第2話 芥川龍一についての美城みゆきの個人的感情
彼女はたしかに若かった。
十五歳。
それは何事にもリカバリーが効く年齢だ。
加えるなら、容姿にも優れていた。
彼女の淡く薄い肌と
ただしその
単純に、それは局所的に目立つ
それでも彼女は自分の横顔だけは気に入っていた。イーラインの美しさは彼女の父が褒めるとき、よく引き合いに出してくれた。そのため一時期の彼女は、写真撮影はすべて横顔でやり過ごすほどであった。
眠い目をこする。
希望していた
彼女は何かを欲していたが――答えは見つからない。
自分が何者であることより、何者になれるかの可能性を模索する。
鏡の前でうまく笑える練習をする。
昨日よりもうまく笑えているだろうか?
美城みゆきは思念する。
いつか覚悟の源泉に手を差し出したとき、その腕を犠牲にしてでも全てを手にしたいと願える者か、何者にもなれない自分が、果たして他者から
想像性の範疇を跳躍した妄想のたぐい。
笑顔の練習をやめ、高校の制服に着替え終えた。朝食を済ませる。
自宅マンションの玄関口で「行ってきます……」と静かに伝え、硬いドアノブを引いて外に出る。
少し暖かい春風が吹いた。
「おはよう、
玄関扉を閉めるとすぐに声をかけられた。
「ちょっと相談したいことがあるんだ」
みゆきは彼を見つめた。
「おはよ、
嫌な予感がするな、とみゆきは同じマンションに居を構える幼馴染の表情をうかがった。
「私に相談ごと……?」
小中高と同じ学校に通い、現在高校でも同じクラスの芥川。
「ああ、遅刻してもなんだし歩きながら話そう」
みゆきは逡巡した。昔はよく一緒に登下校をしたものだったが、今は――。
「みゆき、どうした。行くぞ」
芥川が振り向いていた。――私には選択する権利はない。みゆきは芥川の後ろについて歩く。
二人は連れ立ってマンションのエントランスから出た。
桜が散った四月の半ば、外界は寒暖の差を
「芥川、自転車は?」
バス停まで歩いて十分ほどの距離。芥川は自転車通学のはずだった。
「今日は歩くよ」
「そう」
途切れる会話に二人の距離感が表れていた。
「それで相談なんだけど――」
「うん」
みゆきは芥川の相談を黙って聞くことにした。
「俺はとある機関から依頼を受けているんだ」
雲行きの怪しい切り出し方だった。まるで国家的陰謀に加担しているがごとく。
「詳しくは説明できないが概略を話すと、うちの高校の旧校舎に魔女が住みついている」
芥川は続けざまに放つ。
「簡潔に言えば、その魔女を人間に戻す、というのが俺のミッションさ」
冗談めかしてウインクを飛ばす芥川の言動をまともに考慮すべきか、みゆきは迷っていた。
「ねぇ、芥川。その魔女って――」
きっと
「知っているのか、みゆき。水無瀬香織という令嬢だ」
やっぱり、とみゆきは思った。危険な香りが漂い始めた。自分に選択肢がないことと、選択すらしないことは同義なのだろうか。
「芥川、ごめん、私――」
みゆきが言いかけると、二人はバス停に到着していた。今しがたスクールバスが停車したばかりのようだった。濃紺の学生服を身に着けた同校生たちが、乗車口に吸い込まれていく。
「メイド業は楽じゃないだろうが、
芥川は軽快にバスに乗り込んだ。
「心配ないさ、俺がついているから」
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