ヒナシアさんといっしょ~特別な夜をアナタと~

 ……あっ、ようやく来ましたね?


 淑女を寒空の下で待たせるだなんて、アナタも酷い人ですね。


 ううん、雪は振っていないし、今日はそこまで寒くないかなぁーって。ウフフ、何故でしょうね? どうです? たまには私も、こういうコートを着るんです。似合っているでしょう。そうですともそうですとも。


 さぁ、行きましょうか。一年に一度の、特別な日……。私、今日という日をずーっと待っていたんです。うん? 鞄が大きい? 中身は秘密です。


 私、頑張りました……無駄遣いもせず、贅沢もせず、勿論……悪い事なんて一切せずに。


 おや? 見て下さい! 赤い服を着たおっさんが何か配っていますよ? ねぇねぇ、一緒に貰いに行きましょう?


 えっ、恥ずかしい? ちょっとちょっと……今更恥ずかしがる事ないでしょう?


 いーです、私が貰って来ますから――。


 ……エヘヘ、お待たせしました。はい、アナタの分。私もちゃーんと貰っていますから、ご心配無く。


 うん? これは何って?


 ここで教えてあげても良いですけどぉ……ほら、もっと暖かくって……に行きたいでしょう。私も入りたいなー、なんて。


 さぁさぁ、こっちですよ。しーっかり付いて来て下さいね?




 いよぉーし! やって参りましたよ今年も!


 何? 五月蠅くって聞こえない? 耳貸して、ほら!


 ここはですよ! 一年に一度! 一回こっきり! 無茶苦茶にどでかいお金が稼げる!


《一年回し》の会場です! それも知らないで来たんですか!?


 いやぁーうるせぇなこの会場! 入場規制してくれっての! ほら、見て下さい! すり鉢状のところに、あそこのでっかいを落とすんです!


 後は、ほら! さっき貰った券! 一から一二までの番号が書いてあるでしょう! 出た数字と合致すれば、掛け金のも貰えるという訳!


 大盤振る舞いも良いところですよ! ヤバいんですとにかく! この日を逃したら、何の為に生きて来たか分からないって!


 あっ、賭けの受付が始まった!


 アナタは何ゼル賭けるんですか! えっ、五〇〇〇? カァーッ! 話聞いていましたかちょっとぉ!


 サイコロは一二面体、一年も一二ヶ月! この意味が分かりますか!


 溜まった煩悩! 淀んだ運気! 勝手に付いたお腹の脂肪! ぜーんぶここで落とさなくちゃですよ!


 私はいきますよ、限界額まで! その額、何と、一〇〇〇〇〇ゼル!


 借金――いいえ、払わなくちゃならない経費、実に二ヶ月分!


 これを惜しげも無く賭ければ! あらゆる流れは、このヒナシアに向いて来るっちゅーもんですわ!


 アナタの券は? ? アッハッハッハ! いえ、失礼失礼! 実はですね、過去一〇年間の統計を見れば! 一から六の数字は四回!


 逆に! 私の券……、七から一二までの数字が出た回数は六回!


 し・か・も!


 八番がズバリ出た回数は――二回! ちなみに、三番が出た事は……一度も無いんです。悲しいですね、クスン。


 まっ、これは赤いおっさんが配ったから仕方ありません。


 全ては決定されているのです、ええ、されていますとも! では早速、賭けて来るとするかな! あっ、アナタの分もやってあげますよ。えーっと、一〇〇ゼルでしたっけ?




 ――はい、お待たせしました。これがアナタの賭券と、こっちの勝利の波動ビンビンな券が私と。


 ようやく他の人達も落ち着いて来ましたねぇ、大声出し過ぎて疲れましたよ。淑女は叫ぶものではありませんからね。


 あっ、あとこれ、どうぞ。身体を温める薬草茶です。家で煎じてきたんですよ。何ですか、その目。水筒を持ってくる魔女は変ですか。


 ……美味しい? あ、あーそうですか。飲み過ぎたらおしっこ漏れますよ。


 はぁ……温まりますねぇ。いやー、今年は色々ありましたが、来年こそはスパッと借金返し――オホン、面倒事を終わらせたいものです。


 あぁーあ、家に帰ったら金塊でも生えていないかなぁ……おっ!? そろそろ始まりますよ! ほら立って立って! サイコロが回る時は立つのが常識です!


 五月蠅い! 耳が千切れそうです! えっ!? 何ですって!? カンダレア一可愛いって!? あっ、違います!?


 あぁっ! 回った! 回った! 回った回った回ったぁああぁ!


 すっご! ええ凄いんですよ! 毎年です! 観客の足踏み! 地鳴りのようでしょ!


 今年は去年より多く回っていますねぇ! おー回る回る回る!


 ……そう! そうそうそうそうそうそう!


 そのまま止まれ! 止まれぇ! あぁ違う違う!


 あっ、いやそうそうそう! そうですそうです、それでいーんです!


 行け! 行け行け! 行けったら行けぇええぇっっぇえええ!


 いよぉーし! いよぉーし! ゴホッゴホッ! オエッ!


 …………ん?


 ちょちょちょ、ちょいちょいちょい! 何だ、何が起こっているんですか!?


 あの周り方は統計に無いです! いや違う違う!


 誰だ! 誰が地勢魔術を使っている!? あの女ですか!? あっいやでも杖を持って――。


 とっ、止まっ……。


 あっ――。




『皆々様、一年に一度のバクティーヌ名物、お楽しみ頂けたでしょうか! 唯今、《一年回し》の出目が確定致しました! ようやく顔を見せてくれました――その番号は三番! 番号は三番! 今年の出目は三番と相成りました!』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る