「なになに。おー、真心ちゃんか。よろしくな。俺のことはあっきーって呼んでね」

「あっきー?」

「そう。あきはるのあっきーね」


 メイジは切れ上がった口角をさらに上げてしゃがむと、真心ちゃんの頭を撫でた。


「あ、ずるい。まこ。あたしも」


 真心ちゃんの反対側から、美心ちゃんがメイジの腕へ手を伸ばしてきた。そしてぎゅっと抱きつく。


「あれあれメイジくん。モテモテじゃん」

「いやあー」


 タオルの巻かれてある頭を掻いて、メイジは双子ちゃんへ目をやる。それから維新を指さした。


「ほら。あっちにもかっこいいお兄さんがいますよ」


 維新がぎょっとなっている。

 ついでみたいな感じで、俺にも、メイジは人さし指を向けた。


「あっちは、たっくんっつうんだよ」

「たっくん」

「たっくん」

「で、あっちのかっこいいお兄さんはいっくんね。無愛想なのは愛嬌だから気にしないで」

「ぶあいそ?」

「じゃ、いっくんもいっしょ」


 真心ちゃんは小首を傾げて、美心ちゃんは維新におずおずと手を伸ばしている。そんな美心ちゃんに負けまいとなのか、真心ちゃんも精いっぱい手を出して、維新のジャージのズボンを掴んだ。

 つか、一人に一人じゃなくて、二人でメイジと維新を選ぶのか。これぞ、双子ちゃんの不思議。


「どうでもいいけど早く始めよう」


 維新が辺りに目を配って、表情を険しくした。

 俺も周りを見れば、ほかの田んぼはもう作業を始めている。

 俺たちは慌てて農道から田んぼへ入った。




「ああ、もう。思った通りやっぱ大変だ。腰痛ぇし」

「もうちょっとだから頑張ろう」


 それでも、ぶーぶー文句を垂れながら、俺は腰を伸ばした。

 刈り取った稲をまとめて、維新が汗を拭う。

 俺も、首でエリマキ状態にしていたタオルを解いて、額に当てた。


「まだ涼しいほうだからいっか」


 俺たちは再び、事前の授業で習った通り、根本を少し残して刈る、ある程度の束にしてくくるという作業を、黙々と続けた。

 すると、となりの維新が、なにかを訝るような声を出した。


「なに。どうしたの」

「卓」


 俺が顔を上げると当時に、すでに腰を上げていた維新が振り返った。


「美心ちゃんか真心ちゃんか、どっちかいない」

「えっ?」


 俺も立ち上がり、メイジと作業していたはずの二人へ目をやる。

 俺たちとは端と端の位置。たしかに、メイジのそばには、帽子を被った女の子が一人しかいない。

 子どもたちを確認しながら維新は小走りになった。俺もあとに続く。


「メイジ!」


 維新の声に気づいて、メイジが顔を上げる。逆光だったからか眉間にしわを寄せ、片目をつむっている。


「なんだ、どうした?」


 維新はまず、メイジのそばにいる女の子の名札を確認した。


「美心ちゃんか。メイジ、真心ちゃんはどうした?」


 メイジがはっとして立ち上がった。ひとしきりきょろきょろして、やばいと呟く。


「刈るのに夢中になってた……」

「ねえ、美心ちゃん。真心ちゃんは?」


 なにかを察知して心配顔で腰を上げた美心ちゃんに、俺は声をかけた。

 美心ちゃんは稲を持ったまま首を横に振る。


「わかんない」

「やべ、まじ悪い。どうしよう、維新」

「メイジだけのせいじゃない。俺もうっかりしてた。任せっきりにしてて」


 おろおろしているメイジの背中を、維新が叩く。


「とりあえず先生に知らせてくる」


 俺はもう一度周りを確かめて、最後に農業部の犬小屋を見上げた。

 もしかして──。

 維新を振り返ったけど、もう遠くを走っていた。


「メイジ。俺、ちょっとあそこ見てくる」


 農業部の部寮を指さしながら俺は走り出した。

 坂を駆け上がって一回くねる。前庭に着いて犬小屋に視線をやると、さっき見た帽子と同じ頭があった。

 繋がれているミケのそばにしゃがんで、なにやら話しかけている。

 ミケが先に俺に気づいて、しっぽを振ってうろうろし始めた。

 真心ちゃんはしゃがんだまま顔を上げた。


「たっくん」

「真心ちゃん。だめじゃん、勝手に離れちゃ。メイジも維新も心配してたよ」


 俺も腰をかがめて、帽子の上から頭を撫でる。

 真心ちゃんはきょとんとしている。


「めいじ?」

「ああ、そっか。あっきーといっくんがね」

「だってつまんないんだもん」

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