第6話 くつろげる店

【檸檬が遅れて来た恋を思い出させてくれた⑥】


約束の時間の10分前に着いたら既に山口君は待っていた。

「こんにちは、ごめんなさい早くに来てくれたんですね」

「ドラマみたいに今来た所って言いたいけど正直に言うと、何だか昨夜遠足の前の日みたいに眠れなくて、いつもより早く起きたから先に来て本屋とかぶらついてたんです」と笑った。

「ふふ、私もです、しばらくデートから遠ざかってましたから」

「彼氏はいないの?」

「いないですよ~悲しいことにね」

「僕と一緒ですね、悲しいぼっち2人で今日は楽しみましょう」

「そうですね、一応お店は予約してます、電車ですけどいいですか?」

「もちろんです、楽しみにしてたんですよ」

「それより、同級生なんだしお互いに敬語はやめませんか?私もそうするし」

「わかりました…いやわかった」と笑った山口君はあの夏の日と変わっていないんだと嬉しくなった。


電車は土曜日とあって少し混みあっている

窓際に2人で立ってみると身長差を感じた。

「山口君背が高いですね」

「うん185センチかな、それでバスケ部に入ったけど…あんまり活躍出来なかったよ」

「私は160に少し足りない、バレー部でも小さい方だったし、いっつも応援要員だったけど、楽しかったし部活やってて良かったと今でも思ってる、サーブだけが得意で公式試合に出てもサーブを打つだけだったり…」

懐かしい話は2人の距離を少し近づけてくれた。


快速電車で2駅目で降りて繁華街から離れたその店へとゆっくりと歩いた。

古い町並みのこの町には新しいお店が立ち並んでいる、どの店も古い家屋をリノベーションしたもので、手作りの服やアクセサリー、小さなパン屋さん、おしゃれなカフェ、洋食屋などたくさんのお店が立ち並ぶ今人気の町だ。

その中でもこのお店は人気で予約が取れないという有名なところだ、ダメ元で連絡したらたまたまキャンセルが入っていたので予約がとれた。


近くの店を何軒か覗いたあとに予約した時間にその店の扉を開いた。


通されたのは昔は座敷だったと思われる場所にシンプルなテーブルと椅子が置いてあり縁側に面していて小さな中庭が見える。


「いいね、凄くいい、落ち着くし何だかおばあちゃんの家に来たみたいだ」

「良かった、私も1度友達に連れられて来て気にいったんです、喜んでくれたから嬉しい」

「気に入ったよありがとう」

「この店の人気メニューはスパイスカレーのセットなんですけど、それでいいですか?ちょっと辛めらしいけど」

「何なら激辛でも大丈夫だよ」

2人とも同じメニューを頼んで出されたお水を飲んだ、ほんのりとレモンの香りがする水が美味しかった。

「私ね、高校生の時ずっと片思いしてたんですよ、今だから告白するけど、陸上部の岸田君」

「えっそうなんだ、岸田とは今でもたまに会うよ、仲良かったから」

「そうなんだ、岸田君彼女いたから告白未遂のままだったけどね」

「岸田は今彼女いないし何なら仲を取り持つよ?」

「いや、とんでもないです初恋は完結してるし、懐かしい思い出だけ残ってるからそれで充分です」


そしてスパイスが香る料理が運ばれて来た。

大きな皿にはバターライスとたくさんの温野菜そして具材が時間を掛けて煮込まれたと思われるカレー、小さな木の器に入ったゴボウのサラダも添えられた。

「やべぇ美味そう!」

前回は売り切れで食べれなかったこのスパイスカレーを2人で食べた。

「美味しいですね、きっと家庭では出せない味」


食後のコーヒーを飲みながら山口君に気になっていた事を聞いた。

「あの、友達から聞いたことなんだけど、保険会社に勤めていたんだよね」

少し沈黙した後に山口君は仕事を辞めた理由を話した。



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