第3話 芥川龍一の個人的虚言
私立・
「おはモーニング、龍一」
まだ
「おはよう、圭太」
軽妙は挨拶には付き合わず、芥川は頬杖をついた。
桐生はニヤリとした笑みを見せつけ、なにか僕に隠していることはない? と言葉を紡いだ。
さぁ検討もつかないな、と芥川は目線をそらした。桐生はそれをじっと見つめる。
「ちょっと小耳に挟んだんだ。旧校舎のこと――」
「水無瀬さんのことか?」
「そう! そこへ若い男が通ってるんだってさ」
「俺のことだな」
「まさしく! 自供する気になったね。なにがどうなってそうなるのさ」
最新情報に
「圭太に嘘はつけないようだな。実はここだけの話、俺はスクールカウンセラーの東条先生に頼まれたんだ。水無瀬さんの様子を見に行ってくれって」
だから他意はないんだ。変な詮索はやめてくれ、と芥川はデタラメを言った。
「ふぅ~ん、それはおかしいなぁ」
「なにもおかしいことはないさ」
「じゃあ、どうして東条先生が龍一にそんなことを頼んだのか、説明できるよね?」
あぁ、もちろん、と芥川は論理的思考をフル回転させた。まずい。これ以上嘘に嘘を重ねても言い逃れができない。素直に
「それは――俺と水無瀬さんが遠い親戚だからだ」
「え? そうなの。へぇー、そうなんだ。いやぁ、知らなかったな」
ミトコンドリア・イブまで遡らなくても、ここにいる連中は遠い親戚にあたるはずだ、と芥川は嘘を重ね続ける自分を騙した。
「なるほどねぇ、それなら納得かな」
すまない圭太、と芥川は友人情報の更新をしている桐生に心中で詫びた。騙すつもりはなかったんだ。
桐生が自席から離れて行っても、芥川の罪悪感は晴れなかった。
すがる思いで窓辺の席から、教室後方の席でクラスメイトと話し込む美城みゆきを盗み見た。因果を問わず美しいな、と思った。まるでハムレットのオフィーリアのような美しい横顔であった。
次第に教室内には生徒が吸い込まれるがごとく、
春先の空気は次第に膨れ、暖かみを持ち始めていた。
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