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「何よあいつら、面白くない」


遠目で優実達を見ながら呟いたのは皆見沙佳理(みなみさより)だった。長い金髪にゆるいパーマをかけた、いかにもギャル風の彼女は長いつけまつ毛で向こうを睨みつけ、そんな彼女を見ながら隣にいた男がニヤッと笑った。


「あいつらか。始末して欲しい奴ってのは」


この学校の番長と言われる太刀宇 応人(たちう おうと)だった。剃り込みを入れた頭にイカツイ顔をしているからいかにも怖そうである。


「しっかし、沙佳理なんか校長に言えばどうとでもなるだろ」


「言ったわ。そしたらぜんっっぜん相手にしてくれなくて」


沙佳理はついさっき校長室に行った時の事を回想する‥‥



沙佳理は校長室に続く長い廊下をつかつかと歩き、ばん!と扉を開けた。


「失礼します!」


「あらあら皆見さん、授業が始まっているのに何事なの」


突如押し寄せてきた生徒に校長の波華子は驚くこともなく穏やかな表情で迎えた。


「校長先生。鈴木優実、涼木ヤーミ、マット多伊賀‥‥あの3人今までいなかったじゃ無いですか。聞いたらどこに住んでいるかもよく解らないし。あんな奴ら、さっさと追い出してください!」


「まあまあ、彼女達も同じ学校の仲間じゃないですか、あなたも彼女達と仲良くしてください」


そう言いながら笑顔を見せた波校長の目は笑っていなかった。まるで、何か逸物持っているように‥‥



「あいつ等、これ以上この学校にのさばらせてたまるもんですか。あんた、番長やってるんだし強いんだからチャチャッとシメてよ」


「沙佳理の頼みなら仕方ないな。俺がボコボコにしてやるか」





「もう始まるから先に行くね!」


さっきまで尚達と騒いでいた優実はたたっ、と一目散に走った。すると目の前を遮られるように、何人もの男に囲まれた。


「おっと、お前達は行かなくていいぜ。鈴木優実」


子分達の後ろから応人とその後ろに沙佳理が現れた。あっ、と尚が言葉を漏らしたと同時に、そこに居たヤーミとマットと尚と宏も子分達に阻まれ、中にはスマホで動画を撮っている者もいた。


「俺はこの学校で番長をやっている太刀宇応人でこっちは俺のスケの皆見沙佳理」


「ちょっと違うわよ、誰がスケよ!」


「この学校じゃ俺に何の通しもなく居られねんだからまずは挨拶しな。その後俺たちがドッジボールで遊んでやるからよ」


「あら、タチウオさんとその仲間達が遊んでくれるの」


「テメェ、俺を魚みたいに言うな!」


「ドッジボールはヤーミの方が得意だったけど。ひょっとして弱い方を選んだのかしら?」


「やれ!!!」


応人が叫ぶなりボールを地にばん!と叩きつけると、囲んでいた子分も一斉にボールを投げつけた。


優実はセピア色の制服がフワッと揺れたかと思うと、飛んできたボールを瞬時に跳ね飛ばしてゾリゾリゾリ!!と応人の頭上にボールをかすめた!


そして打ち返されたボールが尚達を阻んでいた子分達に次々と命中すると、優実のリポンやスカートが舞うように一回転するや背鰭のように銀色に閃いた!


優実を囲んでいた子分達は次々と魚の尾にビンタされたように叩かれ、その衝撃で一斉に弾け飛んだ。


「畜生!!!」


応人は優実に何度も殴りかかろうとしたが優実はまるで水の中にいる魚のようにかわし、その衝動でよろけるように地に突っ伏した。


「じゃあ私も本気でやるわよ」


優実の目がギラっと光った時、尚が叫んだ。


「鈴木さん、待ってよ!」


「何よ。こいつ等が私を攻撃してきたのよ。邪魔しないで」


「そんなことをしたら駄目だ。ここでは駄目なんだよ」


「何よ、人間は魚を平気で襲うくせに、私はだめなの?私はやり返してるだけよ」


「じ、冗談じゃないか。本気にするなよ」


応人は尚に助けを求めようとしたが、それを見ていたヤーミが尚に言った。


「だったらあんたが変わりにやってくれるの?」


「そ、それは無理だけど‥‥僕は、君にそんな事をして欲しくない。これ以上人を傷つけて君がこの学校にいられなくなったら嫌なんだ!」


「‥‥‥‥私のことを想ってくれるの?」


尚の言葉にズギュンと心を打たれた優実はそこから動けなくなった。すると、ずっと見ていた沙佳理がスマホを操作していた子分に向かって呻いた。


「何なんだよあいつ等、急にいちゃつきやがって。おい、動画は撮っただろ」


「あ、あれ?」


すると、動画を撮っていたはずの子分のスマホに優実達の姿はおろか、投稿してもいない事に気がついた。しかも他の生徒達のスマホも動いておらず、校舎内の電気系統や機械が作動していない。


「一体、どうなってんのよ」


異変に気づいた優実とヤーミは周囲を見渡しながら言った。


「来るわ!!」


グラウンドから生徒達の叫び声が響いた。

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