第5話 お買い物

 土曜日、午前8時。

 今日は昨日決めた班のみんなで、親睦も兼ねて必要なものを買いに行く約束をしている。

 そして紅葉と協力して、来栖と和泉の邪魔にならないようにする手筈になっている。その第一段階として、昨日作ったLINEのグループに一言メッセージを送る。


 りょー『みんなごめん、今日体調が良くないかも』

 紅葉🍁『ごめんなさい。今日は体調が良くないので』

 くるみこ『すまん、腹の調子が悪くて』

 Saku『ごめーん(>人<;)今日はちょっと』

 山田『大変だす。急用が入りやした』


 そう、このメッセージを僕と紅葉と山田が送れば後は二人で……。


「ってあれ?」


 同じようなメッセージが人数分。

 どうしよう、このままだとみんな僕のように家から出ないことになる。それはまずい。これじゃあ2人の仲を深めるどころか、誰1人として買い物をできないじゃないか。

 僕はみんなが参加しそうな文面を考え、急いで追加の文章を打った。


 藤ヶ谷&菊原&来栖&和泉『集合時間遅らせない??』


 山田太郎『今日は家でおとなしくしてるでごわす』


 いやお前は休むんかいっ!



 ***



「いやお前は休むんかいっ!」

「まぁ結果的には良かったんじゃない? 藤ヶ谷くんと紅葉は一緒に買い物させることができそうだし」

「あ、山田からLINEだ。もう必要なものは昨日友達と買いに行ったから大丈夫でごわす、だってさ」


 待ち合わせ場所のデパートの大広場。僕たちより一足先に着いていたらしく、来栖と和泉が雑談していた。


「お待たせ〜、桜ちゃん」

「早いな、お前ら」

「そうか? 涼ちゃん達だって集合5分前じゃねぇか。変わんねぇよ」


 そんなことを話しつつ、紅葉と視線アイコンタクトをかわす。紅葉も準備は良さそうだ。


「それじゃあ、二手に分かれて買い物しよう」

「あ、涼ちゃんナイスアイデア! ペアはジャンケンで決めるかー!」

「え? お、おう!」


 あれ、思いの外スムーズに進んでる? 普通二手に分かれることに疑問を覚えないか?

 というか、ジャンケンとなると来栖と和泉を一緒にできないかもしれないじゃないか。こうなるとは思わずにジャンケンの打ち合わせとかしてないし……。


「いくぞー! さーいしょーはグー!」


 やばいやばい! どうすれば……。


「ちょっと待って!」

「おう、どうした」


 紅葉がじゃんけんの掛け声を遮った。そして……。


「私……、涼ちゃんとまわりたい、なぁ〜」


 袖をくいっと引きながら言ってきた。

 流石の来栖も和泉も「え? え?」と困惑した様子でこちらを見ている。


「……だめ?」


 目で「こうすれば作戦通りでしょ?」と言ったように訴えかけてくるけど……。

 問題なのは紅葉が上目遣いでこちらを見てきているということ。流石にそれは反則です。


「えっと、じゃあ、そういうことで……」

「……涼ちゃん、顔赤いよ」

「だまれくるすちょーしのんな」





 少し焦ったけれど、何はともあれ来栖と和泉をペアにすることができた。こちらはこちらで時間を潰すとしよう。

 ……紅葉がああ言ってくれたし、今日くらいは罪悪感なんて捨てて楽しんでもいいのかな。


「じゃあしばらくはデパートで色々見てまわって、またここに集合で」

「意義なし!」


 どうやらいい休日になりそうだ。

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