第4話 異世界で初めての夜
村は大まかに三つのエリアに分けられる。
海沿いの、漁で生業をたてる『海の民』。内陸で野菜や穀物を育てる『地の民』。そして、その中間にあって、工作物や建造物を作る職人が集まる『匠の民』。
村は三方を山に囲まれ、外敵が進入し難い構造にはなっている。しかしそれは逆に、山でクマやオオカミさえやり過ごせば、誰でも村に進入できることを意味していた。
そこで、丘の上の村を見渡せる場所に、一人の勇者と一〇名程の戦士からなる『戦の民』の集落があった。
ニベヤが入浴で冷え切った身体を震わせながら戦の民の丘を登っていると、勇者の家の窓にある戸が外されているのが見えた。
勇者が自分で外したのだろうが、一ヶ月も昏睡状態だった者が、目覚めてすぐにできることではない。
――やはり、勇者様は特別なお方だわ。
ニベヤは思った。
家に中に入ると、勇者は寝台の上で上体を起こし、窓辺に集まっている小鳥を夢中で見ていた。その眼はまるで無邪気な少年のようで、ニベヤは今まで感じたことのない感情で胸がキュンと鳴った。
「ただいま戻りました」
ニベヤは頭を下げて部屋に入る。
「お帰りなさい……」
タクミは振り返って言葉を失った。目鼻立ちは整っていると思っていたが、汚れを落として髪を整えるだけで、これほど美しくなるとは……。
――この世界に化粧の習慣はないだろうし、スッピンでこれとは……。
勇者の妻に選ばれるには、それなりの理由があってのことだとタクミは思った。
「遅くなり申し訳ございません。すぐにお食事の準備を致しますので」
タクミは自分の顔のキズが恥ずかしくなり、顔をそらして小鳥の話をした。
「ほら、小鳥さんが沢山来るんだよ。全然ボクを怖がらないんだ。あ、隣の部屋からパンを少しもらったよ。みんな、美味しそうに食べてるでしょ」
ニベヤは驚いた。
「隣の部屋って、もう歩いて行かれたのですか?」
「うん、少しフラついたけど、大丈夫だった」
常人であれば、歩行の訓練から始めるところだ。しかし、常人と勇者を比較すること自体に意味が無いとニベヤは思った。
隣の部屋から、ニベヤがパンの切れ端を追加で持ってきた。タクミの隣に腰掛ける。
「勇者様、小鳥ともっと仲良くなれる方法がありますよ」
そう言うと、ニベヤは切れ端を更に半分にちぎり、手の平に乗せて小鳥の方に差し出した。数羽の小鳥がニベヤの手の平に飛び移り、パンを夢中でついばみ始めた。
「わっ! スゴイ! スゴイよ、ニベヤさん!」
タクミは、思わずニベヤをさん付けで呼んでしまう。
「さ、勇者様もお手を」
タクミの手にパンが置かれると、別の小鳥が飛び移ってきた。
「可愛いなあ……なんて可愛いんだろう」
パンをついばむ小鳥の背を、そっと指で撫でてみる。小鳥は気持ちがいいのか、眼を細めてされるがままだ。
「気を付けてくださいね。油断すると、手の上にフンをしますから」
そうニベヤが忠告するや否や、小鳥はタクミの手にフンをした。
二人は、声を上げて笑った。
「それにしても、ニベヤさんの手は、なぜそんなに冷たいの?」
パンを渡された時に触れた、ニベヤの手の氷のような冷たさを不思議に思い、タクミは尋ねた。
「申し訳ございません。身体を洗った後、暖を取っていなかったので」
「おフロはお湯じゃないの?」
「唯の水ですよ。もちろん、勇者様の意識が無い間、身体を拭くときにはお湯を沸かしてました」
――ここはもう、蛇口を捻れば水も湯も出てくる世界じゃないんだ。
タクミは改めて痛感する。
自分の膝の上の毛織物を、タクミはニベヤの肩に掛けた。
「寒いでしょう? 唇が白くなっている」
「そんな勇者様、恐れ多い」
「ボクは大丈夫だから、ニベヤさんの身体が暖まる間だけでも」
ニベヤは甘えついでに、もう少しだけ自分の本音を言ってみようと思った。
「あの……勇者様……織物の上から抱きしめて頂けると、早く身体が暖まると思うのですが……」
「えっ……」
勇者の顔が、熟れた赤ナスのように赤くなった。そして、恥ずかしそうにニベヤの身体に手を回すと、手に力を込めた。。
