2話−1
波の花中学校は今日も授業が開かれていた。
小坂尚は窓の日差しを緩やかに浴びる午後、教師の声が響く中机に向かって授業を受けていた。
ふと、後ろの席の波瀬宏が背中をつっついた。
「尚くんあれ、スズキさん達じゃないの?」
小声で指差しした窓を横眼で覗くと、運動場で他のクラスの生徒たちが体育の授業をしているのが見える。女子五人が運動場のリレーコースに並び、見た目おっとりとした鈴木優実と溌剌とした涼木ヤーミの二人がその中に立っていた。
尚はそれを眺めながらふと思った。僕が釣りをしてる時、魚は岸から釣竿を投げても水面から滅多に気配を現さない。大体は気配を消して水の中からこっちを見ている。
だけど今そこにいる二人の鱸の女の子はちょっとだけ違った。
パン!、という合図と共に彼女たちはスタート地点から一斉に走りだした。
駆け抜けるヤーミの横に小走りだがそれでも速い優美の走る二人の姿は対照的、コーナーを抜け並ぶようにヤーミの横に優実が並ぶと互いに睨み合い、二人は一直線に走り抜けた。
「やった!あたしが勝ったわ」
飛び上がって喜ぶ優実にヤーミは負けじと勝ち誇るように言った。
「違うわ、僅差だったけど追いつけなかったわ。勝ったのはあたしよ」
「ちゃんと追い抜いたわよ!」
ゴールに着いた優実とヤーミは睨みながら言い合うと、尚と宏はぽかんとした顔で見ていたが、二人は教室にいる尚が自分達を見ていた事に気づいた。
「尚!!」
優実は授業中にも関わらず地上から二階の尚に叫んだ。
「尚はどっちだったと思う?」
一緒に走っていた女生徒、
「みんな凄かったよ。頑張ったね!」
授業が終わり休み時間、優実のクラスの生徒達は制服に着替えてぞろぞろと教室に戻ろうと歩いていた。
体育館の横に続く渡り廊下を通りかかったところで、何人もの女子が体育館の中を覗きながら騒いでいた。
「あっ、早良先輩よ!」
若芽と栄子、詩路美の三人は小声で囁いた。体育館で三年生のクラスがバスケをしていて、その中で一際目立つ
「相変わらず格好いい!ね、もうすぐ試合あるんだよね」
おっとりして幼い感じの小柄な若芽はほんわかとした目で呟いた。
「優勝校と試合するんでしょ。先輩にこの前私たち三人で作ったプレゼントあげようよ」
「受け取ってくれるかしら?」
スレンダーな体型に切れ目で上品な感じの詩時美と若芽がはしゃいでると、がっちりした健康的な体型の英子が言った。
「絶体無理。先輩彼女もいるし、あたしたちなんて相手になんてしてくれないわ」
ハキハキした性格で物を言う英子は断片的に答えると、尚と宏が校舎から歩いて来て更に遠くから声が響いた。
「尚!」
廊下を歩いていた尚が後ろからの声にちょっと振り向くと優実が走って来る姿が見えた。髪が鱗のようにキラキラと輝いて汗を光らせながら走ってくる。
「尚達を見たから急いできた」
汗かいてる、と優実の顔を見てそう思った尚はもう一度振り向いて、追いかけて来た優実の顔を覗いた。
「風邪ひくよ。はい」
ズボンのポケットからタオルを渡した尚に鈴木さんの表情は少し照れたように受け取ると、すぐににこっと笑った。
「あら、一体どうしたの?赤くなってるわよ」
斜め後ろに涼木ヤーミが二人を見ながらニヤリと笑って見ているのを目にした優実は一瞬睨んだが汗を拭きながらすますとヤーミに言った。
「ヤーミ、ひょっとしてジェラシー?」
「ち・がう・わ・よ。優実こそ、ひょっとして挑発なの?」
「ま・さ・か。そもそも、さっきあたしに負けたからってそっちこそ僻んでるんじゃない?」
「あれは、私が勝ったのよ!また勝負する!?」
優実とヤーミが睨み合ったと同時に間に挟んでマット多伊賀が絡んできた。
「受けて立つ!僕が勝負して勝って見せよう!!」
「あんたじゃないの!!」
同時に押しのけられたマット多伊賀は隣にいる水門開に嘆いた。
「どうして尚くんは釣ろうとしないのに彼女達が寄ってくるの?僕はジェラシーも挑発も気にしないのに!」
「俺は嫉妬も挑発も生涯根にもつよ」
水門開は一点を見つめぼそっと呟いた。
その光景を英子と若芽と詩路美の三人は一瞥するように見ていた。
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