エピローグ






   エピローグ




 この日は、家族で家の片付けをしていた。

 荷物を段ボールに入れていくうちに、部屋は少し寂しくなり、段ボールの数だけが増えていく。服など着るものは出しておき、キッチンも必要最低限だけで後は片付ける、など意外にも頭も体力も使う仕事だった。



 「ままー!このうさちゃんはダンボールにいれなきゃだめ?」

 「桜もお片付け頑張ってたのね。うさちゃんは入れた方がいいけど、それだけ手に持っていくなら入れなくてもいいわよ」

 「やったー!楓お兄ちゃんにも1つならいいって教えてあげよう!」


 そういうと、もう少しで小学生になる桜は、パタパタと走って子ども部屋に向かった。すると、兄の楓(かえで)と妹の桜(さくら)の楽しそうな声が聞こえて来て、思わず微笑んでしまう。



 「寂しくなるな」

 「あ、時雨。寝室の片付けはどう?」

 「後はベットぐらいだから大丈夫だ。……いよいよだな」

 「うん。この部屋とさようならなのは寂しいけど………新しい家、楽しみだね」



 そう言って薫と時雨は微笑んだ。


 2人は27歳で結婚し、子どもも産まれた。双子の兄妹で、もう1年生になるのだ。

 今の場所も住みやすいが、自然が多い場所がいいだろうと2人の地元に戻ることに決めた。のびのびも育ってほしいと2人で考えた結果だった。


 

 「それ………また、見てたの?」

 「あぁ………何だか、気になるからな」

 「でも、本当だったら素敵ね」

 「そうだな」 



 時雨が手にしていたのは、とあるファイルだった。少し前に寝室を片付けていた時に見つけたのだ。


 そこには、地元にある小さな山のてっぺんにある楠には妖精がいる、その土地にある伝承のようなものだった。昔、時雨と薫はその妖精と仲良くなり、遊んでいたというのだ。そして、25歳の時に夢に出てきてくれて1日だけの再会をしたという物語のような話が書かれていた。

 妖精のイラストは、薫が描いたようだし、メモ書きも時雨と薫の字だった。けれど、2人にはそれを書いた記憶も、昔の記憶も残っていなかった。

 始めは「絵本でも書こうと思ったのかな?」と2人は笑っていたけれど、何故かそのファイルが気になって仕方がないのだ。


 切なくて、でも優しくて温かい。

 そんな気持ちにさせてくれるのだ。


 そんな事もあり、その山が気になっていると安く土地を譲ってもらえると話をもらい、偶然にも楠の大樹がある麓に家を建てることになったのだった。



 4人に家族も増え、地元での生活もとても充実していた。小学生になった子ども達の子育てや仕事をこなしていくうちに、また忙しくなり、薫達は山に向かうとはなかった。



 そして、その土地に引っ越して1年の夏の日の事だった。



 「何で夜中に勝手に家を出るの?お母さんとお父さん、とても心配したのよ」

 「「ごめんなさい」」



 その日、夜に起きた薫は子ども達の様子を見ようと子ども部屋に向かった。2段ベットを買うと楓と桜は大喜びで、もう2人で寝るようになったのだ。成長を喜びながらも、薫は少し寂しさを感じていた。寝顔を見て、元気を貰おうとしたのだが、そこには2人の姿はなかった。急いで玄関に向かうと2人の靴はなく鍵も開いたままだったのだ。

 仕事をしていた時雨にその事を伝え、2人は慌てて家を飛び出した。

 すると、山の方から走って家へ帰ってくる楓と桜を発見したのだ。2人が無事だったからよかったものの、夜の森は危険だ。

 薫と時雨は2人にしっかりとそれを伝え、もうしないようにと強く言った。



 「何で、夜の森に行こうとしたんだ?」

 「………森の方が星空を綺麗に見れるから」


 

 時雨の問いかけに楓はそう言った。すると、桜は怒られてシュンッとしていたのがすぐに一転して、満面の笑みを浮かべて「あのね!」と話し始めた。



 「星空に絵を描いたのよ。星座のお話の絵よ!とっても綺麗だったー」



 桜の話を聞いて、楓は小声で桜に何かを注意し始めた。



 「それ、言っちゃだめだよ」

 「でも、話してないじゃない」

 「お父さん、今のは星空の絵を紙に描いたんだっ」



 そんな2人の話を聞いているうちに、薫は胸が締め付けられるほどの切なさと懐かしさを感じた。星空に絵を描きたい。それは、自分がいつか願った事だ。けれど、それがいつかはわからない。

 大切な思い出だったのはわかるのだ。

 とてもとても大好きな…………。



 「っっ………」



 薫が突然泣き出したのを見て、時雨もそして楓や桜も驚き、薫を心配そうに見つめた。



 「薫………大丈夫か?」

 「お母さん………?どこか痛いの?」

 「お母さんっ!」



 薫は涙を拭いて、3人に微笑みかけた。


 

 「ごめんなさい。なんか、懐かしい事を思い出しかけたんだけど。………とても幸せな事を」

 「薫………」



 時雨は薫の肩を抱き寄せて、支えてくれる。彼の表情を見て薫は彼も同じ気持ちになっているのがわかり、2人で微笑んだ。



 「………今度、みんなで山に登って、あの大きな木の下でお弁当を食べましょう。お母さん、とっても美味しいお料理作るから、ね」

 「うん!」

 「やったー!楽しみだね」



 4人は、夜空に輝く星空の下、風に揺られて気持ち良さそうにそよぐ楠の木を見つめた。


 薫と時雨は、その木の1番上で、何かキラリと光るものを見たような気がした。2人は手を繋ぎ微笑み合うと、温かい風が4人を包んだのだった。




               (おしまい)



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