そんな勇者の表情を見ると、何十回、何百回と抱かれた相手であるにも関わらず、何だかニベヤも恥ずかしくなった。
身体も心も暖かくなっていくのがわかった。
スープ皿は木製だった。スプーンも木製だ。
野菜と豆のよく煮込んだスープにパンが浸してある。
異世界での初めてまともな食事。タクミはなぜか、ニベヤの料理なら絶対に美味しいだろうという確信があった。
「おばばさまが、しばらくは消化の良い物が良いだろうって。でも、お元気そうですし、お肉の方が良かったでしょうか?」
倒れる前の勇者は、肉ばかり食べていた。夕食に肉が無いと途端に機嫌が悪くなり、ニベヤは蹴飛ばされたこともある。
ところが、今の勇者は意外なことを言う。
「いい匂い! いえ、野菜スープ大好きなんで。いただきます……ん! 旨い! 美味しいよ、ニベヤさん。塩加減が絶妙……そうか、この世界だから、塩も化学製法じゃなくて天然塩なんだ」
意味不明のことを言いながら、一人で納得している。
「パンはライ麦か……うん、酸味があって、噛めば噛むほど旨味が出てくる!」
饒舌に語る勇者を、ニベヤは固まって見ていた。
「あれ、食べないの? ニベヤさん」
「あ……ああ、私もいただきます」
以前の勇者は、食事をするというより、むさぼり食らうといった感じだった。その姿はいつも、ニベヤに飢えたオオカミが獲物を補食する姿を連想させるものだった。
「食事は一緒に食べる方が美味しいね」
そう話す今の勇者は、まるで聖者のように行儀の良い食べ方だ。一口一口を味わって食べている。
笑顔で食事を楽しむ勇者を見て、死に直面するとヒトはここまで変わるのかとニベアは思った。
そして、確信に近い思いにも至った。
――勇者様は、もう以前のようには戦えないだろう。体力だけでなく、野性や狂気といったものを失った。しかし、そのことを、誰にも気付かれてはならない……。
「明日は勇者様の好きなオーク肉の塩焼きにしますね。勇者様達が沢山のオークを倒してくれたので、村は今までないほど食料事情が豊かなんですよ」
勇者が眼を丸くした。
「オークって、食べれるの?」
「あら、勇者様ったら、そんなことも忘れたんですか? 勝てば食べれる。負ければ食べられる。自然の摂理です」
「そうか、なるほどなあ……」
「いずれにせよ、オークの肉は御馳走です。とても美味しいですよ」
スプーンをくわえたまま真剣にうなずく勇者を見て、ニベヤはますます愛情が膨らんでいくのを感じた。
――この方は、心臓が止まるまで戦ってきたんだ。もう、これ以上戦う必要はない。勇者様は……私がお守りする!
ニベヤは心に誓った。
テレビもインターネットも無い生活。それどころか、本や新聞すら無い。
家族との会話が唯一の娯楽である、ゆっくりとした時間。タクミは、中学の頃に行ったキャンプを思い出した。
皆でカレーを作って、食べてしまえば、後はもう何もやることがない。焚き火に当たりながらおじさんが話してくれた、少し不気味な昔話がやたら面白く感じた。
ローソクの幻想的な炎の下で、ニベヤは糸で紐を組みながら、この世界のことを教えてくれる。
「……この大陸がどれほど広いのかは知りませんが、周りはぐるっと海に囲まれているそうです。どんな形かも知りませんが、昔から北の地に豚から進化したオーク、南の地に牛から進化したミノタウロス。そして、それに挟まれる形で、中部に猿から進化した私たちヒトが住んでいました」
「ミノタウロス! ミノタウロスもいるの?」
「ええ、いますよ。大きなものになると身の丈三メートル、体重は一トンくらいになります。とてつもない力持ちですが、完全に草食で、縄張りを荒らさない限り怒ることもなく、性格は温厚です」
何を話しても、勇者が子供のように眼を輝かせて食いついてくるので、ニベヤは楽しくてしかたがない。
「問題はオークです。雑食で、ヒトと食べる物が重なります。しかも、ヒトと違って備蓄の習慣が無く、有れば有るだけ食べてしまうので、無くなるとヒトの居住地を襲います。そうやってオークは南下を続けたので、ヒトの居住地はとうとう西と東に分断されてしまいました」
「ここはどっち?」
