ヒナシアさんといっしょ~涙の一二〇〇〇~
……あっ、来た来た! あれだけ急かしたのに、何でノコノコ徒歩で現れてやがんですか!? それと、ほら……アレですよ、アレ。
えっ、何かって? 惚けないで下さい! 一〇〇〇〇ゼル! いや、仕方無いでしょう、今更銀行に行っている時間は無いし、他の面子も帰ろうとしているし! 私の話術で場を持たせたんです、いや本当に大変でしたよ――って、そんな事はどうでも良いんです!
早速戻りますよ、観客は離れた位置から見ていれば大丈夫ですから! え? あぁもう分かっていますって、勝ったら二割――すいません、五割ですよね!
いやぁどうもどうも、大変お待たせしました! はい、これ、参加料の一〇〇〇〇ゼル……それと、次が最後の一局戦という事ですよね。皆さんにお願いがありまして……えぇそうなんです。実は私の友人がですね、まだ《マージャン》をやった事が無いと、そういう訳なんです。
……そうです! その通りです! さっすが書店長は察しが早い! この一局だけ、見学をさせてあげたいんです。…………ありがとうございます! やっぱり持つべきはマージャン仲間ですね、職業も地位も関係無し!
ささ、アナタもそこに座って下さいな。あぁ、そこは駄目です、私の真後ろに来て下さいね。他人の配牌が見えちゃいますから。
やり方は道すがら教えた通り、「四つの三枚組」と「一つの二枚組」、計一四枚の牌が出来たら上がり……という訳なんですが、まぁこれを無視する役もある訳で……。詳しい事は、後で酒場に行ったら説明しますよ。
あっ、これは失礼。親決めですね。
さぁて
えっ? マージャンの歴史? アナタは何も知らないんですねぇ。まぁ私も詳しくは知らないけど……昔々、バクティーヌに流れ着いた旅人が、「前の世界で遊んでいた」とか何とか訳分かんない理由で作ったんですって。
役も多いし、耳慣れない用語ばかり。気軽に遊ぶ事が難しいんですが……だからこそ――マージャンを楽しむ人間同士は強い結束が芽生える気がしますねぇ。「俺とコイツは分かり合える」的な?
あぁ、いえ、そのぉ……拍手は止めて下さい。恥ずかしい……。
い、いよぉーし! 混ざったから山を作って――え? 一気に持てるのが凄いって? ま、まぁ? それなりに練習したし? これぐらい出来なかったらやっていけないし? エヘヘ、もっと褒めろって感じ? 後はサイコロ振って、と……。
……配牌も出来たし、それじゃ皆さん! 恨みっこ無しの一局戦、お願いしますね!
(…………索子が伸びやすそうだなぁ。萬子もすぐに順子へ持って行けそう。高い手を狙いたいけど、大人しく手早く……。ここは独りぼっちの
(……ほほぉ、字牌を切っていくのかぁ。あっ、中が……何か嫌だなぁ、早めに中が切られると、ちょっぴり切なくなるなぁ)
(さて、私の二巡目はどうなるかいっと…………げっ、四筒……! 何で、何でなの!? 独りぼっちだから仲間を増やそうとしたの!? とりあえず切るしか無い……! 進め……! 茨の道を……!)
(……うぅ、發を切られた……皆そこまで字牌に頼らないって事……? 中が二枚切られた……殆ど使い物にならない……自風も切られた……)
(正直、やり方を憶えたのは最近なんだよぉ……戦術もよく分からないし、唯あんまり字牌を持て余していたら危険なぐらい……うぅ、こんな事ならお腹痛いって嘘吐いて逃げれば良かった……)
(
(ヒィイィイィ……! 大した動きも無く、気付けば藻掻くような染め手だけ……! 下家は白をポンして余裕じみた顔をしやがる……! そんな特急券は私が燃やしてやる!)
(…………ヤバいヤバいヤバい! よく分からないけどヤバい! 他家は皆鳴いているけど、私は一向に鳴かない、ってか鳴けない! 悪い事じゃないのに、どうしてか不安になるよぉ……!)
(引いては捨て、引いては捨ての繰り返し……! 音の重なり……精神呪術の類い……! 手汗が凄い……!)
(っ? ――き、来た! これしか無い、もう当たって砕けろ……ヒナシア!)
(ヤバっ、点棒が妙に飛んで行った……! いや落ち着け私……和了牌を間違えるな……! 五萬と三索……これだけを見付けろ……! あぁ、皆の手が速い! 吐きそう……)
(恐い、恐い恐い恐い! 捨てるだけしか出来ない自分の手が恐い! じゃあ何で私は立直したのぉ!? ぎゃああぁあ! こえぇえぇええ!)
(来い、来い来い来い来い来い来い…………!)
(っ! ち、違う違う! 落ち着け私ぃ……それは二索だぁ……!)
(うええぇぇぇん……! 恐いよぉ! 内なる幼女が目覚めるよぉ……!)
(………………っ? あっ――あはぁ……?)
そっ、それ……!
リョン! リョン! いや違います、ロン! ローン!
上がれた……! 久しぶりに上がれた……! 後は、後は裏ドラが――。
…………………………。
いよっしゃあオラァァァアアァン!
載りました! 三枚、持ってます! 七萬! 刻子です! 加えて赤ドラ……虎の子五萬……!
一二〇〇〇ッ……! 勝ち取りました……! 魔女ヒナシア……! 粘りに粘って一二〇〇〇ッ……!
負けていれば今月の生活費が吹き飛ぶところでした……!
今日は贅沢します、いえ、大贅沢しますよぉおおぉお!
さぁ、アナタも付いて来て下さい! 大丈夫! 馴染みの酒場があるのですからね、アーハッハッハッハッハ! ゴホッ、ゲホッ!
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