第5話 神婚

 「そうして神様はなぁ、夜中に黄金の雨になって、人の娘の所をおとずれたのよぉ」


 しとしとぴちゃん、しとぴちゃん、しとぉ~ぴぃ~ちゃん~。

 「まぁ、雨かしら、窓を閉めないと降り込んじゃう」


 「きらきら、きらきら降りしきる黄金の雨を見た娘はぁ、びっくりじゃぁ~」


 「・・・黄金の雨」

 「やぁ~、いとしの君」


 「きゃっ」

 「おどろかせちゃったかな」


 「・・・あなたは何時かの」

 「僕は、いとしの君の事を忘れる事が出来なくて、せめて雨となって君のそばを訪れたかったのさ」


 「で、でもこの雨は黄金」

 「初めは、ただそばへ行けるならそれだけで良いと思っていた」


 「あなた様は本当に」

 「でもねぇ、君の姿を見てしまったら、この思いをおさえる事が出来なかった、中へ入れてくれないかい、うるわしの君」


 「えっ、で、でも、あなた様は、・・・母様かあさましかられます」

 「そうか、そうだね、見目麗みめうるわしい娘の所を突然おとずれた、我が悪かった」


 「あっ、いえっ、この様な所でよろしければ、是非ぜひお入り下さい、神様」

 「あ~、何と優しくうるわしい乙女おとめよ、そうかい、有難う」


 「あっ、あっ、神様、・・・い、いけません」

 「お~、何とつややかな唇、なめらかな肌、何と美しい四肢しし

 なっ、何してるのかなぁ~、私、乙女おとめだから、想像できないなぁ~。


 「あっ、あん、あっ、神様」どっさ。

 あほっ、ばかっ、あっ、そ、そんな、事。


 「このたわわな実り、濡れた二枚貝も素晴すばらしい」

 わ、わ、わ、わ、わ。


 「はっ、はぁ~~~う~、か、母様かあさましかられるうぅ~~~、あ~ん」

 ほぉ~~~~~、・・・いやらしぃ~~~。「・・・こほん、データーフソク」


 「お姉ちゃんはどうなったの」

 「ほかの娘の所へもなぁ~、夜中に黄金のわしになって行ったんじゃぁ」

 「ねぇ~、あんおばあちゃん、ねぇ、ねぇ~てばぁ~」


 こつこつ、こつこつ。「こんな夜更よふけに何かしら」

 こつこつ、こつこつ。「何でしょう」きぃ~。

 「まあまあまあ、黄金のわしさんですわ、なんて美しいのでしょう」


 「そしてのぉ、まばゆ燦然さんぜんと輝き、神様に戻ったんじゃぁ」


 「きゃーーーっ、・・・殿方に」

 「やぁ~、これはおどろかせてしまったね」


 「あなた様はどなたですの」

 「たおやかな乙女おとめよ、我は君をいとしく思い、あそこからずっと見ていたよ」


 「娘に問われ、神様はなぁ~、大きな山をゆびさしたのよぉ」

 「御山おやま春奈はるなのお胸にも神様いるの」

 「・・・胸にはおられんがのぉ~」

 「パパが、ママのお胸をぎゅっとうぐうぐうぐ」

 「は、春奈はるなっ、あははは、・・・あんおばあちゃん続くをどうぞ」


 「あの、…神様ですの」

 「そうだ、うるわしき乙女おとめよ、許されるならば、君のそばに行きたいのだが」


 「はっ、はい、どうぞお入り下さいまし」

 「では、失礼する」


 「いえ、私の様な者の所へどの様な御用で御座ございましょう、あっ、おたわむれを」

 「おぉぅ、美しき乙女おとめよ、この身は君に恋いがれ、たてもたまらずおとずれてしまった」


 「だ、駄目だめです、ふぅん、おっ、お許しを」

 「そうか、済まぬ事をした」


 「あっ、いえ、そのだから、あん、そんなにしないで下さいまし、やぁん」

 「お~、朝露あさつゆに濡れた桃の様ではないか」


 「み、見ないで下さいましぃ~っ」

 「つつしみ深き乙女おとめよ、力をゆるめ、我にゆだねるが良い」


 どざっ「あ~~~れ~~~、父様ととさましかられるうぅ~~~、あはぁん」

 あっ、あ、あ、あ、あんおばあちゃんのお話だとこんな感じだったかな。

 あーーーーーっ、私のえっちぃ~~~~。


 「この神様って恰好かっこう良いの」

 「ばぁ~ちゃんには分からんのぉ~、しかしなぁ、大長老様を見れば、そうかもしれんのぉ~」


 「大長老様は、恰好かっこう良いぃ、見る」たたたたたっ。

 「ダメじゃっ、春奈はるなっ、行くなっ、ロミオ様にれるなあーーーっ」


 ざざぁーっ。

 「「 「「 「「 「「ロミオ様っ」」 」」 」」 」」

 「「 「「 「「 「「はあ~~~」」 」」 」」 」」

 その場にいた女性陣の全てが、私をにらみつけ、男達は皆が皆、諦めと思える声をらした。


 私は大長老様のひつぎた。

 そこに横たわる綺麗きれいなお顔の大長老様。

 あんおばあちゃんの声は届かず、私はそのほほれてしまったのだ。


 その途端とたん、ぱぁ~っと、世界は明るくなり、目の前の大長老様は、きらきらきらきらとかがやいていた。


 私の幼く小さな胸は、早鐘はやがねごとく。

 違う違うっ、けたたましく鳴り響き、安らかな眠りを吹き飛ばす、朝の目覚まし時計の様に騒ぎ立てた。


 体中が、あっつい熱を持ち、耳は周りの音をシャットアウト。

 絶対に聞けるはずの無い、大長老様のお声が。

 『春奈はるな、私の可愛かわいいとしい春奈はるな

 と優しくささやき、その言葉をつむいだ息が、私の耳をくすぐった。


 あっと言う間に思考は停止。

 そして、知るはずのない名前を口にしていた。

 「ロミオ様ぁ~」


 七歳の私は、恋に落ちた。

 決してむくわれる事の無い不毛ふもうの恋。

 たましい宿やどらぬがらに、恋をした。


 またまた思い出したぁ~、はにゃぁ~~~~~~~~~~、ロミオ様ぁ~。

 ぁぁぁあああ、この胸の高鳴たかなりとせつなさを、どうしろって言うのよぉ~~~。

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