そうポツリと呟き、真心ちゃんは、前庭のコンクリートに指を滑らせて、なにかを書く仕草をした。


「つまんない? まあ、そうだよね。俺だってほんとはやりたくないし」

「あっきー、みこばっか」


 真心ちゃんは、すっと立ち上がった。


「え?」

「あっきーは、あたしよりみこえらんだの」

「……」

「いっくんは、たっくんえらんだし」


 キワドいところを突かれて、俺は一瞬言葉を失った。

 いや、違う違う。真心ちゃんは、いまの刈入れ作業の話をしてるんだ。


「みこちゃん、みこちゃんて、みこばっかり。みこも、あたしよりあっきーといっしょがいいの」

「……そんなことないと思うな」

「ふたりともきらい」


 ぷいと顔を背ける。

 俺は固く目をつむった。

 なんだろう……これ。デジャブかな。どっかで見たことのあるシーンな気がする。


「真心ちゃん!」


 すると、メイジが坂を上ってやってきた。真心ちゃんを見つけると、心底ほっとした顔で近づいた。

 真心ちゃんが俺の後ろに隠れる。

 たぶん、自分が悪いとわかってるから、なおさら顔を合わせづらいんだと思う。

 俺はひそひそと、近づくメイジにいまの話をした。

 メイジは聞き終わると、額に手を当て、参ったなという顔をした。


「これがモテる男の苦労どこ?」

「つか、平等にしてたつもりなんだけどなあ、俺」

「あー、無自覚が一番質悪い」

「違うわ。まじで気ぃ使ってたっつうの」


 そう言うと、メイジは真心ちゃんのそばにしゃがんだ。


「ごめんな、真心ちゃん。一人ぼっちにしちまって」

「まこ!」


 維新と一緒に美心ちゃんが来た。

 それでも真心ちゃんは、俺の後ろに隠れたまま。

 ……なかなか頑固だ。


「まこ、みなさんにめーわくかけちゃだめだって、おかあさんもせんせいもいってたでしょ」

「だって……」

「いこ、こんどはふたりでしよう」

「ふたり? あっきーは?」

「あっきーもいっしょでいい?」

「うん。いい」


 いいんかーい。

 俺は、思わず声に出してツッコミたくなった。

 すげえな、双子って。メイジには見向きもしなかった真心ちゃんが、美心ちゃんに話しかけられた途端、俺の後ろから離れていった。

 なのに、メイジは一緒でいいんだ。ゴキゲンななめにされちゃった原因なのに。

 そのあと、真心ちゃんと美心ちゃんは、メイジと手を繋いで坂を下っていった。

 維新もほっと一息ついている。


「俺たちも戻ろう」

「うん」


 ミケに、またねと手を振って、俺は足を出した。

 坂に差しかかったところで、ふと立ち止まり、農業部の寮を振り返った。

 ここで言い合いをしていたマキさんと奥芝さんの顔がよぎる。

 ──そうか。そういうことか。

 マキさんのあの言動には、そういうことも含まれていたんだ。


「卓?」


 と、維新が俺の腕を掴んだ。

 俺は、「なんでもない」と首を振って、維新を置いてきぼりにする勢いで坂を下りた。



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