第6話 お眼鏡

「よぉし、これで問題なく2人の行く末を見守れるぞ!」

「ちょっとは落ち着きなよ……」

「いいじゃんか〜」


 二手に分かれたのち、私は来栖を連れてデパートの最上階である5階に来ていた。私たちは上から、紅葉たちは地下一階からまわろうという話になった。


 まずは5階。インテリア系が多く陳列されているコーナーである。無◯良品とか。


「「ベッドー!!」」


 当然、人間の心理としては飛び込みたくなるのだ。

 ……もちろん腰掛けているだけで、飛び込んでないけど。


「やっぱりさ、無◯良品のベッドって最高だと思うんだよね!」

「枕の質感といい、掛け布団の暖かさといい、やはりここは天国か……」


 良い子の皆さんは飛び込まないようにしましょう。





「もう3階か。早いな」

「まぁ食べ物とか必要なものは地下にあるから、特に今まで買うものなかったもんね」


 そんなことを言いつつ歩いている。3階は決まったコンセプトのお店があるわけではなく、本屋とか色々なお店があるフロアだ。


「あ、いいもの見つけた」

「いいもの? ……あ、眼鏡売場!」

「掛けてみるか」


 それぞれ思い思いの眼鏡をかけてみる。

 ……好きな人の普段見ない眼鏡姿とかは気になるよね。


「でもあんた馬鹿っぽくなるからやめたほうがいいよ」

「ひどっ!」


 決して照れ隠しなんかじゃない。本当に少し似合わないだけで、やっぱ眼鏡はかっこいい……。

 って何言ってんの和泉桜!


「じゃあ紅葉に連絡しといたから、少しこの階で待機しよっか」

「え?」


 そんなことよりお待たせしました。皆さんお待ちかね、本編の始まりです。


「あんた《読者様》も眼鏡で2人がドギマギするところ見たいでしょ?」

「……なんかメタい発言のように聞こえた事は気にしないでおく」



 ***



「眼鏡売場だー!」

「なんかさっきよりテンション高いな」

「べべべべ、別に何か企んでなんてないよ?」


 というわけで、僕たちは地下で食料の買い物を終え3階まで上がってきた。途中紅葉がスマホをいじってソワソワしてたけど。


「ということで、じゃん!」

「うわぁ!」

「眼鏡をかけしゃせてくだしゃい!」








「この青いやつ! お願い!」

「はいはいわかったから……」


 別に眼鏡かけるのはなんともないんだけれど、紅葉は仮にも元カノである。

 ……確かに、眼鏡姿見てみたい気もするな。


「代わりに紅葉もこれ掛けてみて」

「わ、わかった」

「かけた?」

「うん。じゃあせーのっ、で振り向こっか」

「「せーのっ」」


 その後しばらく顔を合わせることも言葉を交わすこともできなかった。


 ……めちゃくちゃ似合ってた。



 ***



「2人とも、お眼鏡にかなったようで」

「「な、なんのことでしょーかー!」」


 話によると来栖と和泉が眼鏡の掛け合いをして、紅葉にも教えたらしい。

 なんだお眼鏡にかなうって。眼鏡だけにってか?


「まぁとにかく、荷物は揃ったからいいじゃない」

「そうだな。2人も仲良くなれたようだし」


 そういって2人はスタスタと歩いて行ってしまう。


「もうなんなの……」

「何がしたいのかわからねぇ……」


 無駄に疲れた1日であった。

 ……というか紅葉と行動してると心臓がもたない気がするな。


「私たちも帰ろっか」

「そうだな」

「眼鏡、似合ってたよ」

「紅葉だって」

「……」

「……」


 しばらく沈黙ができたけれど、それは全く辛いものではなかった。

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