第15話 荒神

 「さぁ~てぇ~、あの者達は心を入れ替え、神々をうやまう様になったかなぁ~」

 「主神様、そろそろ許してやって頂けませんか」


 「うぅん、かめを前に食べ物を置いて食事をしているな、楽しげだ」

 「え~、そうでしょう、そうでしょう、主神様のおかげです」


 「そうかヘルメ、では神々をうやまう様になったのだな」

 「主神様、エピメもパンドーラも、かめを開けてしまったジュリエットも、人々はみな、私達をうやまっております」


 「そうかそうか、ふむ、良きかな良きかな」

 「それですね主神様、逃走とうそうしたしきものどもを、連れ戻した方が良いのでは」


 「ふむ、そうだな、我がいとし子にわざわいをなす前に連れ戻すか」

 「ですよねぇ~、今すぐに連れ戻しましょう」


 「しかし、せぬなぁ~」

 「な、何がです、さぁ~、そく、連れ戻しましょう」


 「なぁ~、アイデース、…何にやけてるんだ」

 「なっ、何でもないよ」


 「ん~~~、ペルの事でも考えてたのかぁ~」

 「ちっ、違うよ、エルピスだよエルピス」


 「アイデース、本当に小っちゃい子が好きだね」

 「か、可愛いじゃないかぁ~エルピス」


 「あぁあ~、分かった、で、エルピスがどうかしなの」

 「いや、かめの底に引きこもっちゃたけど、今楽しそうにしてるから」


 「そう、そこなんだよ、アイデース」

 「えっ、何が、我等のいとし子が幸福であるなら、俺達の至福しふくじゃないか」

 「そ、そうですよ主神様、ささ、サクッと連れ戻しましょう」


 ヘルメ様っ、頑張がんばって、この身勝手みがってでスケベな神様を何とかしてっ。


 「ぽーちゃんさぁ~、どう思う」

 「あっ、あっ、御免なさいっ、御免なさいっ、アム、浮気とかじゃないんだ」


 あぁ~、ぽーちゃん、浮気したんだぁ~。


 「・・・ポー兄貴、…またぁ」

 「あ、アイデースは小っちゃい子だからできないだけだろうっ」


 「でっ、できるしっ、ペルも赤ちゃん欲しいって言ってるしっ」

 「アイデース、エルピスに『おにいちゃん』って、呼ばせてたよな」


 「それはエルピスが」

 「おにいちゃんとお風呂は入ろうか、『うん、はいるぅ~』、見たいなぁ~」


 「温泉なんだから仕方無いだろうっ」

 「海って、広いなぁ~」

 「何だよ何だよっ、もう姉さんに言ってやるっ、島のニンフ達に育てさせてる男の子」


 「あっ、ちょっと、アイデースっ」

 「…えぇ、あの子、兄貴の」


 「あーーー、可笑しくないぽーちゃんっ」

 「なっ、何がぁ~、良い事じゃない」


 「だってさぁ~、あの女の住む所は、いましめに雨を降らせてないんだぜ」

 「う~ん、別に」


 「いやいやいや、ぽーちゃん、雨無いんだよ、水無いんだよ」

 「あー、そう言われれば、あっでも、エルピス(希望)がもたらしたんじゃないの、かめの底とは言え、直ぐそばにいるんだし」


 「アイデース、エルピスにそんな強い権能けんのうあるの」

 「う~ん、どうかなぁ~、オニロ(夢)と一緒なら引き寄せるかもだけど、ひとりだと、遠い光を見せるぐらいしか出来ないんじゃないかな、ねぇ、ヘルメ」

 「そうだったかなぁ~、主神様、もうね、ささっとしきものどもを連れ戻しましょう」


 「せぬ、ヘルメ、先ほどから急いでおるな」

 「だってほら、もういましめを受けてつぐなっているのですから、害を及ぼす前に連れ戻さねばと」


 ぴしゃー、ばっち。「あ痛っ、何するんですか主神様、いきなり雷撃とか」

 ぴしゃー、ばっち。「あ痛っ」「ヘルメ」

 ぴしゃー、ばっち、ぴしゃー、ばっち。「痛い痛いっ」「ヘルメェーーーッ」


 あ~~~、怒らせちゃった。


 「一番えらい神様がのぉ、ヘルメ様のお尻にのぉ、雷をいっぱい落とすから、たまらずに話してしまったんじゃぁ」

 「お尻痛いぃ」


 「春奈はるなさむぅ~い冬になぁ、ばっちっとなった事はなかぁ」

 「あるよ、お外で遊んで、家のとびらを開けようと手を伸ばしたら、バッチッってなって、指が凄く痛かった」


 「それじゃそれ、それがのぉ~、お尻にいっぱい当たったんじゃぁ~」

 お尻に静電気バチバチ、何て事すんのよこの神様。


 「ヘルメッ、お前は俺のいましめをかろんずるのかっ」

 「いいえ、決してそのような事はありません」


 「ならば何故助けたっ」

 「あのままでは死んでしまいます」


 「あつさぐらいで死ぬものかっ」

 「人は不死ですが、私達と違い、飲み食いせねば死にます」


 「そうか分かった」

 「主神様、有難う御座います」


 「罪科ざいかを犯せし者を助け、神をうやまわぬ者には同じ報いを受けるがいいっ」

 「主神様待って下さい、罰するなら私を」


 「そんなに雨をい、水をほっするならばくれてやるっ」

 「兄貴っ、ちょっと待って、ヘルメッ、早く教えてやれっ」

 「アイデース様っ」

 「早くっ」


 「神様の怒りに触れてのぉ、ジュリエット様達だけでなく、モンタギュー様も神罰を受けたんじゃぁ~」

 「えー、どうしてぇ~、困ってる人を助けてあげただけなのに」


 「神様の怒りはおさまらず、ジュリエット様達とモンタギュー様の住んでいた所はなぁ、大洪水になったんじゃぁ」

 どうして、どうしてそうなるのよっ。

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