第20話 不意打ち
「林間学校の班決めします。適当に5、6人で組んでねー」
「ふじー、あたしもイツメンに混ざっていいー?」
学級委員の紅葉と矢下涼介が、指揮を取って今日のHRが始まった。
林間学校の班決め。それは今後の俺を左右するかもしれない、結構大事な決め事。
心の準備をしていると、狩谷が俺に話しかけてきた。
「なんだお前か。5人で奇数になるけど、それでもいいのか?」
「え、6人でしょ?」
「え?」
「ふじー、くーちゃん、さーちゃん、来栖。あと山田くん」
「山田もイツメン判定なのね……」
和泉桜だからさーちゃん、か。来栖が来栖と呼ばれてるのは……まぁあいつの性格的にしょうがないだろう。
「問題ないでしょ?」
「まぁそういうのは来栖に聞いてくれ」
そう答えつつも、俺にはある程度の余裕があった。
イツメン。それは仲良しグループ、常に同じメンバーで色々やるメンバーのことだ。
高校が始まって以来、俺と紅葉、来栖と和泉の四人でイツメンになっている。心の準備をしてるとは言ったものの、俺に心配事は特にないはずなんだ。
そう、大丈夫。いつも通りみんなと一緒に話せばいい、それだけでいいんだ。
「菊原さん。班、一緒に組めないかな」
うんうん、一緒に……。
え?
その声の持ち主は学級委員の矢下。
僕の隣の席に戻ってこようとしている紅葉を引き留めて話していた。
「ふじー、ピンチじゃない?? 大丈夫??」
「……やばいかもだけど、俺より慌てるな」
***
教室は各々の反決めなどの雑談で賑やかだ。が、そんな中、俺とその周りだけは静まっていた。
俺も狩谷も来栖も和泉も、供託の付近を無言で見つめている。ついでに少し離れた席にいる山田も。
「菊原さんと班組みたいなって思ってるんだけど」
「あー、ごめん。私もう約束している人たちがいるんだ」
「「「「「ほっ……」」」」」
なんだか教室に5人分の安堵のため息が聞こえた気もするが、ともかくピンチは去ったか……。
「そっか……。じゃあ、自由行動日、一緒にまわりたいんだけど、そっちはどうかな」
「「「「「っ!?」」」」」
自由行動日……!
それは本当にまずい。まさか俺以外に紅葉を誘う人がいるなんて。
まぁ確かに紅葉は優しいし可愛いし、そういう人が出てくることもあり得なくは確かにないんだけれど。
「菊原さん、どうかな」
「んー……」
狩谷の課題ではないけれど、自由時間をうまく利用して紅葉と話し合いをしようと思っていたので、これは本当にまずいかもしれない。紅葉と事前に約束しているわけでもないし……。
「ごめんね、矢下くん。約束はしてないけれど、自由時間に一緒にまわりたい人がいるんだ」
「……そっか。わかったよ」
紅葉はそう言って断った。
思わず胸を撫で下ろす。よかったぁ……。
方に無意識に入っていった力が抜けて、椅子の背もたれに寄りかかる。
「よかったね、ふじー」
「……うるさい。早く来栖に班構成について話してこいよ」
「ほーい。頑張ってね」
「おい、いつものあざとい語尾忘れてるぞ」
「ふじーにはやんなくていいの!」
そう言って狩谷はひとつ前の席に向かった。
俺はといえば、まだ安堵の余韻が残っていてくたくただ。
椅子に体重を預け、手をだらんと下げている。
そんな手が握られた。
急に手に触れた人肌の暖かさに驚くと、それは自分の席に戻ってきていた紅葉のものだった。
すぐに手が離れたけれど、俺の手には紙が一切れ残された。
「涼くん、約束ね」
この出来事に驚いて俺が何もできていないうちに、前の席で話している来栖たちに聞こえないように、紅葉は顔を近づけてきて耳元でそう言った。
その後何食わぬ顔でそのまま前の席の話に混ざりに行ってしまった。
「色々と不意打ちだろ……」
紙切れには、自由時間一緒に回りたい旨が書かれていた。
***
「やのしー、完全敗北だな」
「まぁこればかりは、しょうがない、かな」
「……やのしー、お前優しくていいやつだから幸せになってくれ」
「……うるせ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます