第28話 飯盒炊爨

「「「「うわぁー、すごい!」」」」


 しばらく電車とバスに揺られた後、私たちは目的地に着いた。

 空に向かって高くそびえ立つ山々に囲まれた、美しい景色の広がる盆地。

 少しゆっくりめに後ろを歩いていた私と涼くんを置いて、他の四人は広場の向かって走っていった。

 でも、その気持ちはすごいわかる。それくらいには圧倒される景色だった。


「すごいね、涼くん」

「うん。流石にここまでの絶景とは思わなかったね」


 大自然の中の、小さなキャンプ場。

 そこで作るごはんが、美味しくないわけない。


「みんな! はしゃぐのもいいけど、早くカレーの準備するよー」


 林間学校一日目から、楽しいことになりそうだ。



 ***



「それでは、役割分担を決めます!」

「「「「「はーい、紅葉班長!」」」」」


 そう、私は林間学校の準備をしていたのもあって、この班の班長をしている。

 普通班分けとかで一喜一憂するものだけれど、イツメンの班だし何より私が決められるので、都合のいい組み分けにできるのだ。


「まず、来栖くんと桜ちゃんはお米係をお願いします!」

「「はーい」」

「残りのわたしたちは、ルーを作ろう!」


 なので、桜ちゃんと来栖くんの二人の時間を作れるのだ。

 これは我ながら完璧だろう。


「あのー、いいでごわすか?」

「はい山田くん。なんでしょう」


 山田くんとはーちゃんが、何か言いたそうな顔をしている。


「ルーを作るのも細かい分担が必要だと思うでごわす」

「うんうん。だからあたしたちで野菜切るから、鍋の準備お願いできる? えへへっ」


 なるほど確かに。

 桜ちゃんたちを二人にすることしか考えていなかったけれど、言われてみれば分けた方がいいかもしれない。


「じゃあそうしよっか。お願いね、二人とも」

「「はーい!」」





「なぁ紅葉」

「ん、涼くんどうしたの?」


 鍋の準備をしていると、涼くんが少し悩んでいるようだ。


「来栖たちを二人にするのは良かったんだけど……」

「うん?」

「山田たちも進んでグループ分けしたじゃん」

「そうだね。ありがたいことだけど、それが何か問題……?」

「いやぁ、なんていうか……」


 言いづらいことなのだろうか。


「あの二人も、実はデキてるんじゃないかって……」

「……?」

「山田と狩谷。だから二人になりたかったんじゃないかなって」

「え、あっ。あー!」


 つい大きな声をあげてしまった。他の四人に怪しまれてはいないかな、大丈夫かな……。

 ともかく、そこは盲点だった。

 そう聞くとなんだか、急にそう思えてきた。


「なんか、こっちの組にも気使わないといけないね」

「あぁ。結構大変だな」


 うーん、これから先の予定も変更しなきゃなぁ。

 班長として、みんなにとって良いものにするために、あとひと頑張りしなきゃなと、鍋を濯ぎながら思った。



 ***



「……なんか、どこかで変な誤解を受けた気がするでごわす」

「……あたしもそう思うよ」

「二組のカップルを同時に手助けするの、大変でごわすなぁ」

「うん、頑張らなきゃね」

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