「西になります。東の村は、歩いて一週間ほどの場所にあります。行くにはオークとミノタウロスの領地の境ギリギリを通りますが、それでもやはり危険な旅になります」
「定期的な行き来はあるの?」
「ございますよ。商人が数ヶ月置きに行き来しています。通常は二、三名の戦士の方が護衛に付きますが、物によっては勇者様自ら護衛をなさったこともありました。結婚してからは、二回ほど行かれました」
タクミはふと思い付き、聞いてみる。
「あのね、ニベヤさん。こっちの村で、今回のオーク襲撃の被害者で生き返ったのは、ボク一人だって言ってたよね」
「ええ。不幸にも、もう一人戦士の方が亡くなられましたが、勇者様のように生き返ることはありませんでした」
「じゃあ、東の村ではどうなんだろう? ボクのように生き返ったヒトがいる筈なんだけど、何か聞いてないかな?」
確信があった訳ではない。むしろ、当てずっぽうだった。しかし、自分が転生できたのであれば、ヒデヨもまた、近くの世界に転生できたのではないかという推測が成り立つ。
ニベヤは紐を組む手を止め、驚いた表情でタクミを見た。
「勇者様……なぜそれを?」
「やっぱりそうか……何というか、まあ勘かな」
「その方とは、東の勇者様のことです。勇者様から大変お嫌いだと伺っておりましたので、もうしばらくしてお伝えするつもりでした」
「あらら、勇者同士が仲悪かったとは。じゃあ、東の勇者もカランビット……神の剣でオークを追い払った、と」
「はい、事切れる時の様子も、東西の勇者様は酷似していたとか。天から降ってきた炎は途中で二つに分かれ、それぞれの勇者様の元に降りたのだと申す者もおります。それが冷えて固まった物が神の剣だと」
ヒデヨもこの世界に転生している。そう確信したタクミは、東の村へ行く決心をした。
それにはまず、体力をつける必要がある。何しろ、飛行機も新幹線も無い世界だ。歩いて一週間の道のりは、文字通り自分の足で歩くしかない。
「東の村の被害者はどのくらい?」
「逃げ遅れて食べられた者の数はよく知りませんが、戦士の方ですとこちらの村と同じ一名です」
「しかし、敵は何百匹というオークだよね。よく、この程度の被害で済んだもんだ」
「昨年の雨期は雨がたっぷり振り、夏期には晴天が続きました。オークの地でも近年まれな豊作が見込まれていましたので、去年から罠などの対策をして準備してきたのです」
「ん? 去年は豊作だったんでしょ? オークは食料があるのに襲ってきたってこと?」
「オークは食欲が満たされると、積極的に子作りに励みます。問題は、オークの妊娠期間が約一〇〇日とヒトの約三分の一程に短く、しかも一度に一〇匹前後も出産することです。成長も早く、ヒトの倍だと言われています」
「なるほど。単年で豊作になっても、あるだけ食って、作るだけ子作りしてりゃ、次にくるのは秩序の崩壊って訳か」
コトコトと、お湯が沸く音がしてきた。
ニベヤは、組みかけの紐をテーブルの上に置くと立ち上がる。
「勇者様。お湯が沸きましたので、お身体をお拭きします。しばらく、そままでお待ちください」
「うん」
タクミは寝台の背もたれに身体をあずけ、天井を見上げた。暗くてよくわからないが、おそらく藁葺きだろう。
――藁の交換とか大変そう。
そんなことを考えていると、ニベヤが洗い桶にお湯を入れ、フェイスタオルほどの大きさの布と共に持ってきた。
ニベヤは布をお湯に浸けて軽く絞ると、タクミと向き合う格好で寝台に座る。
「……失礼します……」
ニベヤは優しくタクミの顔を拭いた。耳たぶの中も、耳の裏側も、首筋も……。タクミは、今まで生きてきて(転生はしたが)一番気持ち良いと思った。
ニベヤの手がタクミの寝間着のボタンにかかった時、タクミは少し身を堅くした。
――夫婦……ボクたちは夫婦……。
心の中でそう繰り返す。
「背中も拭きますので、お脱ぎください」
タクミは、されるがままに上半身裸になった。そして、予想はしていたが、自分の身体に刻まれたキズの多さにショックを受けた。
肩も胸もキズだらけ、見えないが恐らく背中もそうだろう。
