第12話 手紙

「それでは今日から授業始めるぞ。教科書を出せー」


 オリエンテーション期間が終わり、いよいよ高校での本格的な生活が始まる。


「……と言ったものの、最初の方の授業は中学の復習だからなぁ。そんなに面白くないんだよな」

「一度聞いたことのあるのに、もう一度説明されるのって退屈だからね」


 しかもここは仮にも進学校。受験によって数々の勉強、特に中学校の義務教育によって教えられる教科書の内容以外のものに触れてきた僕たちにとって、中学校の頃の復習など今更やるようなことでもないのだ。強いて言うなら、どの先生がどんな教え方をするのかを知ることができる期間だ。……もちろんちゃんと板書はするのだけれど。



 ***



「えー、つまりここで中点連結定理を使うわけであります」


 当然わかりきった定理やら公式やらが飛び交う数学の授業。自然とペンがノートの隅へ走り、見事な落書き(?)が誕生する。もともと絵心があるわけではない僕の落書きは、ほんとに落書きであるが。


(涼くん!)


 周りの集中力も切れてきたな、というタイミングで、隣の紅葉から声がかかる。顔を向けると、メモらしき紙を渡してきた。小さなノートみたいなやつ。


『ねむそうだね』

『やかましいわw』


 すぐに書き込んで返す。今思えば、中学生の頃は近所の席の人とこんなやりとりしてたっけ。紅葉はそんなことをしていたイメージはなかったけれど。


『今日放課後は暇?』

『特に予定はないかな』

『あのね、駅前にできた新しいクレープ屋さん行きたいんだけど、行かない?』


 確かに言われてみると学校の最寄り駅のすぐ近くに開店セールの旗を見たような気もする。


『……いいよ。カロリーとかは大丈夫?』

『私そんなに太ってないもん、失礼な!w』


 そんなことを書いてきながら、「太ってないよね」と気にしている。大丈夫、太ってないから。


「やっぱ好きだなぁ」

『声に出したらバレるかもでしょ! 書いてよ! なんで言ったの?』

『なんでもないよ』

『えー、なにそれー』


 この気持ちに嘘をつくのは無理だった。

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