第29話 どちらの……?
駅を出たあと。俺とみづきは、時間も時間だったので適当な店で食事を済ませた。
入った店を出る頃にはもう日がかなり傾いていたので、俺はその足のままみづきを家まで送ることにした。
「……んじゃね」
いつもの曲がり角で、みづきがそう言って手を振ってくる。みづきを家に送り届ける時、いつもこの場所で別れている。
夕方だけれど、まだ日が落ちきってはいない、そんな時間。デパートに出かけたのは昼を過ぎた辺りだったから、だいたいこんなものだろう。
「おう」
こちらに手を振るみづきに向かって、俺も軽く笑って手を上げる。するとみづきが、くすぐったそうな笑顔を浮かべた。
みづきのピンク髪が、夕暮れ時の赤い光に照らされて真っ赤に燃えたみたいになる。その様はなんとも幻想的で、なんだか眩しい思いがした。
「……今日は結局ご飯作ってあげられなくてごめんね」
そう言って妙にしおらしく謝ってくる態度がおかしくて、つい「ふっ」と笑いがこぼれた。
「気にすんなよ、そんなこと。むしろ、俺だっていつも作ってもらって助かってんだ。お礼を言うのはこっちだよ」
「……あたし、まだあんま料理上手くないのに?」
「そこは、ま、今後の課題として――みづきと飯を食うのは悪くないってことだ」
一人で食べる食事は味気ないが、みづきと一緒だと不思議と温かく感じるのだ。同じものを食べていても、ただそれだけで食事が楽しい時間になる。
もうだいぶ長いこと一人暮らしを送っている俺にとって、その温もりはとっくに得難いものとなっているのであった。
「そっか」
嬉しそうにみづきがはにかむ。しかし、すぐに思い直したように、
「いやいや。料理の腕のほうだって、今に認めさせてやるんだからっ」
などと拳を握って気合を入れていた。
そして不敵に唇を歪め、こちらに指を突きつけ宣言してくる。
「待ってなさいよね。そのうちタツトラ君に、『超おいしい!』って吠え面かかせてあげるんだから!」
「それは嬉しい吠え面だな」
俺にとって得しかない宣戦布告が微笑ましい。つい、口端が緩むのを感じた。
「その日が来るのを楽しみに待ってるよ」
「……んっへへっ」
最後に短く微笑みを交わして、俺とみづきはほとんど同時に踵を返した。
「――さて、と」
朱に燃えている西の空を見上げながら、取り出したタバコを口に咥える。
それからタバコの先に火をつけたところで、自宅に向かって足を踏み出した。
だけど十歩も行かないところで、急に目の前に現れた
「ちょっと!」
と、どこぞの万引き少女に
「あんたッ、お姉ちゃんのいったいなにッ!?」
……どちらの妹様ですか?
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