――いったい、どれほど戦いを潜り抜ければ、ここまでキズだらけになるのか……。
タクミは思った。
ニベヤはタクミの肩から胸を拭く。ニベヤの顔が眼の前に来ると、タクミはまじまじと見つめた。
長い睫毛、大きな瞳、形の良い鼻、そして、少しエッチな唇……タクミが見とれていると、突然眼と眼が合った。
タクミは慌てて眼を反らす。顔が熱くなるのがわる。
そのタクミの反応を見て、ニベヤは茶目っ気が出てきた。勇者が意識を取り戻してまだ一日目だが、怒りの感情の喪失は確信に近いものになっていた。今なら、多少からかっても怒ることはないだろう。
「では、お背中をお拭きします」
ニベヤは寝台に膝で上がり、後からではなく、わざと正面からタクミの背中に手を回す。当然、タクミの顔にニベヤの柔らかい胸が触れる。
タクミは、顔どころか上半身まで真っ赤になった。
ニベヤはいつもよりも念入りにゆっくりと背中を拭くと、寝台を下りてお湯で布を軽く洗った。布が再び暖かくなる。
「では、お腰を」
ニベヤが毛織物に手をかけると、タクミは引っ張って抵抗した。
「いやいや、下は自分でやりますから!」
その勢いに少し驚いたが、ニベヤは笑顔で返した。
「よろしいのですか? いつもなら、お尻の穴まで丹念に拭くよう仰るのに」
勇者は極端な浴場嫌いで、よほどの血まみれ、汗まみれにならない限り浴場へは行かず、ほぼ毎日ニベヤに身体を拭かせた。素っ裸で横たわる勇者をニベヤは拭くのだが、冬期には布が少しでも冷たくなると怒り、蹴飛ばしてくるので楽な仕事ではなかった。
「お尻……いや、本当に大丈夫なんで、少しだけ一人にしてもらえますか」
「わかりました。隣にいますので、何かあればお呼びください」
ニベヤが部屋から出て行くのを見送ると、タクミは毛織物をめくり、ズボンと下着を降ろした。そして、前世ではなかったほどの勢いでそそり立つ己のモノに向かって説教した。
「おいオマエ、それが昨日まで死にかけていたヤツのムスコかよ」
タクミが自分で下半身を拭き終わると、ニベヤは部屋に戻ってきて洗い桶を運ぶ。
「あ、お湯ならボクが捨てるよ」
「? 捨てませんよ。明日の朝、庭の野菜や花に撒きますから」
――そうか、この世界に無駄にする水は一滴だってないんだ。ここの住民が、水道を出しっぱなしで歯を磨く人を見たら、きっと腰抜かすな。
そんなことを考えていると、ニベヤは床に織物を敷き始めた。
「何してるの?」
「寝る準備です。夜もふけてまいりましたから」
時計が無いので正確な時間はわからないが、日が沈んだ頃から考えて、一九時から二〇時の間といった所だろう。電気の無い世界では、もう深夜の時間帯なのだ。
「寝る準備って、床に?」
「ええ、床に寝ますから」
「床に?」
「はい、床に」
「で、ボクだけベッドなの」
「ベッド? ああ、寝台のことでしたらそうです。少なくとも勇者様と戦士の方々の家庭では、夫が寝台に寝て、妻が床で寝るのが習わしです。その……夜伽のとき以外は」
「そんな、こんなに寒いのに床で寝るなんて」
タクミは以前聞いたことがあった。男尊女卑は文化が成熟する際に通る過程の一つであると。しかし、自分がそれを、この美しくて優しい女性に強いることは許せなかった。
ところが、ニベヤは不思議な顔をするだけだ。
「寒いですけど、慣れてますので」
「ベッドが一つしかないのなら、今日からボクと一緒に寝ましょう。その……イヤじゃなかったらですけど。その方が暖かいと思うし……」
――この方に驚かされるのも、ずいぶん慣れてきたわ。
ニベヤは思った。
「わかりました。勇者様のおおせのままに。でも、私を抱くのは、今日は控えられた方がよろしいかと」
勇者の顔が、また赤くなった。
「ええ、もちろん、そのつもりです」
ニベヤは、恥ずかしそうに眼をそらす勇者に手を添えて横たわらせる。
タクミが暗闇になる直前に見たのは、枕元のローソクを吹き消そうとする、ニベヤの艶っぽい唇だった。
それから、ニベヤはタクミの隣に横になった。
勇者が身体を堅くしているのがわかった。
