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「あの二人、また騒いでいる」
「そーよね。さっきも一緒に走っていた私達なんて眼中に無かったみたいだったし、マット君と水門君もちょっと変、波瀬君と小阪君は何で一緒にいるのかしら」
「いいじゃない。気にしないで早く教室行きましょう」
詩路美が二人を宥めたその時、彼女たちの前を一人の影が通り過ぎた。
「早良先輩!」
突如体育館から現れた早良は汗をかいた運動着の上にジャージの上着を着て歩いて来た。
「君だろ。鈴木さんって。初めましてだね」
優実の方へとやって来る早良は、日の光を受け爽やかな笑顔を見せた。
「君も試合観にきてよ」
顔を近づけながら自分の上着に着ていたジャージを脱いで肩に被せた。きょとんとする優実と早良の姿に悲鳴のような声が体育館に響いた。
「もう我慢できない!!」
英子は今まで抑えていたものが一気に爆発するように叫んだ。
「鈴木さんて何、何なの?私たちがずっと我慢してるのに、なんで、あんたは早良先輩に話しかけられるよ!!」
怒鳴る英子を詩路美と若芽は静止させようとしたが早良は戯けるように笑った。
「誤解だよ。いつも見ない娘だから誘ってみただけじゃない」
「そうよ。言われただけよ」
早良と優実の言葉にも英子は効かず、更に捲し立てた。
「大体、さっきも騒いで!涼木さんに多伊賀君に水門君、あんた達全員もよ!ほんっと普通にしてよ!!これ以上問題起こすのなら、クラス全員であなた達二人を問題視するわよ!!」
「あら、あたしはいつも疎外視されてるから平気よ」
ヤーミは影のある表情でニヤッと笑ったその時、どこからともなく聴き慣れない音が響いた。
音は段々と大きくなっていき、校内に前触れもなく異変が起きた事に気付いた優実とヤーミは辺りを見渡した。
「異次元の通り道が開いたわ!」
突如足元が川のように流れ、英子と詩路美と若芽は立ち竦んだ。
「きゃあぁっ!!」
運動場一帯に光を浴びながら水面が異次元の川のように流れている。それを背景にして、「来訪者」が現れた。
「俺の名は通川
そう叫ぶと突風のような風が吹いて、風を受けた一同はプァーーっと顔や鼻に水しぶきがかかった。
通川 仁は竿のようなものを手にし腕にハンドルと車輪を装備した、がっちりとした長身の男は端正な顔立ちで陰と陽を併せ持つ雰囲気を醸し出していた。でも表情は仏頂面である。
「そんなに不満があるのならこの世界へと出て行け。異次元から二度と出れなくしてやる」
通川仁は竿を天井に掲げ、左手の装備のハンドルとシャフトを見た尚と宏は叫んだ。
「あれは、釣りに使う糸巻き機を腕に取り付けている!」
「ラインスプールを甘く見るな!」
尚はリールじゃなくてそっちかい、と内心思いながらも通川仁は不敵に口元の口角だけを片方上げ、恐怖の攻撃を発しようとしていた!!
がらがらがらがらがら!!!と雑音を響かせレバーを回すと、対角にシャフトが回転し、ラインスプールから連動し竿の先から赤い光の玉が現れると、竿を振りひゅっ、と音を立てて投げた。
「きゃあああ!!」
三人が飛んでくる光を受ける直前、優実とヤーミが目前に立ちはだかった。
暴発音と共に赤光が一面に広がった。
「スズキさん達が!!」
モヤが晴れていき、二つの影は魚のようなしなやかな体で現れた。
ヤーミの結っていた長い髪がなびき、優実のセピア色とヤーミの紫色の制服は体に硬化された鱗を纏った、変身した姿に変わっていた。
「異次元の侵入者、私たちは学校を守ります!」
竿を振り次々と飛んでくる仁の赤光に優実は舞うように回転すると、川の水を使い何度も水しぶきを上げた。
舞散る飛沫は赤光を取り込むように跳ね返して攻撃をそらし、飛び上がったヤーミは上空から仁に飛びかかった!!
「ふぁぁあああ〜〜ー!!!」
仁は釣竿をひゅっと下から振り上げた。
足元から一閃を暴発させ、大きな波をかぶったヤーミのバランスは崩れた。
「あっ!!」
仁の方に流されていくヤーミは足を掴まれ逆さに吊し上げ、方向が狂った波をかき分けて優実に近付くと腕を掴み、二人は仁の手に捕まった。
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