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「多伊賀君、大丈夫?」


尚達は上空から落ちてきて自身の何個もの巨大な針に絡まり身動きが取れなくなったマットを囲み、巨大な針をがしゃがしゃ音を立ててどうにか外す事に苦戦していた。


「まるで知恵の輪だよこれ、取れないよ!イテッ!!」


「しかもこれ痛いし!何で自分に刺さってるんだよ!!」


「これ、体には刺さっても僕は痛くないよ」


マットは無神経にニコッと笑った。その時、上からひらひらっと何かが落ちて来たのに気が付いた。


「ん?これは、あの子じゃないか」


尚は落ちていた物を手にとった。見ると水門が二十歳くらいの男性と楽しそうに写っている写真だった。


「さっき、スイモンがマットに攻撃をしかけた時に落ちてきたのだと思うわ」


ヤーミが覗き見ながら言うと、尚は咄嗟にふり返った。


「水門君、これ、君だよね」


尚は水門を呼ぶとその写真を見せた。


「それは‥‥俺の!いつの間に」


「君は、本当はそんなのじゃないんだよね。もっと素直な‥‥可愛い子だった筈だ!」


尚の言葉に水門はハッとした顔をして、下を向いた。尚は続けて言った。


「君に何かあったのかい?そうだとしたら、聞かせてよ」


「聞いて、くれるか‥‥‥‥」


俯いた水門の表情から苦悩の表情が浮かぶと、振り切るように顔を上げ遥か遠くの方を見つめた。そして、彼の背後からギターのアルペジオと共にルルルールーールールーーーーと、もの悲しいスキャットが流れ出し、静かに語り出した‥‥




「俺は異次元の世界からこの世界に来た時、ある人と出会い、恋人となった人がいた。年上の、自然を愛する爽やかないい男だった」


恋人‥‥男‥‥?とグラウンド内の周囲が騒ついた。   


「お、大人と付き合うとか、なんて不埒な奴だ。男同士なのは別として‥‥‥」


応人は最後は小さく言うと沙佳理が


「あんたは黙って!!」


と口を挟んだ。水門は続けて言った。


「俺は初めて好きになったこの人と一緒にいろんなところに行って、同じ時間を楽しみたいと思った。初めてのデートの日も、すごくお洒落をしてきて、彼とドライブに行った。着いた場所は海が繋がる綺麗な川沿い。彼はじっとその川を眺め‥‥するといきなり、湖面を見ながら波紋が浮かんでいる、魚がいるよ!と釣りをし出した‥‥‥


それからもデートの度に海辺や川沿い、湖に行き、レジャーはついでの釣り、釣り、釣り釣り釣り、彼は会う度に毎回釣り場所に行き俺の事など半分ほったらかしに釣りに明け暮れた」


「じ、じゃあ君も釣りを一緒にすればいいじゃない。楽しいと思うよ」


宏が口を挟むと水門はふっ、と笑った。


「そう言うんだろ?やるよ。でも、彼ほど熱中しないからそこそこで辞めるてしまうんだ‥‥


ある日、彼はある川の水門の近くに行った。この川は水門が開くと魚が寄って来るんだと楽しそうに言うので俺は女の子のように可愛く、じゃあ釣りに行く時間、この近くにあるショッピングモールにぶらぶらしてるから後で迎えに来てね!と言った。彼は解ったと言うと、車で下ろしてもらったイ○ンモールで一人で買い物を三時間満喫。そろそろ時間かな?と彼に電話をかけたら


まだ水門が開いてないからあと二〜三時間ぐらいいて、と‥‥‥‥




だぁあっったら俺が水門になってやるわ!!!!!」



そんな理由で、こんな事をやっったのか‥‥とここにいる生徒達が心の中で思ったが、水門を囲む空はゴゴゴゴと音を慣らしながら、憤りの表情で呻いた。


「その後、俺はこの悲しみを吐き出せる姿になったのだ。魚を引き寄せる水門に‥‥‥オマエ等、全員魚類になれ!!!」

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