双子



 刈入れ行事の日がやってきた。

 乾いた風が爽やかな晴天の朝。一、二年の生徒全員が、まず第一体育館に集合した。

 ここで点呼を終え、自分たちの持ち場へぞろぞろと移動する。俺が居候しているじいちゃんちの前の道路を大人数で歩いて行く。

 全員が同じ紺のジャージ。軍手と長靴。鎌とマイボトルを手にして、田んぼへ向かう。持参した色とりどりのタオルは、首に巻かれてあれば、頭に巻かれてもある。

 一クラスに一反の田んぼだけど、厳密に言うと、一反を半分にして作られてある。だから、十人ずつの二班に別れて作業を行う。

 俺と維新とメイジは同じ班だ。

 これから自分たちが刈り取らなければならない稲穂の群れを前に気合を入れた。

 まとまって移動しているときは大人数だと思っていたけど、二十枚もの田んぼが広がるここで散り散りばらばらになると、ポツンポツンな感じに見える。

 うん。やっぱこのガッコって、変わってる。

 改めて思った。


「うちのクラスの田んぼ、農業部の目の前なんだな」


 横一列になって、かわいいお客さま待ちの俺たちは、揃って後ろを見上げた。

 俺の言葉に、維新が「ああ」と返す。

 ミケの犬小屋がちらっと視界に入った。

 あの古い家の中は、いまはだれもいない。ジョーさんは三年だから普通に授業中だし、奥芝さんとミツさんは、この中のどこかにいるはずだ。


「おっ、来た来た」


 メイジの声で顔を戻すと、かわいいお客さまの一団が長い列を作って道路をやってきた。

 この刈入れ行事は、風見原の生徒だけでなく、県の中心部にある四つの小学校の児童も参加する。たしか一年生だったと思う。

 五人ずつ、それぞれの班に混ざった。

 小学校からの引率の先生やうちの教師、生徒会からも書記と会計の三人が、子どもたちを引き連れて案内していた。

 俺たちの班にやってきたのは、男の子が三人と女の子が二人。

 しかも、その女の子──。


「もしかして双子ちゃん?」


 メイジが先に気づいて、恥ずかしそうにもじもじしている女の子の前にしゃがんだ。その肩に俺は後ろから手をついて腰を屈めた。

 一緒に来た先生が、ほかの子たちの様子も見に行くのでお願いしますと、うちのリーダーの維新に声をかけた。

 はいと頷いて、維新も先生たちを目で追う。その後ろで、子どもたちは心細そうな顔をしていた。


「大丈夫だよー。お兄さんたち怖くないからね」


 俺はみんなに声をかけ、順に頭を撫でた。

 維新が、きょうの作業内容を子どもたちに説明し始めた。

 俺もメイジも腰を上げ、ほかのクラスメートと並んでその話を聞く。

 といっても、俺たちは、子どもたちに教えながらの作業だから、事前の授業であらかたの工程は習っている。二年生になれば、去年に一回は体験しているし、もっと効率よく進められると思う。


「なあ、卓」


 維新の説明がこれから使う道具に入っている中、メイジがこそっと話しかけてきた。


「ん?」

「あの双子ちゃんたちの名前見た?」

「ううん。まだ見てない」

「真心(まこ)ちゃんと美心(みこ)ちゃんだってさ」


 しゃがんでいる維新の頭上から、子どもたちにつけられてある名札を見た。

 同じグループだとわかるように、風見原の校章バッチを模したそれぞれの学年の色紙に、クラスと班の番号が書いてある。その下には名札もついてて、漢字表記の上にひらがながふってあった。


「へえ。『こ』って、心って書くんだ。シャレてる」

「じゃなくてさ。似てると思わねえ?」

「そりゃあ、双子なんだから」


 似てて当たり前だろ、なに言ってんの。そう俺が首を傾げると、メイジは、「違うって」と笑った。


「うちにもいんだろ。双子ちゃん。それに重なんなあって」

「あー!」

「な?」

「マとミがつくからか。なるほど~」


 とっさに浮かんだ顔に、俺は苦笑した。一緒にするのは、マキさんとミツさんに悪い気がするし、彼女たちも気の毒かもしれない。

 でも、なんかかわいい。

「かんわいい」と、メイジも顔を綻ばせていた。


「卓、メイジ」


 維新が説明を終えて腰を上げた。そして、俺たちに稲刈り用の鎌を配る。

 子どもたちには、小さめのやつが渡された。


「危ないから気をつけて」


 維新が優しく、小さな手に鎌の柄を握らせる。それがとっても微笑ましくて、後ろで眺めていた俺は、思わずクスクス漏らしてしまった。


「なんだ?」

「お兄ちゃーん。ぼくもこれの使いかたわからなーい」


 なんてふざけて言ったら、維新に冷たい目で見られてしまった。

 ……こういうノリの悪いとこ、欠点だよな。


「あたし、このひとがいい」


 俺の弟キャラをツッコミに来てくれたメイジの足に、女の子がぴたっとくっつく。

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