三
そうポツリと呟き、真心ちゃんは、前庭のコンクリートに指を滑らせて、なにかを書く仕草をした。
「つまんない? まあ、そうだよね。俺だってほんとはやりたくないし」
「あっきー、みこばっか」
真心ちゃんは、すっと立ち上がった。
「え?」
「あっきーは、あたしよりみこえらんだの」
「……」
「いっくんは、たっくんえらんだし」
キワドいところを突かれて、俺は一瞬言葉を失った。
いや、違う違う。真心ちゃんは、いまの刈入れ作業の話をしてるんだ。
「みこちゃん、みこちゃんて、みこばっかり。みこも、あたしよりあっきーといっしょがいいの」
「……そんなことないと思うな」
「ふたりともきらい」
ぷいと顔を背ける。
俺は固く目をつむった。
なんだろう……これ。デジャブかな。どっかで見たことのあるシーンな気がする。
「真心ちゃん!」
すると、メイジが坂を上ってやってきた。真心ちゃんを見つけると、心底ほっとした顔で近づいた。
真心ちゃんが俺の後ろに隠れる。
たぶん、自分が悪いとわかってるから、なおさら顔を合わせづらいんだと思う。
俺はひそひそと、近づくメイジにいまの話をした。
メイジは聞き終わると、額に手を当て、参ったなという顔をした。
「これがモテる男の苦労どこ?」
「つか、平等にしてたつもりなんだけどなあ、俺」
「あー、無自覚が一番質悪い」
「違うわ。まじで気ぃ使ってたっつうの」
そう言うと、メイジは真心ちゃんのそばにしゃがんだ。
「ごめんな、真心ちゃん。一人ぼっちにしちまって」
「まこ!」
維新と一緒に美心ちゃんが来た。
それでも真心ちゃんは、俺の後ろに隠れたまま。
……なかなか頑固だ。
「まこ、みなさんにめーわくかけちゃだめだって、おかあさんもせんせいもいってたでしょ」
「だって……」
「いこ、こんどはふたりでしよう」
「ふたり? あっきーは?」
「あっきーもいっしょでいい?」
「うん。いい」
いいんかーい。
俺は、思わず声に出してツッコミたくなった。
すげえな、双子って。メイジには見向きもしなかった真心ちゃんが、美心ちゃんに話しかけられた途端、俺の後ろから離れていった。
なのに、メイジは一緒でいいんだ。ゴキゲンななめにされちゃった原因なのに。
そのあと、真心ちゃんと美心ちゃんは、メイジと手を繋いで坂を下っていった。
維新もほっと一息ついている。
「俺たちも戻ろう」
「うん」
ミケに、またねと手を振って、俺は足を出した。
坂に差しかかったところで、ふと立ち止まり、農業部の寮を振り返った。
ここで言い合いをしていたマキさんと奥芝さんの顔がよぎる。
──そうか。そういうことか。
マキさんのあの言動には、そういうことも含まれていたんだ。
「卓?」
と、維新が俺の腕を掴んだ。
俺は、「なんでもない」と首を振って、維新を置いてきぼりにする勢いで坂を下りた。
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