7/7 『30秒前』

「涼ちゃん帰ろーぜー」


 7月7日。それは彦星と織姫が一年に一度だけ会える日だという。天の川に橋がかかるのか、水がはけるのか。そんな屁理屈はどうでもいいが、ともかく特別な日らしい。


「すまん、今日用事がある」






紅葉くれは、かえろー」


 そんな特別な日に、私たちは短冊に願い事を書く。自分のこと、家族のこと、大切な人のこと。今年、私は何を書く? ……あなたは、何を書く?


「今日は寄らなきゃ行けないところあるから」



 ***



 目的地は近所の商店街。最寄り駅と隣駅の中間地点にあり、この時期はその真ん中に大きな短冊を飾る用の笹(というよりクリスマスツリーの再利用だ)が設置される。


「願掛けっていうのも馬鹿らしいけど、もはや習慣になってるからな」


 それに以前紅葉を見かけてから、七夕にはここに来ようと決めていた。当時は付き合っていたから、今年は寄りを戻せるかもしれないから。


「願い事なんて大層なものはないけれど」


 それでも。祈るくらいは許されてくれるだろう。







 私の最寄り駅と涼くんの最寄り駅は隣だから、七夕とかイベントがやっていたら会えるかもしれない。そう思って毎回通っているうちに習慣になってしまった。


「願い事なんていざ書くとなると思いつかないんだけどね」


 というか恋愛のこととか書くの恥ずかしいし、家族とか知り合いが見るかもしれないし。


「でも意思表示は大事って言うし!」


 私は短冊を手に取った。



 ***



 素っ気ない願い事。でも単純明快、シンプルイズベスト。僕はこれでいいんだ。


 今までだって頑張れた。これからだって頑張れる。私ならできる。


『逃げない』


『諦めない』


 これでいいんだ。


 これがいいんだ。






 他の人の短冊を眺めようと歩き始めて、2人がばったり会うのは30秒後のお話。

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