ぎゃんぶる、ちゅーどく、そしてヒナシア。
文子夕夏
私とアナタのお話です
ヒナシアさんといっしょ
こんにちは! 私、ヒナシア・オーレンタリスって言います。
今、アナタの意識に直接話し掛けてまーす。嘘です、出来ませーん。
……さて。突然ですけど、アナタは《魔女》って知っています? そうです、魔術を使ったり、箒で空を飛んだり……詳しい事は分かんないけど、特別な修練を積んだ女の人って事!
実はですねぇ、ウフフ。私も――魔女なんですよ!
ちょーっと事情があって、今は杖を公的施設に預けてはいるけど、れっきとした素晴らしい魔女です。
え? 辺りが騒がしい? ここは何処かって? よろしい、お教えしましょう――。
ここは由緒正しき、バクティーヌ特別区にあるフラシカ
実はですね、これから始まる最終レースがですね、とんでもなく固いレースとなっているんです。
一番人気の「ネズミバクシンオー」号のオッズは、何と「1.5」倍!
分かりますか? 一〇〇〇〇ゼル賭けたら一五〇〇〇ゼルになるんですよ!
私も度胸の女、この度、貯金と生活費を合わせて――実に三〇〇〇〇〇ゼルをですね、「ネズミバクシンオー」の単勝に託そうと思います!
……さて、見て下さい。ほら、この通り、単勝
さぁさぁ、こっちですよこっち。私の香りを辿って付いて来て下さいな。
今日は特に混んでいますが、まぁどうでも良い事です。えーっと……あ、あれですよ。背中に爆弾のような模様を背負っている、猛々しいネズミバクシンオー!
うん……? ちょ、ちょっと荒っぽいですが、それは彼なりにやる気満々という訳です。私は分かっています、落ち着きの無さは闘争心であると!
おっと、そろそろ客席に行きましょう。あっ、双眼鏡使います? 私は視力が半端ないんで要りませんから。
……あはぁ、ソワソワしてきたぁ……。この出走を待つ間ってのは、何とも言えない……不安と期待の螺旋に狂いそう……! おや、何を心配しているんですか。任せなさいって、私、彼が新鼠戦に出た頃から応援しているんですから。
あぁ、いつ聴いてもウットリしますねぇ、この発走曲は……。私に勝てと言っているようです……。
ほら、ゲート係が来ましたよ。
ヤバっ……何か胸が熱い……吐きそう……。
五、四、三…………開きました!
ふっ、ハッハッハッハ! 見て下さいよあの逃げっぷり! そうですそうです、それで良いのです! 彼は素晴らしい逃げの血統ですからね、やはり王者は誰も寄せ付けぬ貫禄と持久力、それに威圧感が必要ですね!
うん、うんうんうん! そうそう、そこを、そうそう、そのままグーッと出て来て、そうそう! そうです、来た来た来た! 来た来た――うん!?
何、何!? 何なの!?
ちょ、ちょっとあの鼠狡いです、斜行してる斜行してる、してるって!
バクシンオーそういうの気にするから、ねぇ止めて! おい、審判! 止めて下さい、止めて下さいって!
おい止めろ! いやマジで止めろって! やだ、やだやだぁ! 私のお金が! 勝って、勝って下さいバクシンオー! 何でもするからぁ!
行って行って行って行ってぇええぇええx! 逃げて逃げてぇええええぇえ!
あっぁあぁあぁああっぁ! わぁあぁああぁ…………。
すぅ……ふっ……ひっく…………うぅ……うぅ……うえぇ……。
…………ズズーッ。ゴホン。んんっ。ゲホッ、ゲホッ!
はぁ…………見ていました? 可哀想な私の事……。
ねぇ、今、持ち合わせ……どのくらいあります?
知っているんですよぉ? アナタは――。
二、三〇〇〇〇くらいポーンと貸せるぐらい、お金があるって事……。
ウフフ……ほーら、ちょっと財布を開けて……? お姉さん、すぐに開いちゃう人……嫌いじゃなくってよ……?
……え? 貸さない? 何で? 絶対倍にして返すのに? 信じない? あーそう、そういう人なんですねアナタは。
せっかく色々とシテあげようと思ったのに?
嘘を吐くな? ちょっとちょっと……私が嘘を吐くような女に見えます?
私、魔女ですよ? れっきとした魔女なんですぞ?
は? 魔術を使ってみろ? いやそれとこれとは、杖だって無いし――何ですか、何ですかそのバカを見る目は! 私だってねぇ、杖さえあれば猛獣の一匹や二匹、簡単に一捻り出来ますよ!?
あぁもう良いですよ、アナタになんか借りなくたって、私はお金を増やせるし、生活も困らないし!
ふんだ、アナタなんか帰れ帰れ!
財布だけ残して帰れ!
……へっ? 私はどうするかって? 何を訊くかと思えば、ですね!
私はね――この後、他の場所で、タンマリ稼いでから帰りますよーだ!
参ったか、このケチ人間!
そうと分かったら失せなさい!
シッシッ!
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