もふもふの携帯
ぐっちぃ
モフくんと店長さん
とある携帯売り場では、珍しい店長と珍しい携帯がいた。その店長は携帯と会話をする力があった。その携帯はモフくんと呼ばれていて全身もふもふの毛に覆われていた。
「みんなー、開店だよ! 今日もよろしく」
((((はーい))))
ウィーン
「いらっしゃいませ、こちらへどうぞ」
(ハッハッハ、今日も売れなかったな、モフは)
(う、うん)
スマホのスマートくんにモフと呼ばれたもふもふの携帯はいじめられっ子のように頷く。
(スマートくん、そういうことは言っちゃダメだよ)
アイフォンのアイちゃんがスマートくんを例のごとく注意する。
(はいはい、アイちゃんはいいよな、余裕があって。不動の一番人気だから。まあ俺らもネームとしてはアイちゃんには負けるけど、数があるからな、数が)
(もう! そういうことじゃなくって。ガラパゴスさんも何か言ってやってください)
(ああ、わしはモフもいいと思うがな。わしらとは違う珍しさがあって)
(ガラパゴスさん、もう自虐ネタはやめてください)
アイちゃんにガラパゴスさんと呼ばれたガラケーはよく自虐にはしる。
「お疲れ様、みんな。ってなに言い合ってんの?」
(スマートくんがモフくんのことを⋯⋯)
「またかぁ、いつも言ってるけど、みんなにはそれぞれの良さがあるんだから。競争意識があるのは素晴らしい事だけど、相手を落として優越になるのはよくないよ」
(店長がそういうなら、ごめんな。モフ)
店長に叱られ、スマートくんは素直に謝る。
(ぼ、ぼくは全然気にしてないから大丈夫だよ)
(そんなんだから、からかっちゃうんだよ)
(あんたがそれを言うか! でも確かにモフくんはもっと自信を持ってね)
(うん、わかった)
(わしは自信満々なんじゃがのー)
「よし、仲直りできたね。えらいえらい。それじゃあ、今日は閉めるから、店番よろしく」
((((はーい))))
今日も店長はルーティンワークでお店を開ける。
「よーしみんな、今日もがんばろう」
((((おー))))
(まあ、おれが1番に売れてやるがな)
ハッハッハとスマートくんが上機嫌そうに笑っている。
ウィーン
「いらっしゃいませ、こちらへどうぞ」
スーツで身なりを整えたお客さんは会社の電話用だからと言ってガラケーを購入していく。
(わしの時代キター! もう会うことはないじゃろうが、元気でな! モフもがんばるんじゃぞ)
ガラパゴスさんはうひょうひょ言いながら新たな持ち主と店を出ていった。
(ちぇ、今日の1番はガラパゴスさんだったか。まあそろそろ自虐にも飽きてたしちょうど良かったな)
(そ、そうねぇ。でもまだガラケーの方がいいって言うお客さんもいるのね)
「そうだね、例えば、職業柄電話をよくするって人だと携帯は電話機能に特化させたいんだろうね。スマホだといろんな用途で使うから大事な時に充電がきれると困るし」
休みなく次のお客さんがやってくる。
ウィーン
「いらっしゃいませ、こちらへどうぞ」
(どうしたの? スマートくん、急に固まっちゃって。確かに美人なお客さんだけど、一目惚れでもしたの?)
(び、び、び、美人なんてもんじゃねえだろ)
「本日は機種変更ですか?」
「はい! スマホにしたいんですけど、種類がいっぱいあってどれがいいのかわからなくて」
「それではこちらの機種はどうでしょう。スマホが初めての方でも使いやすいと思いますよ」
スマートくんとアイちゃんの会話を聞いていた店長はさり気なくスマートくんを女性に勧める。
女性はスマートくんを手に取るとすぐに気に入ったようで、スマートくんの持ち主が決まった。
(あ、ありがとぅ。恩に着るぜ)
スマートくんは涙ぐんで店長にお礼を言っている。
「では、どうぞ。よいスマホライフを」
((スマートくんじゃあね))
(ああ、モフもがんばれよ。おれが、美人の、スマホ⋯⋯ひゃっほー美女のほっぺがおれを待ってるぜー!)
スマートくんは美人に買ってもらったことを自覚した途端に豹変した。
(スマートくんのスケベ)
ウィーン
「いらっしゃいませ、こちらへどうぞ」
(え、やばい、ちょーイケメンなんですけど)
(アイちゃん?)
アイちゃんの変貌ぶりにたまらずモフくんがつっこむ。
(え、これやばくない、やばみー、テンションあげみざわ)
(ちょ、アイちゃんどうしたの? 無理やりギャル語つめこんだみたいになってるけど)
(はっ、私としたことが、モフくん今のは聞かなかったことにして)
不意打ちのイケメン登場に取り乱していたアイちゃんが我に返る。
(う、うん。わかった)
アイちゃんがときめいていたイケメンは根っからのMacユーザーのようで、真っ先にアイちゃんを選んだ。
(やった! あんた見る目あるじゃない。大事にしてちょうだいね)
持ち主がイケメンだと人格変わりそうだなと店長は密かに思った。
(モフくん、じゃあね。私、応援してるから)
(うん、がんばるよ)
(はぁ、みんな売れちゃった)
「そうだね、今日はお互いの相性がいいお客さんばかりだったからね」
(ぼくと相性のいいお客さんなんているのかな)
「もちろんいるよ! いろんな人がいてそれぞれの好みを持ってるんだから」
そうこうしているとすぐにお客さんが来た。
ウィーン
「いらっしゃいませ、こちらへどうぞ」
「本日は機種変更ですか?」
「はい、なんかおすすめの機種とかありますか?」
「ありますよ! 是非こちらを紹介させてください!」
店長は迷わずモフくんを手に取る。
「これからの冬の時期、このもふもふが常にあると触ってるだけで気持ちいいですし、カイロのように暖かいです。万が一落としてしまっても持ち前のもふもふで傷一つつきません。非常に便利だと思います」
「お、おう。確かにそれはいいな」
お客さんは若干引き気味ではあるが、気に入ったようだ。
「それでは、こちらの機種でよろしかったですか?」
お客さんは店長に進められるがまま、モフくんを購入した。
(ありがとう、店長さん)
「ありがとうございました! (モフくん、じゃあね)」
モフくんが売れてから数日が過ぎたある日、モフくんの持ち主が再び来店した。
「いらっしゃいませ、こち、お客さんどうされました?」
店長は興奮気味に入ってきたお客さんに気圧されていた。
「確かに言ってたどおりの性能だったし使い心地もよかったよ。ただ」
「ただ?」
「静電気がヤベーよ。電話するたび耳付近の髪が逆立つんだよ。これどうにかならねぇ?」
「申し訳ありません。どうにかと言いますと?」
「返品したいんだけど」
(うっうっうぅ。店員さんごめんね。ぼくが悪いせいで謝らせちゃって)
モフくんは自分の至らなさが店長に迷惑をかけたことを悔やんでいる。
「そんなこと気にしないでいい。むしろモフくんを売ってやりたいと思って相手のことも考えずに強引に行き過ぎた私の責任だ。ごめんなさい」
店長は謝ると意を決して告げる。
「それじゃ僕の携帯になるかい?」
(うぅぅぅ、シクシク、
⋯⋯⋯⋯ぼくも美人のお姉さんがよかった)
もふもふの携帯 ぐっちぃ @gutty_128
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