第44話 イラナイ
俺はあの日を思い出していた。
RIBERIONが、アマチュアバンドとしては有名になり始めた頃。声をかけてきたプロダクションがあった。
そのプロダクションは有名なところで、見る目だって確かだった。プロモーションも抜群に上手い、まさしくやり手という言葉がふさわしいところだった。
だが、プロダクションってやつはそれぞれに特色ってやつがあるもんだ。当然、RIBERIONに声をかけてきたプロダクションだってある特色を抱えていた。
それは、女性アーティストのリリースに特化している、というもの。
当然俺は言われた。
「キミは、うちには要らないかなあ」
――その日、俺の部屋がひとつ封印された。
* * *
「ここは……」
みづきを連れてやってきたのはμ’sだった。
すでにライブを終えたμ’sの窓は、しかしまだ明るかった。軒先では何人かがタバコを吸いながら駄弁っていて、二階のバーからは打ち上げの最中からか、時折笑い声なんかが聞こえていた。
「どうしてここに?」
「ついてくりゃ分かる」
後ろのみづきにそう告げて、μ’sの中に入る。
するとたまたま、奥の方からオーナーがちょうど現れたところだった。
「おうりゅーこ。なにしに来たんだお前」
「ッス、スタジオ、借りようと思って」
「はあ? これからだぁ?」
盛大にオーナーが顔をしかめる。とても嫌そうな顔だ。
「お前時間分かってんのか。無理に決まってんだろこれからなんて」
「そりゃ、分かってますけど」
「分かってますけど、じゃねーよバカ野郎。帰れ帰れ」
そんなこと言いながらも、オーナーは一度また奥に消えると、すぐに出てきて俺に鍵を放って渡してきた。
「ったく……久々に顔出したと思ったら、こんな時間にスタジオ貸せとかよお。ほんと、お前変わってねーなこのボケが」
「オーナーの口の悪さも相変わらずっすけどね」
「俺のどこが口悪いってんだ? ぶん殴るぞコラ」
そういうところだよ。
「それじゃ、借りますね」
みづきを伴い、スタジオへと向かう。だが、そんな俺にオーナーが話しかけてきた。
「おいりゅーこ。言っとくけど、スタジオはラブホじゃねえかんな。妙なことすんなよ」
「誰がそんなことするか! 別にただ……ちょっと探し物するだけっすよ」
「探し物か」
なるほどな、とオーナーが呟いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます