第10話 甕《かめ》の底のエルピス(希望)

 暗く、狭いとだけ解る空間に、多くのものが押し込められている。


 見えはしない、でも右からも、左からも、頭も足先も、上からも下からも、胸も背中も、お腹もお尻も、手や足や首や体中を押さえ付け様と伸ばされる手。


 その手が、いやしく、いやらしく、体中をまさぐる。


 声を上げて、はらおうとあらがい続けても、無数の手が、右の、左のももを乱暴につかみ、無理やり広げる。


 つんとした両のふさ鷲掴わしづかみにされ、けがすかの様に扱う。


 お尻の肉がわざととしか思えないほどに、ゆるりと左右に分けられた。


 意識が向けられた事をさとり、股の間の細く短い谷を左右に開き、羞恥しゅうちにたじろぐ様子ようすを楽しんでいる。


 拒絶きょぜつをしても、ゆるしをうても止む事はなく、さま、尻の穴に、谷底に現れた入り口に、指よりもはるかに太いものが押し当てられ、こすられる。


 ごぉ~~~ん、ごぉ~~~ん。

 空間が震えた瞬間、陰気いんきに満ちたそれは退しりぞいた。


  なっ、何、このイメージ、怖い、怖いよ。

 「あんおばあちゃん、女の子がいじめるられてる、助けてあげて」


 あんおばあちゃんにお話を聞いてた時はこんなの無かった。

 「・・・何も、見えんかったかぁ~、怖くないかぁ~」

 「怖くないけど、女の子、きっと女の子がいじめられてた」


 「エルピス、エルピスね、あなたは中にいるの」

 「・・・中」


 「怖い子のがいるの」

 「しくしく、しくしく」


 「・・・エルピス、お友達になってくれる」

 「しくしく、しくしく、・・・うん」


 「他の子も」

 「駄目だめっ、絶対駄目だめっ」


 「・・・分かった、でもエルピスは何故なぜ、神様の贈り物の中にいるの」

 「・・・贈り物だから」


 「えっと、エルピスが贈り物なの、怖い子も」

 「・・・そう、皆、贈り物」


 「良かった、私、お友達が欲しかったの、近くに同じぐらいの子がいないの」

 「しくしく、しくしく、・・・いじめない」


 「そんな酷い事しない」

 「・・・本当、皆が私は役立たずって、いじめるの」


 「私、そんな事しない、お友達だもん、何かされるの」

 「・・・うぅ」


 「えー、何されるの」

 「・・・い、言えない」

 「ちょっと待っててね、ぱぱぁー、ままぁー」


 「ジュリエット様はなぁ、エルピスを助けたくてのぉ、エピメ様とパンドーラ様を呼んだんじゃぁ」

 「良かったね、もういじめられらないね」


 「いやぁ~、それがのぉ~」

 「えぇ、ダメなの、なんでぇ」


 「どうした、ジュリエット」

 「どうかしのジュリエット」

 「来てぇーーー、かめの中のエルピスがいじめられてるの」


 「「エルピス」」

 「・・・誰だい」「・・・さぁ~」


 「ジュリエット様はなぁ、一生けんめぇ、助けてくれる様、かめを開けてくれる様、言ったんじゃがなぁ、許されんかたんよぉ~」

 「どうして、何で、いじめられているんだよ」


 「ジュリエット、お前は優しい、パパとママの自慢の娘だ」

 「御免なさい、ジュリエット、神様は開けてはいけないとおおせなの」

 「・・・ジュ、ジュリエット、私、大丈夫だから」


 「エピメ、かめから声が、本当に誰かいるわ」

 「ぁあー、パンドーラ、本当に誰かいる、お前がエルピスと言う子かい」

 「・・・うぅ」


 「エルピス、ジュリエットのママで、パンドーラよ、お外に出してあげましょうか」

 「絶対に開けないでっ、・・・わっ、私、大丈夫」


 「…分かった、そうしよう」

 「エピメ」「パパ」


 「その代わりに何かしてあげらる事はあるかい」

 「・・・お話」


 「じゃエルピス、今日からうちの子だ、何かあったら私やパンドーラ、ジュリエットに言いなさい、怖い子は追い払ってやる」

 「うん」


 「そう、良い子ね、じゃママに教えて頂戴ちょうだい、エルピスはどんな子なの」

 「うん、エルピスはね、夢と一緒にいると、生きる力を与える事が出来るの、でも夢は冥界めいかいでお留守番なんだって、エルピスだけだと、とてもとてもとても遠くの光しか、見せる事が出来ないの」


 「そう、それはさみしかったわね、もう大丈夫、ママがいるから」

 「うん、有難う」


 「そうしてのぉ、エルピスはかめを開ける事は望まんかったぁ」

 「お外に出ればいいのに」


 「でものぉ、エルピスはエピメ様やパンドーラ様、特にジュリエット様とは仲良しになったんじゃ」

 「仲良しが一番、良かったね」


 「よかったぁ、良かったのかのぉ~、もしジュリエット様が冷たいお方じゃったら」

 「優しいとだめなの」


 「・・・うんにゃぁ、春奈はるな、私等はなぁ、お優しいジュリエット様の血を受け継いでいる事を、ほこりに思うとるよぉ~」

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