第5話 デート当日

【檸檬が遅れて来た恋を思い出させてくれた⑤】


山口君との約束の日

 休みの日にしては早く目が覚めた。

久しぶりの男子とのデートのようなものだし、自分でも浮かれてるのは認めるしかない。


 松下浩輔…元彼の名前だけど、出会ったのは大学生の頃の数合わせの合コンだった。積極的な浩輔に押し切られる形で2人は付き合いはじめた。

 マメに連絡くれる人だったから多分付き合っていけたのだと思う。

でも大学を卒業して半年くらいして彼は新入社員として入った会社に好きな人が出来たと別れを告げた。

 3年間の恋愛を上書きするほどの出会いもなくて今年25歳になった。


 母子家庭に育ったからか母さんは恋愛にはノータッチだったし「結婚だけが幸せとは限らないから、好きに生きなさい」っていつも言ってくれるから気が楽だ。


 私が勤める会社は社員20名くらいの小さな会社だから出会いなんて望めないし、婚活を積極的にする性格でもないから困ったものだ。


「優香ちゃん、お見合いしてみない?」

 この会社でずっと経理を担当している木下さんが声を掛けて来た。

「とりあえず1度会ってみてよ、今年分譲マンションも買って、小さいけど会社を経営してるからいいとおもうんだけど」

 ずっとこうして気にかけてくれる木下さんの顔を立てて1度だけお見合いをしたことがある。

 小さなフランス料理店でご飯を食べて

 カフェでお茶を飲んでいる時だった。


「近いうちに僕の部屋に来てみませんか、どんな風に生活してるか見てもらいから」

 返事に困っていると「あ…すみません先走ってしまって」そう言って笑った彼には好印象をもったのだが、飲んでいた紅茶が無くなった彼は店員を呼んでお代わりを注文した。…自分の分だけ


 私は飲み終えたコーヒーカップを見つめながら曖昧な笑顔をしていた。


 見合いの次の日に木下さんはニコニコしながら「もう一度お会いしたいっていってるけど、返事しておいていいよね」

「すみません…お断りしてくれませんか?」

「あら…そうなの…じゃまた違う人を…」

 そう言う木下さんには申し訳なかったけど、それ以来1度も見合いはしていない。


 父さんは私が小学校に上がる前に家を出たきり帰ってこなかった。まだ小さな弟と私を抱えて仕事を続けてくれた母さんには苦労を掛けたくなかったから、大学も奨学金と掛け持ちしたバイトで何とか卒業出来た。

 同じように今弟も頑張ってるはずだ。


 何不自由のない生活で学生生活を送る人達を羨む暇も無いくらいに頑張って来れたのは父親への反抗なのかもしれない。


 父親が出て行った日のことは覚えていない、元々夜勤もある仕事をしてたのでいつ帰って来たのかもわからない位に影が薄かった。

 どうやらその頃には母親以外の人と恋愛真っ最中だったのだろう。

私の人生に父親は必要ではないと思って生きて来たのかもしれない。


子どもの私には必要ではなくても母さんは違っていたみたいで、たまにお酒を飲んだ時に「父さんどうしてるかなぁ」って呟いたりしてるのをみると尚更恨みたくなってしまう。





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