祈夜ルート 14話「デッサン」
祈夜ルート 14話「デッサン」
愛しい人が好きな事に本気で頑張っている。
そんな姿を見たら当たり前だ。
そう思いながらも、何でこんな事を言ってしまったのだろうと、彩華は後悔してしまっていた。
「………え、本当にいいのか?」
「え、あ、待って!!祈夜くんの役に立ちたいって思ったんだけど……。けど、ほらキャラのイメージと違うかもしれないしね!そんな綺麗なお話ならモデルさんとか参考にした方がいいかもしれないよ。ほら、グラビアとかさ!」
「………この話は、おまえと付き合いはじめてから考えたものだよ。彩華の事、考えながら作ったらから………」
「え………」
「って、気持ち悪いよな。自分の恋人のイメージを漫画に出してしかもヌードなんて………。でも、何かいいなって思ったんだ。お前みたいな人を描いてる男が、無心で絵を描いてるところ。好きな人の事描きたくなるもんだし」
苦笑しながら祈夜はそう言って彩華の頬に口づけをした。彩華が見上げる彼の表情はどこか切なくて、大人っぽく見える。
そんな彼を見ていたら、彩華の方がドキドキしてしまう。
「………そんな事言われたら、断れないよ」
「本当にいいのか?」
「うん……….モデルなんてやった事ないし、上手く出来ないかもしれないけど、祈夜くんが絵を描いてるところ見てみたいから………」
「………ありがとう、彩華。本当に嬉しいよ」
そう言って彩華を包むように抱きしめた彼が満面の笑みを浮かべていたのを見て、彩華は彼が喜んでくれるならと、引き受けた事をすぐに「よかった」と思えたのだった。
「…………でも、今日すぐにやるとは思わなかった!」
「彩華が心変わりする前にやりたい。それに、今、このリビングの光が差し込む辺りがイメージ通りなんだ。」
そうやって、リビングのクーラーの温度を上げて、いそいそとソファの上にシーツを広げて場所を設定していう祈夜を彩華は少し不安になりながら見つめた。
まさか話をしたその日にやるとは思っていなかったので、彩華は緊張した面持ちで彼を見つめていた。
今からここで服を脱いで裸になり、彼に見られてしまうのだと思うと、体が火照ってくるのがわかった。彩華の熱い視線を感じたのか、準備が終わった祈夜は、彩華の表情を見て、あやすような笑みを浮かべた。
「………大丈夫?そんなに、不安?」
「………恥ずかしいし、本当に私でいいのかなって思っちゃった」
「おまえが良いって言っただろ?おまえのイメージの作品なんだから。俺はそんなつもりないけど、他の女がモデルの方がよかった?」
「…………それはイヤ。だから、やる」
「やってて疲れたり、イヤになったら言って」
「うん………」
「俺の準備は終わったから、彩華がいいタイミングで始めて」
「………うん」
祈夜はソファの目の前に、ダイニングにある背の高い椅子を持ってきて置いた。
彩華が恥ずかしくないように、後ろを向いてくれたので、彩華は小さく息を吐いた後に、着ていたニットやスカートをゆっくりと脱いだ。温かくしているとはいえ、脱いでいく度に肌寒さを感じた。下着姿になった後に、彩華は思わず手を止めてしまった。やはり、昼間の太陽の光りが入る中、目の前に愛しい人がいるという空間で生まれたままの姿になるのは抵抗があった。
「………恥ずかしい?」
「………うん」
服を脱ぐ気配を感じなくなったのか、祈夜はこちらを向いて彩華を見ながら、苦笑していた。すると、彩華にゆっくりと近づくと耳元に口を寄せる。
「俺が脱がせようか?」
「へ………」
「脱がせてあげるから、頑張れ」
「…………うー………なんか、祈夜が年上みたいな事言ってる」
「彩華が緊張しすぎてるからだろ。………はい、取れた」
静かな部屋に彼の甘い声が響く。
取られた下着は、彼がソファの端に置いてしまう。彩華は、咄嗟に腕で胸元を隠すけれど祈夜が「ダメ」と言ってそれをはがしてしまう。
「俺にポーズ決めさせて」
そう言うと、彩華に深く座るよう言った後に、視線を真っ直ぐして、手をソファに置いたり、太ももに置いたりした。そして髪を少しだけ前に垂らした。彼の手が肌に触れる度に冷たいはずなのに、何故か温かさを感じてしまい、ドキッと胸を高鳴らせた。
「後は俺を誘うように見つめて」
「何それ………」
「エッチしたいなーって感じで」
「無理だよ、そんなの」
「………じゃあ、これでは?」
床の上に膝をついて座っていた祈夜は、彩華に首の後ろに手を伸ばして彩華の顔を引き寄せた。そのまま祈夜は、下から唇にかぶりついた。ただのキスではなく、舌を絡めとる濃厚なもので、彩華は思わず体を震わせた。体が痺れるように熱を持ち、彩華からもキスをしようと彼の肩に片手を置こうとした。
「この続きは後で。………俺も頑張るから、彩華も頑張って」
「………祈夜くん、ずるいよ」
「そうその表情がいい」
久しぶりに祈夜を感じた体は、あっという間に欲情してしまい、恥ずかしいぐらいに彼を欲してしまった。それが潤んだ瞳にも、赤く染まった肌にも表れてしまい、隠し通す事など出来るはずもなかった。それに、キスで熱くなった体を我慢することは無理だった。
けれど、祈夜はスケッチブックと鉛筆を持って、椅子に座ってしまう。
「さっきのポーズにして……そう、そんな感じ」
「………意地悪」
「俺のためにしてくれるんだろ?」
「………もう………」
彩華のその言葉が最後になった。
それからは、昼下がりの穏やかな時間。リビングにはクーラーの音と、彼が鉛筆を走らせる音だけが聞こえていた。
寒いはずなのに、彩華の体温はぐんぐん熱くなっていく。それは先ほどのキスのせいもあるだろう。けれど、それとは別に要因があった。祈夜の視線だった。先ほどまでは、意地悪なニヤついた笑みがみられたけれど、今はとても真剣な表情で、一心不乱に鉛筆を動かしてデッサンをしていた。彼に声を掛けるのが申し訳ないぐらいに集中しているのだ。
少し鋭い視線で彩華の全身を見つめられると、全てを隙間なく見られているようで恥ずかしくなってしまう。
彼は描くことに没頭しているのに、彩華は先ほどのキスの余韻に浸っていると思うと、一人だけ淫らだなと感じてしまい、ますます頬が赤くなる。
けれど、それもしばらくすると落ち着いてきた。彩華は彼が絵を描く姿をまじまじと見ることが出来るのだと気がついたのだ。
何度も彩華を見ては、スケッチブックに視線を落とし鉛筆を持ち、しばらく経つとまた彩華をじっと見据える。
その表情はとても真剣で、今まで見てきた彼のどの表情とも違っていた。
真剣な中にもイキイキとした楽しさを感じられたのだ。
そんな彼の姿を見れ、彩華は微笑みを我慢できずにうっすらと笑ってしまった。
恋人に裸を見られているはずで、恥ずかしくて死にそうだったのに、今では穏やかに笑っているから不思議だ。
そんな彩華の表情に気づいたのか、祈夜は少し驚いた表情を見せた後、先程より早く鉛筆を動かし始めた。
何かいいものでも描けたのだろうか。
そんな事を思いながら、体が痛くなりつつも、彼が動かす鉛筆の音を聞き、彩華は彼の思って祈夜を見つめたのだった。
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