第9話 雨

「いやぁ、降ってきたな」

「降ってきたね」

「ここで降るとはな」

「降ってきたわね」

「降ってきたでごわすね」


 これがもし恋愛漫画やアニメだったら『走れー!』みたいになって小さな屋根のあるところで少し雨宿りして『2人きりだね……』『あぁ、そうだな……』みたいな展開が繰り広げられると予想されるが、残念ながらちょうど途中にあったお食事処で全員揃って休憩してるときに雨が降ってきた。


「まぁ霧雨程度だからよかったでごわすね」

「あっちのほうに晴れ間が見えるし、通り雨かな」

「涼ちゃんトイレ行っとく?」

「そろそろ雨止みそうだし、行っとくか」


 そう言って一旦その場を離れる。ただ今日は珍しく、男子トイレがそこそこに混んでいた。


「あー、混んでるな」

「やめとくか?」

「んー。あ、涼ちゃん。覚悟しておいてね」


 来栖は少し考えてから意味のわからないことを言った。


「は? 覚悟?」

「じゃあ俺忘れ物したから並んどいてー!」

「お、おう。……おう?」


 トイレ行くのに忘れ物ってなんじゃらほい。



 ***



「結局あいつ帰ってこなかったし」


 何がしたかったんだろう、と思いながらみんなが待っているであろうベンチにむかったのだが。


「……紅葉、他のみんなは?」

「そ、それがね……」





 〜数分前〜


「ただいま帰ったぜ! もう雨止んだし早く山頂行けば虹見れるかもな!」

「ほんと? 私見たい!」

「儂もみたいでごわす」

「「「じゃあ行こう!」」」

「え、あの、涼くんは……」

「「紅葉が待っててあげて!」」






「と言うことがありまして……」

「なんかごめんな?」


 来栖が覚悟しておけといったのはこう言うことだったのか……。


「あ、でもここからでも虹見えるじゃん」

「え。ほんとだ!」


 木々の間から6色の綺麗な光が顔を出している。久しぶりに見た虹だった。


「俺たちも行こうか」

「うん、そうだね」


 僕たちは並んで歩く。少しだけ、付き合っていたあの頃のような気持ちだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る