第29話 お米係
「来栖、お米研ぎに行こ」
「おう」
私、和泉桜と来栖はお米を研いで炊く係になった。
残った四人は、狩谷ちゃんたちが機転を利かせてさらに二人ずつに分かれたらしい。これで紅葉と藤ヶ谷君の二人の時間がうまい具合に作れそうだ。
「二人きりにできそうだね、紅葉たち」
「あぁ。なんだかんだハイキングの時の買い物以来?」
「そうだねぇ。私たちの知ってる限りでは、だけれど」
他にも二人の時間を取っているかもしれないけれど、学校行事だったり部活だったりで忙しくて、私たちも一緒にいることが多かった。
だからこそ、この旅行では二人の時間を満喫してほしいなぁ。
「とりあえずこのお米たちを井戸のところに持っていかないとね」
「おう。力仕事は俺に任せとけ!」
「……何かっこつけてんのさ。そこまで力自慢のタイプでもないくせに」
「そんなこといわんでもいいじゃんかよぉ……」
来栖は力が抜けたように項垂れる。
……しかし、お米を用意する手を止めようとはしない。
「でもやっぱ俺は不器用だし、お米あらうのは桜に任せきりになりそうだからさ。これくらいやらせろよ」
「ふーん。……好きにすれば?」
こいつ普段はおどけて少し頼りないくせに、こういうところはしっかりしてるから、時々調子が狂ってしまう。
「それなら早く運んでね。私先に走って行ってるから、待たせないでよ!」
「え、ちょ。流石に走れないからそれはないって! ひどい!」
私も来栖も、心から笑いあった。
***
「なんかさぁ」
「ん、どした桜」
井戸の水を来栖が準備して、私が研ぐ。
そんな作業しながら、私はそっと呟く。
「紅葉たちの関係でたまたま出会った私たちだけどさぁ」
「うん」
「偶然だけど、出会えて良かったね」
ボフッ、と来栖が噴き出して顔を赤らめる。
「な、なに恥ずかしいこと言ってんだよ!」
「んー今ふとそう思ったから?」
「たくもう……」
「ふふっ」
こんなつまらない会話で笑いあったり、何か特別なことをたくさんしているわけではないけれど。
「ねぇ尊」
「なんだよ次は」
「好きだよ?」
「……俺もだよ」
「俺も、好きだよ」
「よく聞こえなかったや。もう一回言って?」
「あぁーもううるさい! 早く終わらせて野菜切るの助けに行くぞ!」
「はぁーい」
おどけて笑いながら、むくれてしまった来栖の後ろをついて行く。
林間学校は、まだまだ始まったばかりだ。
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