第33話 男湯にて
さて、どうしたものか……。
「どしたの涼ちゃん、黙りこくっちゃって」
宿の露天風呂で日が沈みかけの空を見ながら考え事をしていると、来栖がやってきた。
「なぁ来栖」
「ん? なんだい?」
「和泉とデート行く場所ってどうやって決めてる?」
飯盒炊爨を終えた後、俺らは1日目に泊まる宿へと向かった。
もちろん男子と女子の部屋は別々だけれど、お風呂とご飯まで時間が余ったので、6人みんなで一つの部屋に集まってトランプで遊んでいたのだ。
「……珍しくトランプ中にぼーっとしてたけど、そんなこと考えてたの?」
「こっちは真面目なんだ答えてくれ」
僕らの林間学校は、1、2日目が班に分かれての行動、3日目が完全に自由行動、4日目にクラスで観光して帰るというスケジュールになっている。
つまり、紅葉との自由行動まではまだ1日猶予があるのだが……。
「中学の時に付き合ってた時と同じ感じでいいんじゃないか?」
「それができたら苦労してないよ!」
僕と紅葉は、過去に付き合っていた。
……それは事実なのだが、一つ問題があった。
「受験期が近くて、そんなにたくさんデート行ってねぇんだよ……」
「なるほどね?」
「でも、言ったことはあるってことでごわすよね。同じようにはできるんじゃないでごわすか?」
会話の途中から山田も加わった。屋内の数多くあるお風呂を制覇してきたらしい。
「そうだけど……。わ、笑うなよ?」
「もちろんでごわす」
「俺らの仲じゃないか。言ってみろって」
ここまできたら仕方ない。相談に乗ってもらう身として、正直に話すしかないか……。
「……近所の公園」
「「……」」
「黙ってないでなんか言えよ!!」
真顔でポカンとこちらを見つめられてるだけでは何もわからない。
何か言いたいこちがあるなら、言ってよ!
「いや、なんというか……」
「普通すぎて笑えないでごわすね……」
二人してため息をつかれた。
しょうがないじゃない! こちとらほとんど恋愛初心者なんだから!
来栖はここぞと言わんばかりに立ち上がり、胸を叩いた。
「全くこれだから涼ちゃんは……。やはりこの来栖様が、未熟者に指導してやらねばな!」
「お、来栖はんはどんなとこ行ってたんでごわすか?」
「お、教えてくれ!」
まさか俺が来栖に頼る日が来ようとは……。
でも今は藁にも縋りたい気持ちだ。先人の知恵は偉大だし、ここは甘えておくことにしよう。
「……あれ?」
「どうした来栖」
「どうしたでごわすか」
来栖は冷や汗を掻きながら、座って湯船に戻っていく。
「……思い返してみたら、ほとんど涼ちゃんと菊原さんのことをなんとかしようとしてたから、大したとこ行ってないかも」
「……なんか、ごめんな」
「これからも上手くいくように、応援するでごわす」
男3人で「恋は難しい」という話を、のぼせるギリギリまで延々と話していた。
ちなみにこの後、山田は付き合ってはないけれどよく遊びにいく幼馴染の女の子がいるらしく、有益な情報をくれた。
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