第7話 菊原紅葉の話

「はぁ、眼鏡かっこよかったなぁ」

「紅葉は藤ヶ谷くん好きだもんね」

「う、うるさいなぁ! もう!」

「あれ、違った?」

「ちが……くはないんだけど……」


 買い物に行った日の夜。私と桜は毎週土曜日の恒例になっている通話で“会議”をしていた。


「そういう桜はどうなのさ! 来栖くんの眼鏡見たんでしょ!」

「この世にはね、眼鏡が驚くほど似合わない人もいるんだよ……」

「あ、似合わなかったのね」

「可愛かったけどね」


 これを来栖くんに聞かせてやりたい。

 何はともあれ、お互いお買い物を堪能できた。


「結局さ、紅葉はどうしたいの?」

「ん?」

「藤ヶ谷くんのこと」

「……」

「まだ好きなんでしょ?」

「そりゃ好きだけど……」


 これはあくまで予想でしかないけれど、涼くんは私と同じようなことを考えていると思う。でも、中学で付き合ってうまく行かなかったのに、今更復縁なんて。受験という壁もあったけれど、自然消滅のような形になってしまったから、怖い。また離れるのが、また悲しい思いをするのが怖いんだ。


「……そんなことになるくらいだったら、今のままの関係の方がいいかなって思っちゃうな」

「そっかぁ」


 そして、多分涼くんも同じ気持ち。お互いに恐怖で震えてるんだ。今の関係で安定しているなら、それでいい。その方がいい。


「……そもそもさ、自然消滅ってなんだろう?」

「え、恋人が何も言わずに別れちゃうことでしょ?」

「そうだね。じゃあ別れるって何かな」

「お互いが付き合っていられないなってなって、お付き合いをやめること……」

「じゃあ紅葉は藤ヶ谷くんと付き合いたくなくて今の関係になったの?」

「それは……」


 桜の言おうとしていることがわかった。


「多分さ、その点でも藤ヶ谷くんも同じ気持ちだと思うよ」

「……そう?」

「少なくとも!」


 電話越しにも勢いよく訴えかけているのが伝わる。


はたから見たら2人が自然消滅したようには見えないよ」

「……そっか」


 それならもう少し、頑張ってもいいのかな。


「それどころか初々しいカップルに見える」

「うるさいなぁ! もう!」

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