第25話 もやもや

「涼ちゃん、帰ろうぜー」

「来栖も部活ないのか」


 来栖がいつものおちゃらけた感じで声をかけてきた。最近は俺と紅葉に変に気を遣っているのか、控えめだったのに。


「和泉さんは?」

「職員室寄ったら来るってさ。菊原さんは……林間学校の準備か」

「委員会がすごい忙しいみたい」


 確かに紅葉は今林間学校のしおり作りやらで色々と忙しいらしいし、来栖も多分それをわかっていて気にかけてくれたんだろうけれど。


「帰りどっかカフェ寄ってく? 涼ちゃんあんまり行かないでしょ」

「林間学校明けてすぐにテストあるんだから、その勉強がしっかりできているならいいけど」

「げ、忘れてた……。まさかとは思うけれど、修学旅行中トランプよりも勉強なんて言わないよな……? 痛っ!」



 体を縮ませて恐る恐る顔色を窺ってくる来栖の顔が、痛みに歪む。

 後ろから来た和泉さんが教科書で叩いていたのだ。


「それはあんたの学力次第だね」

「持ってくものは、トランプにウノに人生ゲームだよな? な?」

「「教科書に単語帳に問題集だね」」

「そ、そんなぁ……」


 まぁ流石にこれでは来栖が可哀想なので、多少遊ぶ時間を作ってやろう。

 やれやれと肩をすくめた俺と和泉さんは、項垂れている来栖を引きずって教室を後にする。


 ふと教室に残っている紅葉に目を向ける。

 同じ委員会の矢下と、なんだか楽しそうに笑い合って話している。


(……やっぱ、もやもやするなあ)


 林間学校が終わるまで、しばらくこの感情と一緒にいることになりそうだ。



 ***



「涼ちゃん、帰ろうぜー」

「来栖も部活ないのか」


 涼くんと来栖くんの話し声が聞こえてくる。


(一緒に帰りたかったなぁ)


 少しもやもやしたような、欲張りな感情が湧いてくる。

 最近二人で帰ってしまったので、少し気が緩んでいる。

 いや、だめだ。付き合ってもないのに、甘えてしまってはいけない。

 次はちゃんと告白してから。そういう風にけじめをつけないと結局引き伸ばしてしまいそうだ。


「菊原さん、これでどう?」


 考え事をしていると、矢下くんが今日こなす分の仕事の資料を見せてきた。


「あ、うん。……これでいいんじゃない?」

「じゃああとは、しおりに使う写真を選ぶだけかな」


 段々と委員会の仕事にも終わりが見てくる。しおりの制作も頑張っているし、結構やりがいがあったので私としては大満足だ。


「ところで菊原さん。この前ののHRのことなんだけど……」

「ん? あー……」


 この前のHR。それはおそらく、私が矢下くんの誘いを断った時の話だろう。

 なんか遠回しの告白を直接断ったような、そんな気まずさがある。


「藤ヶ谷くんのことが好きなの?」


 そう言って矢下くんは、私の肩越しに教室の後ろのドアに目をやる。

 私も目をやると涼くんたちが教室から出ていくところだった。


「……応援するよ。頑張ってね」

「ありがとう。えっと、あんまり言いふらさないでね?」


 ふへへ、と力無い笑いが溢れる。変な感じになっちゃたけれど、矢下くんもつられて笑ってくれた。


 なんだか気まずさも無くなったし、これからも頑張るぞ!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る