Luxury Room/Invitation
「お客様のお部屋はこちらになります。」
そういって案内されたのは911号室。随分と不謹慎な部屋番号だ。俺は思わず顔をしかめる。しかしリンダは気にしていないのか、そのまま俺にルームキーを手渡してきた。
「それでは、ごゆっくりどうぞ。」
ベルガールはそのまま恭しく一礼し、その場を去る。廊下には、俺と荷物持ちの二人だけが残された。荷物の整理をしなければならないし、何より眠気が限界まで来ていたので、直ぐにキーを差して回す。そして、ゆっくりと扉を引いた。
そこには、スイートルームと言っても差支えが無い程洗練された空間があった。
「……おいおい、これでスタンダードか?」
「ええ、お間違い在りません。」
思わず使用人のに問うてみたが、即刻否定された。どうやらこのホテルではこれが標準らしい。優れている分には文句は無いので、直ぐにベッドへと向かっていった。
使用人の二人は、テレビの近くに荷物を置いて、直ぐに出て行った。それを確認し、俺は用意されていたナイトウェアに着替えて直ぐにベッドへ飛び込んだ。全身を温かく包み込むような優しい感触が心地よい。
既に限界に近づいていた俺がその誘惑にあらがえるはずもなく、あっという間に深い眠りについた。
*
時刻は午前二時頃。俺は闇夜に飲まれた部屋に響く、ノックの音で目を覚ました。寝起きではっきりしない意識の中で、手を弄って枕元のランプをつける。そして、寝ぼけ眼を擦りながら、非常識な訪問者を迎えに行った。
「こんな遅い時間になんだってんだ……? あれ、お前さっきのベルガールか……? 確か、リンダと言ったか」
「夜分遅くに申し訳ございません。ええ、お客様をご案内致しましたベルガール、リンダですよ。」
扉を開いた先に居たのは、間違えようもない、あのベルガール――リンダであった。しかし、身に纏っているのは勤務中のスーツではなく、可愛らしい瑠璃色のドレス。彼女の整った顔立ちも相まって、とても美しく見えた。
「ああ、そんなことはどうでもいいんだ。客が寝ている時に押し掛けるとは、随分非常識だな……。」
「申し訳ございません……。実は、先程ご案内しておりました時に言いそびれた事が御座いまして。」
彼女がここに来た理由をやや厳しい態度で問い詰めるが、全く気負う様子もなく、堂々とした態度で説明を始めた。
彼女が言う事には、このホテルには本格的なバーがあるらしい。宿泊客は勿論、ホテルの従業員もよく利用していて、かなり賑わっているというのだ。彼女は、そこへ飲みに行こうと誘いに来たと言った。
「うーん……軽く寝て疲れも少しはとれたし、行ってみるとするか……。」
「有難うございます。では、部屋の外で御仕度をお待ちしております。」
了承の返事をすると、彼女は優雅に一礼して、謝辞を述べた。
それを見て、リンダに対する劣情の様なものが湧いた。というのも、彼女は外見だけでもとても美しく、一目見れば誰もが惚れてしまうような曲線的な体つきをしている。胸も程よく膨らみ、尻もかなり大きい。顔もモデルとして通せる程きれいに整っている。
そしてさらに、そこに内面の美しさが重なっているのだ。……いや、実際には俺は何も知らない訳だが。しかし俺には、基本的に他者を重んじて、他者が最も利益を得る行動を常に考えているといった印象を受けた。
もしかすると、かつての彼女の面影を重ねているだけなのかもしれない。だが、それでもいいかと思えた。
俺は少し狼狽しながらも彼女に軽く会釈をして、一度部屋の扉を閉じた。
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