祈夜ルート 3話「年下の彼」
祈夜ルート 3話「年下の彼」
祈夜の住むマンションは、彼の兄の店からすぐの場所にあった。立派なマンションで彩華の住むアパートとは比べ物にならほどだった。
そんな彼は驚く彩華には気づかずに慣れた手つきでエントランスにあるパネルに鍵を差し込みドアを開ける。
「セキュリティはしっかりしてるんだけど、少し面倒なんだ。エレベーターでも鍵をかざさなきゃいけないし……」
自分より年下で大学を卒業したばかりの彼がこんな豪華なマンションに住めるのはどういう事なのか。いろいろ考えてしまい、彩花はある考えに至った。
そして、緊張した面持ちのまま彼とエレベーターに乗り込み、祈夜に聞いてみることにした。
「あ、あの、祈夜くん?」
「ん?何だ?」
「質問なんだけど………もしかして、ここってご実家なの?」
「なんでそうなるんだよ。恋人を、初めて家に連れ込むのに実家に連れていく奴いるのか?」
「そ、そうだよね………」
彩花は自分が考えすぎだとわかり、ホッとしつつも、じゃあ彼は一体何をしているのか?と思ってしまう。そして、考え込んだ彩華を見て、祈夜は面白そうに笑った。
「おまえ、もしかしてどうして俺がこんな所に住んでるかって思ってるだろ?」
「……あ、えっと、それは………」
「まぁそうだよな。若い方だと思うし、不思議にも思うか」
祈夜はそう言いながらエレベーターを降りて、さっさと歩いていってしまう。1階にはあまり部屋数も多くなく、1つの部屋が大きいのだというのがわかった。その1番奥の部屋に向かうと鍵を開けた。
「しっかり一人暮らしだから見て」
「う、うん………お邪魔します」
祈夜に招き入れられ、彩華は迷うことなく彼の部屋へと入った。
新しいマンションなのか、部屋の中もとても綺麗だった。玄関に乱雑に置かれた靴や車の鍵が置いてある。
そのまままっすぐの廊下を進む。中央には、リビングとダイニングがあった。リビングには放置されたゲームやDVDのケース。そして、ペットボトルやお菓子の袋が置いてある。ダイニングはほとんど使っていないのか手紙や書類などが散乱していた。
一人暮らしの男の部屋となると、こういう感じなんだなと、彩華は初めての異性の部屋にドキドキしてしまった。
「悪いな綺麗じゃなくて、ソファ座ってて」
「ありがとう」
祈夜はそう言うキッチンの方へと行ってしまうので、緊張しながらもソファに座る。柔らかいソファに腰を下ろしても、体の力は抜けることはなく、彩華は思わずキョロキョロとしてしまう。カーテンの隙間から、街の明かりが見え隠れしている。マンションの上層階だったため、眺めが良さそうだと彩華は思った。
「はい。こっちに置いとく」
「ありがとう」
祈夜は2つのカップを持ってリビングにやってきた。甘い香りが部屋に漂う。ココアの香りだった。
彩華は祈夜の方を見ると、彼はすぐにココアを飲むわけではなく彩華のすぐ隣りに座った。
「とりあえず、こうさせて………」
「……ぇ………、あっ………」
祈夜は彩華の腰に腕を回し、彩華を抱き寄せた。あっという間に彼の腕に包まれてしまい、彩華は慌てて声を上げた。
「い、祈夜くん……急にだとビックリする」
「いいだろ?恋人になったんだ。………本当に俺を選んでくれたんだって実感させてくれ」
「………うん」
彼の体温や鼓動、香りを感じる。少しお酒のような甘くて酔いそうな香り。彩華が見せに来る前に少し呑んでいたのか、料理でもしていたのだろうか。
全身で愛しい人を感じられて、彩華は恥ずかしさを感じながらも、もっと彼を感じたくて目を閉じた。すると、瞼の上にふわりとした感触を感じる。
「彩華……キスしてもいい?」
「…………今、キスした?」
「唇にもしたい」
「………やっぱりしたのね」
「なぁ、いい?」
彩華からの了承を得ないとキスをしてこないところは、可愛いと思いつつも自分から頷くのも恥ずかしい。女心は複雑だなと彩華は思う。
小さく頷くと、祈夜は満面の笑みを浮かべる。
「俺の気持ちに答えてくれてありがとう。………好きだ、彩華」
