葵羽ルート エピローグ






   葵羽ルート エピローグ





 その日は朝から雪が舞っていた。

 大人になってからは、雪が降っても喜べなくて、子ども達が夢中になって遊ぶのを見ながら楽しそうだなーと思い見ているだけだった。もちろん、一緒に雪だるまを作ったり、雪合戦をしたりと楽しんだりする。


 けれど、こうやって雪が降っているのを窓から見て「綺麗だな」と、景色を楽しむ事などほとんどなかったように思えた。



 「彩華さん、窓の近くは寒いですよ?」

 「あ………葵羽さん」


 

 背中にふわりと温かい体温を感じる。

 葵羽が後ろから抱きしめてくれたのだ。

 彩華は後ろを見上げながら名前を呼ぶと、葵羽はとても嬉しそうに笑った。



 「準備を終わらせないと。明日はクリスマスイブですよ」

 「ごめんなさい。雪がまた降ってきたので、つい見てしまって」

 「積もるほどではないので、よかったです。明日の朝にはどんな景色になっているのか、楽しみですが」



 葵羽はそう言って窓の外を見つめた。


 今は、クリスマスイブの前の夜。

 仕事帰りに葵羽の家に来ていた。明日は2人共仕事を休みにしていたので、ゆっくりと過ごす予定だった。


 少し前に、彩華と葵羽はクリスマスツリーなどの装飾類を買い込んで葵羽の部屋を綺麗に飾り付けしていた。けれど、忙しい日々でクリスマスツリーだけしか自宅に飾れていなかったのだ。そのため、前日になってしまったけれど、他の装飾を部屋に飾ったり作ったりしていた。



 「何を作ってたんですか?」

 「前に保育園で作った、神社のまつぼっくりを使ったツリーと………あとは………」



 そう言って、彩華はリビングのテーブルにあったものを取りに向かい、それを彼に見せた。



 「クリスマス用のガーランドに、画用紙でつくったサンタさんです!」



 そう言って、堂々と彼に差し出すと、葵羽はクスクスと笑っていた。

 保育園でよく作るものばかりだが、よくよく考えれば子どもっぽかっただろうか。

 葵羽は自分でも年上であるし、彩華だっていい大人だ。


 彼に見せてから恥ずかしくなり、「あ、あの………ちょっと張り切りすぎましたね…………子どもみたい」と顔を下に向けて、苦笑する。

 すると、葵羽はそんな事はありません。と笑った。



 「こういうホームパーティーみたいな事は家柄していなかったので、嬉しいです。それに、彩華さんがこういう事をしているのだとわかって、嬉しかったですよ」



 そう言って、彩華の持っていたガーランドとサンタの飾りを受け取った。



 「さぁ、これも飾り付けをして終わらせましょう」

 「………はい」



 彩華は彼の優しさに感謝しながら、パタパタと彼の後を追いかけた。

 今日から2人だけのクリスマスパーティ。今までにないぐらいに幸せな時間になるだろうと、彩華は今から心を踊らせていた。





 夕食の後。

 彩華と葵羽はお酒とお菓子をリビングのテーブルに並べ、電気を消してキラキラと光るクリスマスツリーを眺めていた。大きなブランケットを1枚、2人で足元に掛けながら、彩華は彼の肩に頭を預けながら、ボーッとクリスマスの雰囲気を楽しんでいた。


 彼の体温や香りを感じ、夜の時間をゆったりと過ごす。それが何よりも楽しかった。



 「彩華さん、酔って眠くなりましたか?」

 「いえ………何だか、こうしたくなってしまって………」

 「甘えてくるので、酔ってるのかと。そういうのは男としては嬉しいですよ」

 「酔ってしまうと素直になれるのかもしれませんね………時々お酒の力を借りようかな……」

 「何でも言ってくれていいんですよ」



 葵羽は、そう言って彩華の頭に唇を落とした。

 そして、自分の頭を彩華の頭に優しくくっつける。2人でクリスマスツリーを見つめると、葵羽が口を開いた。



 「少し前まで誰かとこんな風にクリスマスを過ごすなんて考えられませんでした。特に女性とはそんな関係になるなんて思っていませんでしたし、一生一人で生きていくつもりでした」

 「……葵羽さん」

 「けれど、彩華さんに会ってから全てが変わりました。この人ならば信じてみたい、そう思えたんです。……私の神社は縁結びの神様なのかもしれませんね」

 「ふふふ。そうですね」



 彩華は思わず微笑む。けれど、彼が言った事には賛成だった。

 あの場所で葵羽に会わなければ、きっとこの関係はなかったのだ。そう思うと、少し怖くなってしまうぐらいだ。あの場所であの日に出会えた奇跡に感謝してもし足りたいのだ。



 「そして、何回も言っていますが、私を選んでくれてありがとうございます」

 「私こそ、です」

 「これからきっと、喧嘩もたくさんするでしょうし、いろんな事でぶつかるはずです。………けど、そんな時は出会った日を思い出せば、きっと大丈夫。そう思います」

 「はい」

 「それに………あぁ、これは明日言うつもりだったので、今は内緒でした」

 「え?!……何の事ですか?気になります」



 何かを言いかけてその言葉を飲み込んでしまった葵羽を彩華は見つめ教えてくれるようにせがんだけれど、彼は「明日まで内緒です」というばかりだった。


 彩華は少しむくれて、「いじわるです!」と言うと、葵羽はクスクスと笑って、耳元で「そこも好きでいてくれてるんですよね?」と囁かれ、彩華は顔を真っ赤に染めた。



 「好きですけど、いじわるですっ!」

 「僕はどんな彩華も好きですよ」

 「………ずるい」



 彩華は、この年上の恋人にはいつまでたっても敵わない、そう思った。



 クリスマスイブの日、葵羽にお揃いの指輪と葵羽の部屋の合鍵をプレゼントしてもらい、彩華は泣いてしまう。


 そんな今よりもずっと幸せな未来が待っているのを、彩華はまだ知るはずもなかった。






        (葵羽ルート おしまい)

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