第32話 思案

「みなさん、準備はいいですか?」


 紅葉が立ち上がって周りを見渡す。

 俺を含めた班員全員、支度は整っていた。


「それでは……せーのっ!」


 みんなは掛け声と一緒に、両手を合わせる。


「「「「「「いただきます!」」」」」」



 ***



「いやぁ、なかなか美味しくできたでごわすね」

「来栖がじゃがいもを細かくしすぎなければもっとよかったのにねぇ」

「い、いいだろ別に! ほら、食べやすいし!」


 向かい側に座っている来栖、和泉、山田が仲良くじゃれている。


「涼くん、はーちゃん、美味しいね」

「あぁ」

「うん! すごく美味しくてとろけちゃう! えへへっ」


 俺と同じ側に座っている紅葉と狩谷も、楽しそうでなによりだ。


 ……俺はどうなのかって? そりゃあもちろん。


(林間学校で行ける、午前中のいい感じのスポットってどこだ!?)


 悩みに悩んでいた。





 夕日がいい感じに沈んできて、きれいな自然に包まれる。そのシチュエーションが当初俺が考えていた計画だった。

 これでいい雰囲気を作って……のつもりだったのに!


「紅葉、狩谷ちゃん。お水取り行くけど一緒に行く?」

「あ、うん。じゃあみんな、ちょっと行ってくるね」


 女子三人がとてとてと、施設のほうに歩いていく。

 やがて姿が見えなくなった時に、暗黙の了解のように男どもは顔を突き合わせた。


「涼ちゃん、困ってそうだけど、どした?」

「なんでも聞くでごわすよ」

「どうしよう! 助けて!」


 女子たちが帰ってくるまでの間、緊急で作戦会議が開かれた。



 ***



「どうしよう! 助けて!」


 男子たちに聞こえないところまで移動した後、私たちの作戦会議が始まった。


「どしたのさ紅葉。カレー食べながら難しい顔してたけど」

「そうだよくーちゃん。何があったの?」

「それがね……」


 自由行動日の行き先。

 今私が一番悩んでいることだ。


「一番良い時間帯を決められるじゃん。何が不満なのさ」

「涼くんも午後の方を決めようとしてくれた分、プレッシャーというか……」

「あー、くーちゃんらしい悩みだね」


 この林間学校で私から行動するって決めたけど、やっぱりなんだか恥ずかしい。変に張り切りすぎとか思われないだろうか……?


「大丈夫。紅葉ちゃんが思うようにやれば、それが最善だよ」

「そうそう。紅葉、自信もって!」

「そう、かなぁ」


 まだ不安は残るけれど、それでも。


「……うん。やっぱり頑張ってみるよ!」

「うんうん、その意気だ!」

「頑張れくーちゃん!」


 張り切って少しくらい空振る方が、多分後悔もないはずだ。

 例えばきれいな夜景が見えるところで……。


「あ、でも自由行動は夕方までだから、はしゃいで帰るの遅れないようにね?」

「……」


 と、とにかく頑張るぞ!

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