第4話 パーティーメンバー
にわかパーティーは既にテーブルで待っていた。ローブを着たマジックユーザーらしき男、胸当てと籠手を装備した女戦士、エルフとドワーフの4人。
エルフとドワーフを見たのは初めてだった。マジックユーザーも初めてだが、彼は人間なので違和感はない。
エルフとドワーフはデミヒューマンだが、ゴブリンやオルグと違い、人間と敵対していない種族だ。協力的というよりは中立的なのだが、彼らもゴブリンやオルグを嫌っており、『敵の敵は友』といった図式で協力的存在となっている。
彼らが冒険者となるのは、エルフはギルドが管理している魔法に、ドワーフは人間社会に流通している金貨に強い関心があるからだと聞いている。
エルフは人より小型の種族で、痩躯だが武具は全般使用できる優秀な戦士であり、然も魔法の習得が可能だ。
生態は謎が多い、森の奥で暮らしているが、そこを訪れた人間の話は伝わってこない。半神的な存在で自然との繋がりが深く、地方では『天候を操り豊穣を齎す』存在として信仰の対象になっている。
不老不死とも伝わっていて、外見は幼く若い姿の者ばかりだ。また肌色は地域によって異なり、薄い緑か青で何も透明感がある。
また死のエルフと呼ばれる北方に広がるツンドラに住む部族は、陶磁器のように肌が白く、エルフの中で唯一ゴブリンやオグルを使役して人間に敵対している。
ドワーフも人より小型の種族だが、エルフと違い恰幅のよい体格をしていて、男女問わず髭を生やしているという噂だ。
外見どおり屈強な戦士であり『勇気ある戦いによる死』を無上の喜びとしている。
普段は彫刻や鍛治仕事を好み人間社会とも一定の距離を置きながら、通商関係を結んでいる。人里離れた場所で、部族単位の暮らしをする。生息数が元から少なく、世界でも部落は20ヶ所程度しかない。
性格は頑固で偏屈な者が多いが、信頼する仲間には種族の垣根無く誠実で義理堅い。酒が好きで底なし、飲むと陽気になり下品な冗談を言い合って陽気に過ごす。
侮辱に対しては相手に死の償いを求めるほど誇り高く、卑怯な行いを嫌う。寿命は400歳くらいと伝わっているが、多くのドワーフは戦いの中で黄泉に旅立つので、確証はない。
マジックユーザーとは魔法を使い熟すクラスであり、魔法とは超常的な力を使役する技だ。その研究や管理はギルドが独占している、大国アスランドでさえ魔法については後進国だ。
魔法を使う者は、童貞または処女でなくてはならないと聞いたことがあるが、真相は分からない。
ローブを羽織ったマジックユーザーらしき男は立ち上がって歩み寄る。
「ギル ストームですか?はじめまして、私はアーサー ゼーウット、見た目を裏切らずマジックユーザーです」
続けてアーサーが、他のメンバーを紹介する。
「エルフとドワーフはご存知ですね、エルフは『キサの泉のニパ』、ドワーフは『双子ヶ丘のロブザフ』、そして彼女は戦士マッジです」
こいつ童貞なのかな?と頭に過ぎりつつ、俺は挨拶を返す。
「ギル ストームだ、早速だか情報の擦り合わせをしたい、いいかな?」
彼らも無駄を省くことに同意してくれた。俺が知っていることを話し、情報に不足や誤りがあれば補い訂正してもらう。
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ホスの村がゴブリンに襲撃されたのは3日前の夜、それまで村の近くにゴブリンは生息して居なかったため、村に夜営などはなかった。
最初の襲撃場所は、村の入り口にある番所だった。
番所は自衛団メンバーの男たちが交代で、一人宿直する。その夜の宿直者は、よく寝ていたようで、死体には応戦の痕跡は無く、事態を把握する前にゴブリンに殺されたようだ。
襲撃の物音で、番所近くの商店の使用人がランタンをもって外に確認に出ると、番所が何者かに襲われているを発見する。
使用人は村に流れ着いた若者で、ホスの人間ではなかった。以前住んでいた村が、ゴブリンに襲撃された経験があり、直ぐ様事態を把握。使用人は番所裏の鐘塔に登り、警鐘を鳴らす。
驚いたゴブリンたちは鐘塔を取り囲む。使用人が上からゴブリンを数えると、10匹確認できた。ゴブリンたちは鐘塔に登ろうとはせず、使用人に向かって下から石を投げてくる。石は使用人に数個当たり、いくつか傷になった。
使用人の行動は、結果ゴブリンたちの足止めになる。5分ほどで自衛団のメンバー12人が鐘塔に駆けつけた。
自衛団の敗因は戦闘の初期段階で光源のランタンを破損したことが理由だった。3分間の戦いで自衛団は壊滅した。
もしこの後ゴブリンが村の襲撃を続けていれば、自衛団を失った村は壊滅していたかも知れない。
しかしゴブリンたちは撤収してしまった。
そのため村は救われたが、ゴブリンたちの被害を知ることはできなくなった。現場にゴブリンの死体は無かったが、撤収時に回収して帰ったとも考えられる。
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襲撃の夜が明けて早朝、ギルドからゴブリンたちの情報や対策を得るため、伝令役の若者がナステビーに向かう。
若者が戻る前に、村では協議が始まる。結論は早く決まった。というより自衛団が壊滅した今、冒険者たちに頼る以外選択肢は無かったのだ。
村が用意できた報酬は50金貨、村人にとっては大金だが、熟練の冒険者を雇うには心許ない金額だ。
しかし躊躇していても事態は改善しない、村長はギルドに冒険者派遣依頼を申し込むため伝令役を送った。
入れ替わりに早朝ギルドへ送った伝令役が戻ってきた。ギルドからゴブリンの侵入を防ぐために村の入り口で『最低でも10人で取り囲める篝火を夜は絶やさず焚き続ける』ように指示があった。
またゴブリンの暗視を妨ぐため、村の道にも篝火を焚いて暗所はなるべく作らない工夫をするようにと加えて指示があった。
その日の夜から村人は交代で篝火を焚き、ゴブリンの襲撃は免れている。
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ホスの村から依頼があった翌日、ギルドはワイバーンの塔内にある伝言板に依頼内容を公示した。アーサー ゼーウットとニパは直ぐ様この仕事を受諾、その足でグリフォンの塔に行きロブザフとマッジを勧誘した。
4人は話し合いの結果、もう一人戦士の仲間が必要だという意見でまとまる。その日は夕刻近く、明日から仲間を勧誘しようという話しになる。
しかし念のためワイバーンの塔に行き、手頃な戦士が一人いれば紹介して欲しいと伝えてから宿に戻る。
夕食後、ゆっくりしているとギルドからのメッセンジャーが来て、ギル ストームという戦士を紹介されたのが、昨日の話だ。
「俺たちは村をベースにして、ゴブリンの寝ぐらを探索、発見して駆除する訳だ」
襲撃されたその翌日に村は、ギルドにゴブリン退治を依頼。依頼翌日にアーサーたちが依頼を受諾、その夜俺にメッセンジャーが来た、そして今日。
初動としては申し分ない。
「如何に早く、ゴブリンの寝ぐらを探すかがポイントだな」
俺の呟きに、アーサーが答える。
「地図を確認したところ、ホスの近くには大規模な森林が存在しています。恐らくはこの森の中に点在する、何かの洞窟を住処にしているのでしょう」
「運次第か」俺が少し悲観的に茶化すと、アーサーは首を振って話しを続ける。
「時間と労力の消費を軽減できる作戦案があるのですが、聞いてもらえますか?ギル ストーム」
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