二
「なになに。おー、真心ちゃんか。よろしくな。俺のことはあっきーって呼んでね」
「あっきー?」
「そう。あきはるのあっきーね」
メイジは切れ上がった口角をさらに上げてしゃがむと、真心ちゃんの頭を撫でた。
「あ、ずるい。まこ。あたしも」
真心ちゃんの反対側から、美心ちゃんがメイジの腕へ手を伸ばしてきた。そしてぎゅっと抱きつく。
「あれあれメイジくん。モテモテじゃん」
「いやあー」
タオルの巻かれてある頭を掻いて、メイジは双子ちゃんへ目をやる。それから維新を指さした。
「ほら。あっちにもかっこいいお兄さんがいますよ」
維新がぎょっとなっている。
ついでみたいな感じで、俺にも、メイジは人さし指を向けた。
「あっちは、たっくんっつうんだよ」
「たっくん」
「たっくん」
「で、あっちのかっこいいお兄さんはいっくんね。無愛想なのは愛嬌だから気にしないで」
「ぶあいそ?」
「じゃ、いっくんもいっしょ」
真心ちゃんは小首を傾げて、美心ちゃんは維新におずおずと手を伸ばしている。そんな美心ちゃんに負けまいとなのか、真心ちゃんも精いっぱい手を出して、維新のジャージのズボンを掴んだ。
つか、一人に一人じゃなくて、二人でメイジと維新を選ぶのか。これぞ、双子ちゃんの不思議。
「どうでもいいけど早く始めよう」
維新が辺りに目を配って、表情を険しくした。
俺も周りを見れば、ほかの田んぼはもう作業を始めている。
俺たちは慌てて農道から田んぼへ入った。
「ああ、もう。思った通りやっぱ大変だ。腰痛ぇし」
「もうちょっとだから頑張ろう」
それでも、ぶーぶー文句を垂れながら、俺は腰を伸ばした。
刈り取った稲をまとめて、維新が汗を拭う。
俺も、首でエリマキ状態にしていたタオルを解いて、額に当てた。
「まだ涼しいほうだからいっか」
俺たちは再び、事前の授業で習った通り、根本を少し残して刈る、ある程度の束にしてくくるという作業を、黙々と続けた。
すると、となりの維新が、なにかを訝るような声を出した。
「なに。どうしたの」
「卓」
俺が顔を上げると当時に、すでに腰を上げていた維新が振り返った。
「美心ちゃんか真心ちゃんか、どっちかいない」
「えっ?」
俺も立ち上がり、メイジと作業していたはずの二人へ目をやる。
俺たちとは端と端の位置。たしかに、メイジのそばには、帽子を被った女の子が一人しかいない。
子どもたちを確認しながら維新は小走りになった。俺もあとに続く。
「メイジ!」
維新の声に気づいて、メイジが顔を上げる。逆光だったからか眉間にしわを寄せ、片目をつむっている。
「なんだ、どうした?」
維新はまず、メイジのそばにいる女の子の名札を確認した。
「美心ちゃんか。メイジ、真心ちゃんはどうした?」
メイジがはっとして立ち上がった。ひとしきりきょろきょろして、やばいと呟く。
「刈るのに夢中になってた……」
「ねえ、美心ちゃん。真心ちゃんは?」
なにかを察知して心配顔で腰を上げた美心ちゃんに、俺は声をかけた。
美心ちゃんは稲を持ったまま首を横に振る。
「わかんない」
「やべ、まじ悪い。どうしよう、維新」
「メイジだけのせいじゃない。俺もうっかりしてた。任せっきりにしてて」
おろおろしているメイジの背中を、維新が叩く。
「とりあえず先生に知らせてくる」
俺はもう一度周りを確かめて、最後に農業部の犬小屋を見上げた。
もしかして──。
維新を振り返ったけど、もう遠くを走っていた。
「メイジ。俺、ちょっとあそこ見てくる」
農業部の部寮を指さしながら俺は走り出した。
坂を駆け上がって一回くねる。前庭に着いて犬小屋に視線をやると、さっき見た帽子と同じ頭があった。
繋がれているミケのそばにしゃがんで、なにやら話しかけている。
ミケが先に俺に気づいて、しっぽを振ってうろうろし始めた。
真心ちゃんはしゃがんだまま顔を上げた。
「たっくん」
「真心ちゃん。だめじゃん、勝手に離れちゃ。メイジも維新も心配してたよ」
俺も腰をかがめて、帽子の上から頭を撫でる。
真心ちゃんはきょとんとしている。
「めいじ?」
「ああ、そっか。あっきーといっくんがね」
「だってつまんないんだもん」
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