんだ」

「ええっ?」


 俺は大声を上げた。

 ていうかあの人、バンドのメンバーに入ってるんだ……。

 まじか。


「黒澤サンも楽器すんの?」

「クロんとこは両親が音楽家だからね。あいつ、小さいころからピアノとバイオリンをやらされてたらしいよ」


 俺は、黒澤の顔を思い浮かべた。

 あの人がバイオリン……。

 第一印象があれだったから、そんなイメージはぜんぜん湧かない。

 俺はあんぐりと口を開けていたけど、ふとあることを思い立って、ジョーさんと奥芝さんを見上げた。


「もし、手伝えることがあったら言ってください。俺、ヒマなんで」

「あー……」


 てっきり、二つ返事で快諾してもらえると思ったのに、ジョーさんと奥芝さんはお互いを見合って、戸惑いの表情を見せた。


「なに? だめ?」

「だめっていうか、ねえ。ジョー先輩」

「ああ。卓にはやらなきゃいけないことができると思うからさ」

「は?」


 と、俺が顔をしかめたとき、タイミングよくミケが吠えた。

 奥芝さんが、ああっと大きな声を出す。


「ミケの散歩。忘れてた」

「あ、俺が行きます」


 ミケのところへ行こうとした奥芝さんを制して、俺は言った。

 先に綱を持つ。


「悪いよ」

「いえ。そのためにここに来たんで。せっかく早起きしたから、ミケの散歩でも行こうかなって」


 俺は、ミケが繋がれてる杭にも手を伸ばした。

 わかった、ありがとうと言って、奥芝さんはミケの綱を杭から外してくれた。俺から木刀を受け取り、お散歩セットのバッグを代わりにくれる。


「じゃ、行こう。ミケ」


 奥芝さんとジョーさんに手を振ると、二人も大きく振り返してくれた。

 坂を下りながら、さっきのジョーさんの言葉を思い返す。

 どの部にも所属していない俺がやらなきゃいけないことって、なにがあるんだろう?

 維新が言うには、おにぎりも屋台も担当が割り振らていて、当日に向け、準備は着々と進めれられている。

 俺はもう一度首をひねった。しかし、うんうん唸ったところでわかるはずもなく、頭の片隅に置いておくことにした。



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