第21話 無意識
「よかったの? 天下の優男ことやのしーの誘いを断っちゃって」
「もう、からかわないでよね」
HRの司会を一旦終えて涼ちゃんと約束をした後、自分の机に戻って私はニヤニヤしてる桜ちゃんからそんなことを言われた。
どうやら教卓での会話を聞かれていたらしい。
「そもそも盗み聞きは良くないよ?」
「うぅー、ごめんてばぁ。怒らないで
「わかればよろしいのです」
茶番じみたやりとりを終え、とりあえず今回の本題を確認する。
「とにかく、林間学校の時の班はこの六人でいいよね」
私と涼くんと、その前の席の桜ちゃんと来栖くんの周りに山田くんとはーちゃんこと狩谷葉月ちゃんが集まっている。ハイキングに行った時と同じメンバーに、後から仲良くなったはーちゃんを加えた新しいイツメンだ。
「私もみんなともっと早く仲良くなってればハイキングも一緒に楽しめたかもなのになぁ」
今はもうみんな同じくらい仲良いものの、後から加わったはーちゃんは少し残念そうに口にする。
「まぁまぁ。林間学校はもっと楽しいだろうから、良いじゃない!」
「それもそうだ。くーちゃんいいこと言うねぇ! えへへっ」
相変わらず愛想のいい、可愛い笑い方ものだ。そんな笑い方ができればもっと涼くんと仲良くなれるのかなぁ、なんて考えたりもする。
別に、嫉妬とかじゃないけど。はーちゃんと話してる時の涼ちゃんちょっと楽しそうだし……。
「山田も毎度巻き込んでごめんな」
「そうだよ、断っても良かったんだぞ?」
「いいでごわすよこの程度」
涼くんと来栖くんは山田くんに謝っていた。
山田くんにもいつも仲良いメンバーがいるはずだが、こちらの班に混ざってくれたのだ。
「みんなから任せたぞ、と頼まれたでごわすからね」
「お、おう」
何を任されたのかは分からないけれど、山田くんがこの班に来ることが快諾されたみたいなので良かった。
「はーちゃんのわがままなんだから、感謝しなきゃダメよ?」
「なんかあたし怒られてばかりな気がする……」
しゅんとして腰に巻きついてきたはーちゃんを慰めてあげよう。よしよしと頭を撫でるとすぐ機嫌のいい顔になった。
「自由行動のときは班で動く必要は無いってことで、決めるのはそれくらいかな」
「うん、スムーズに決まって良かったね」
桜ちゃんの言うように、他のグループもちゃんと決まったようだ。
「HRもいい時間だし、私ちょっと号令かけてくる」
「はーい」
学級委員として、教卓に立ってHRの終了と帰りの支度を促した。
……矢下くんとは少し気まずいけれど。
でも問題なく仕事もこなせた。
(とりあえず、涼くん誘えてよかったー!)
私は内心安堵と喜びでスキップしてしまいそうだった。
***
「紅葉、帰るでしょ?」
「あ、涼くん。うん、今日は委員会も何も無いよ」
どうやら一緒に帰ってくれるらしい。
……待って、今になってさっきの行動が恥ずかしくなってきた。
なんか、大胆すぎなかった?
涼くんと2人きりで向きあった瞬間自分の体温が上がるのがわかる。
「どうした? 紅葉、顔赤いよ。もしかして熱でもある!?」
「だ、大丈夫! 大丈夫だから!」
慌てる涼くんを何とか誤魔化して、私たちは帰路に着く。
そういえば、2人で帰るのは久しぶりな気もする。
最近は桜ちゃんと来栖くんがいたり、はーちゃんがいたりして、賑やかで楽しかった。
でも、やっぱり2人で、落ち着いて帰るこんな時間も悪くないなと思う。
中身のない話題でも、面白そうに笑う瞳。
少し大袈裟な身振り。
そして、いつも車道側を歩いてくれてる。
そんな優しい彼が好きだった。
「あ、紅葉危ない」
「え?」
物思いにふけっていると、制服の腕の裾を引っ張られる。どうやら自転車が来ていたみたい。
「ごめん、ぼーっとしてて」
「ううん。怪我ないなら良かった」
いつも車道側を歩くことと言い、腕じゃなくて服の裾を少しだけ持って注意してくれる当たり、無意識かもしれないけど紳士で優しいのが伝わってくる。
変わってないなぁ。
「ふふっ」
「ん? どうした?」
「ううん、なんでもない。いつもありがとね?」
「……こちらこそ、色々ありがとね。誘ってくれたり」
「いえいえ〜」
とても幸せな帰り道だった。
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