第3話 学秀塾と派手な男

 10分ほど歩くと目の前に大きな建物が現れた。

 それはレンガでできており、木製の家々が連なる街では一風変わった雰囲気を醸し出していた。

 門には「学秀屋」と書かれた表札が掛けられていた。

 レアはその大きな門を通り過ぎ、横にある小さな扉から中に入った。

 まだ、朝だからなのか中はガラリとして、時折、警備員のような強そうな男が立っている。


「レア。ここはなに?」

「ここは、学秀屋というところだよ。」

「がくしゅうや?」

「そう。ここは学を深める場なんだ。」

「レアもここで学んでいるの?」

「私は・・・そうだね。どちらかというと、教えているのだけど。」


 とレアはすこし恥ずかしそうにした。

 いつのまにか大きな扉の前に着くと、その重そうなドアを開け中に入った。

 そこは壁一面の本棚にびっしりと本が並び、二階まで吹き抜けの高い天井に届きそうなほどだった。


「ここにはたくさんの本があるから、なにも知らない君にはちょうどいいんじゃないか?」

「だめだよ。ぼくは字が読めないみたいなんだ。本は知っているのだけど、この文字は知らない。」


 と近くにあった一冊の本をパラパラとめくりながら言った。


「そうか・・・。」


 レアは真剣な表情で首を傾けていた。。


「君はここですこし待っててくれ。」

「うん。」


 レアはテンを心配そうに見ると、くるりと向きをかえ早足でドアから出て行った。

 長く続く廊下をてくてくと歩くと、また別の大きな扉の前に立った。

 扉の横には学長室と書かれた札が掛かっている。

 今度はノックを三回し、返事が聴こえてからドアを開けた。

 すると、薄暗い部屋の椅子に座り頬杖をついている男がいた。赤と銀の派手な着物を着て、その濃い眉とツンツンとたった赤みがかった髪が印象的な男だ。


「今朝は大変だったようだな」


 男が前触れもなく話し始めた。


「はい。です。」

「そうか。犯人はすぐに見つかるだろうけど、こうも事件が続くとね。問題はきっともっと違うところにあるんじゃないかと思うんだよ。」

「はい。今朝の犯人、傷口がとても綺麗で、小さな傷はもう閉じかけているものもありました。おそらく鎌鼬の類の者だと。」

「なるほど。はは。君は優秀だな。」

「笑い事ではありません。」


 レアの辛辣な、しかし真っ当な言葉に男はぐうの音もでない様子だった。


「きみは少し笑ったほうがいいね。でもまあ、たしかにそうだな!」


 と男は満面の笑みで言った。

 はぁ。とレアは小さくため息をつくと


「実は昨夜に一人の男の子を拾ったのですが…。」


 と、話し始めた。


 *


 昨夜、レアは岸辺によく咲いている夜草を採りに出掛けた。

 すると、海藻の中からほのかに青い光が漏れているのを見つけた。


 なんだろう。


 レアはゆっくり近づいて海藻をめくると青く光る薄い膜に包まれた男の子が横たわっていた。


 この膜、なんだ?この子を守っているみたいだな。

 迂闊に剥がさないほうがいいよな…


 男の子は服を着ていなかったので、青い膜のうえから自分の羽織を抜いで男の子に被せて抱きかかえ、少年の治療のため早足で家へと向かった。

 家へ着くとテーブルに少年を寝かせ、少年を覆っている膜の表面を少しナイフで薄く切り、拡大鏡でそれを観察した。


 うーん。やっぱりわからないなぁ。

 クラゲの傘にも似ているけれど、触手は付いていないし…


 うっ…


 少年が顔をしかめてピクッと動いた。

 よく見るとその身体にはキズが多数あり、中には化膿しているものもあった。


 いけない。とにかくはやく手当てしないと。


 と、今度は大胆に膜にナイフをあて、少年に当たらないように慎重に膜を裂いた。

 レアは少年に手を当て、真剣な表情でしばらく少年をみつめると、壁の棚に並んである小瓶をいくつかとり、丸い水槽に入れていった。すると、水槽の水は翡翠ひすいの色に光りながらひとりでにぐるぐると混ざり透明にもどった。


 よし。


 とレアは少年を抱え水槽の中へ入れた。

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