祈夜はそう言うと、彩華の唇に短いキスを落とした。彼がゆっくりと唇を離し、彩華は瞼を開き、照れ笑いを浮かべる。すると、祈夜は「もう1回いい?」と言ってきたので、思わず笑ってしまう。
「そういうの恥ずかしいから聞かなくていいよ。キスされるの、嬉しいし……ね?」
「さっきは突然しないでて言ったのに……ったく………そんな事言ったら、いっぱいするならな」
「え………ん………」
言い終わると祈夜はすぐにまたキスを繰り返し、宣言通りに祈夜は沢山の口づけをされた。
彩華は彼に翻弄されながらも、初めてのキスの感触はこんなにも柔らかくて、甘くて、そして気持ちいいのだと知ったのだった。
祈夜のキスの嵐が終わった後。
彩華は体から力が抜けてしまったのか、彼に寄りかかるように体を預けていた。全身がポカポカしている。緊張していたはずなのに、体の力が抜けてしまっているから不思議だ。
そんな彩華を祈夜は優しく抱きしめてくれる。それがまた彩華は嬉しかった。
「なぁ、今日は帰らないだろ?」
「………ここに居てもいいの?」
「あぁ。ずっと居てくれ………あ、でも!」
「何?」
「………帰らないの意味はわかってるよな?」
「………わかってるよ」
「ならいいけど」
何となくムードがないような気がしてしまうけれど、彩華にとってはそれがまた彼らしくて笑みがこぼれる。
付き合ってすぐにそういう関係になるのはよくないのかもしれない。けれど、彩華の気持ちはもう彼に抱きしめられているうちに決まってしまった。
もっともっと、祈夜を感じたい。
ただそれだけだった。
彩華が落ち着いた後、祈夜はそのまま手を取り彩華を寝室まで連れていった。
リビングを出てすぐの部屋が寝室で、ベッドとクローゼット、そして間接照明だけのシンプルな部屋だった。大きな窓は、しっかりとカーテンが閉まっている。ベッドは彼が起きたままにしていたのか、乱れたままだ。
彩華をベッドに座るよう促すと、祈夜も隣に座り、また彩華にキスをした。
何度かキスをした後、口の中にぬるりとした感触を感じ彼の舌が入ってきたのがわかった。今まで感じたことのない感覚に、彩華は体を震わせる。彼の舌の動きに翻弄されながらも、体はまた熱を帯びて力が入らなくなる。
それを祈夜は察知したのか、優しく彩華を押し倒した。
彼のベットに横になると、一気に視界が変わる。祈夜は彩華を見下ろしながら、優しく微笑んで頬に手を添えた。大人の男性をこうやって見るのは初めてのだが、彩華は熱っぽくなった彼の視線、そして、濡れた唇を見てドキッとしてしまう。
年上の男の子のはずなのに、妙な色気を感じてしまったのだ。
祈夜は覆い被さるように彩華の首元に顔を寄せる。そして、首筋をペロリと舐める。彩華は感じた事のない、体の真ん中が痺れるような感覚と、足の付け根や腰が疼いてくるのを感じた。
知らない感覚に驚き、少し恐怖を感じ咄嗟に彼の肩に手を付いた。
「まっ、待って!」
「……何?……もう止められないんだけど?」
「……あの、私………こういう経験したことないから上手く出来ないかもしれないし、変な所とかあるかもしれないよ?」
「俺だって、そんなに経験あるわけじゃないんだ。お互い様だろ」
「でも………」
彩華が口ごもると祈夜はまた首筋や、鎖骨に舌を出しながらキスをしてくる。彩華はその度にビクッと体を震わせる。
「怖かったり、痛かったら言って……」
「う、うん」
「あと、気持ちよかったらイイとも言って欲しい。彩華の好きな所覚えたいし」
「………そんな恥ずかしい事言えないよ」
「知りたいんだ。だから、教えて」
「………努力します」
「………なぁ彩華………」
「うん?」
「大切にするから」
「………うん」
彼のその言葉と表情はとても優しくて、思わず涙がこぼれそうになった。
その夜の事は一生忘れないだろう。
こんなにも愛しい人と肌を触れ合わせる事が幸せで、彼を感じられる事が気持ちよくて、そして愛おしいと知った夜。
彩華と祈夜は手を繋いだまま、夜を過ごしたのだった。
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