勇者の緊張をほぐそうと、ニベヤは手を伸ばして勇者の胸を撫でる。ところが、勇者はますます身体を堅くしてしまう。
手を動かすのを止め、ニベヤは語りかけた。
「おばばさまが申しておりました。心臓が止まっている時間が長ければ長いほど、生き返った時に別の人格になるのだそうです」
「へえ、そうなんだ」
タクミは平静を装うが、声が震えるのを隠すことはできない。
「匠の民のエデエさんは、心臓が止まって倒れているところを発見されました。かなりの時間、止まっていたのだと思います。心臓を押して生き返りはしましたが……」
勇者が関心を持ち、聞き入っているのがわかる。
「……まるで別人になっていました。温厚だった性格は短気になり、今やったばかりのことを何も覚えられません。食事をしてもすぐに忘れるので、いつ会っても、長いこと何も食べていないと言っていました」
ニベヤはクスッと笑った。
「以前より、ずっと太ったのですが」
タクミは、勇気を出して尋ねた。
「ボクは……生き返って変わりましたか?」
――この世界の人々が、転生という概念を持っているとは思えない。では、ボクという人格をどう捕らえているのだろう?
タクミは、一番不安だったことを、今聞いておくことにした。
「勇者様は、エデエさんより長く心臓が止まっていたと思います。だからでしょう、エデエさん以上にヒトが変わったと思います」
ニベヤは、頭をタクミの胸の上に乗せてきた。
「一日中怒っておられたのに、今は怒りの感情を失われたかと思うほどです。ご自分のことばかり考えていらっしゃったのに、今は私のことばかり気遣って頂いて……私は、愛されているのかと、自惚れてしまいそうです……子供も作れぬ身でありながら……」
胸元が染みてくるのがわかった。
――ニベヤさんが泣いてる……。
恋愛経験皆無のタクミだったが、どう答えるべきかは、今まで観たアニメやマンガが教えてくれた。
「子供は関係無いし、今はまだ欲しくもありません。ボクはニベヤさんと、これから沢山の思い出を作りたいと思っています。死がボク達を別つまで、ニベヤさんを愛し続けます」
少し大袈裟過ぎたかなとタクミは思ったが、ニベヤは大変感激したようだ。
「勇者様、ニベヤの命は勇者様のものです。勇者様のためであれば、いつでも投げ捨てましょう」
タクミは勇気を出し、ニベヤに腕枕をした。ニベヤはますますタクミに身体を預け、とうとう太股がタクミの敏感な部分に触れてしまった。
そこはもう……とんでもないことになっていた。
「申し訳ございません、勇者様。私としたことが気付きませんで……これでは、眠りたくても眠れませんね」
ズボンの上から優しく撫でられ、タクミは声を我慢することができない。
「あっっっ!」
ニベヤにしては日常の夫婦の営みであろうが、タクミにとっては初めての経験である。
「ニベヤさん、止めてください。あの、その……もう危なくて!」
ニベヤはタクミの耳元で小声で囁いた。
「勇者様、ニベヤにお任せください。すっきりさせて差し上げます」
そう言うと、顔がタクミの下半身の方に下がっていく。ズボンと下着が下げられたかと思うと、熱くネットリした感覚に包まれた。
「あああああ」
勇者のモノをくわえた瞬間、それが爆発寸前であることをニベヤは察した。右手でタマを優しく転がしながら、口の中では勇者が一番喜ぶ所を舌先でくすぐる。
「ニベヤさん、口を離してください……もう無理なんです。ああ、ダメだ! ごめんなさい! 出ます! ああ!」
口の中で亀頭が二倍近くにも膨らんだかと思うと、先端から熱いモノがほとばしった。あまりの勢いと量に、ニベヤは飲み干すのがやっとだった。
ニベヤが顔を上げると、勇者は大きく胸を膨らませながら息をしていた。
「すっきりなさいました?」
「良かった……ハァ、ハァ……最高でした……ハァ、ハァ……」
満足げな呼吸が、寝息に変わるのに時間はかからなかった。
ニベヤは織物を勇者の肩まで覆うと、二人に隙間が空かないように身体を密着させて眠りについた。
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