第11話 部活体験
「姉ちゃん、コーヒー一杯」
「なんでお前がここにいる。そしてここはカフェではない」
ハイキングのせいで筋肉痛に悩まされながらも渋々学校に来た僕は、放課後化学クラブの見学に来ていた。
「なぜいると言われても、オリエンテーション期間だから部活体験しなきゃいけないんだよ。入る部活も決めてないし」
「だからってなんで私しかいない化学クラブなのさ。先輩たちが引退しちゃったから、人を集めなきゃいけないのは確かなんだけれど。……ブラックでいい?」
そう言いながら少し高めの位置で結ってあるポニーテールを揺らしているのは、
「ミルクはないの?」
「化学実験室に牛乳を常備しているわけないでしょう」
「じゃあ砂糖はある?」
「あー、砂糖ならそこらへんの瓶に入ってるよ。真ん中のかな」
「炭酸ナトリウムって書いてあるんですが!?」
「大丈夫だと思うよ? 白いし」
「理科室でのこのやりとりに少し憧れてはいたけれど、実際に言われると怖い言葉だな!」
そう。義姉がいるというのももちろんだが、化学クラブに来た理由の一番はビーカーで飲むコーヒーに憧れていたからだ。
「そういえば、涼は彼女ちゃんと同じ部活動じゃなくていいの?」
「“元”だよ。自然消滅しちゃった」
「……この前一緒に登校してるところみたけど?」
「あの場にいたのかよ!?」
※第2話参照
「だからまだ付き合ってるのかと思った」
「あれはたまたま一緒になっただけで……」
「ちょっと押さないでよ、桜ちゃん……。あの、部活体験で来たんですけど」
お互い机に体を乗り出して口論してるとドアが開き、紅葉が入ってきた。よくみると後ろに来栖と、和泉がいるから半ば無理やりだろうけれど。
「……お邪魔しました」
「お邪魔してないから帰ってこい紅葉!」
***
「そっかそっか、紅葉ちゃんは
「別に、そういうわけでは……」
「姉ちゃん、紅葉をいじめるな。あと頭ぐりぐりすんな」
事情を説明した後、5人でテーブル(もちろん実験用のだ)を囲んでコーヒーを飲んでいる。なんとか誤解が解けて良かった。
「じゃあとりあえずみんなこの部活に入っちゃえば? 悪くはしないよー」
「いいじゃんいいじゃん! 涼ちゃん入ろうぜ!」
「紅葉ちゃんも、ね?」
みんながノリノリで勧めてくるのを聞き流しつつ、一瞬紅葉の方を見た。……あ、目があった。
紅葉は何かを訴えるような目でこちらを見ている気がした。僕はみんなにバレないうちに紅葉から目を離した。
「まぁ、入ってもいいかな」
「じゃあ、私も……」
「はいっ! じゃあ決まりね! 部活の詳細は追って連絡するよ!」
部活ってこんな簡単に決めていいものだっけ。そう思いつつも、みんなと話していると自然と笑みが溢れた。それが自覚できるくらいには楽しかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます